表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/173

第157話 破邪の光炎 1

《いゃああああああ!!!》

 ユーティアが絶叫する。


 部屋が暗かったために、最初は気が付かなかったのだ。

 だがすぐに部屋の暗さに目が慣れた。

 そして凄惨な光景を目の当たりにすることとなる。


 目の前に転がるのは三人の男の死体。

 そしてその亡骸に、異形の魔物が数匹群がっている。


 暗緑色の皮膚に細く長い手足の人型の魔物。

 頭部からは山羊のように湾曲した角が2本伸び、金赤色の眼球は闇に浮かぶ人魂のように微かな光を発する。


 その魔物共は今扉をブチ破って入ってきた俺達を気にする様子も無く、まるでハイエナのように男達の死体を貪っている。


「そいつらはね、卑しくもアタシの事を嗅ぎ回ってたもんだからコイツらに処分させたってわけよ! アタシに歯向かう馬鹿も役に立たない手駒も、こうして漏れなく化け物の胃袋に収まってもらうわ! どう? ゴミには相応しい末路でしょう?」

 部屋の奥の闇からカーラが現れる。


 その姿は、ベールこそ被っていないものの昨晩俺を襲った時と同じ黒のドレス姿。

 カーラは怪物の近くで足を止め、その頭を撫でる。

 まるでペットを愛でるように。


「そうか、こいつらザスクとその手下か!」

 俺は今さらながらに、すでに原形を留めていない死体の素性を理解する。


 俺達より先にカーラの元に辿り着いたものの、返り討ちにあったということか。

 だから手を引くよう忠告したのに、バカが!


「貴女は……正気なのか! これは魔族なのだろう!? 魔族を使役するなど、王国に対する明確な反逆行為! 王国と全エクシードを敵に回すつもりか!?」

「わかってないわねルーンフェルグ。だからこっそりと飼ってるんだろうが! そして目撃者もこうして漏れなく消している。だからオマエとそのクソジャリもここで消えてもらうしかないね! オマエも失踪事件を追ってるクチかい? せっかくアタシが目にかけてやったというのに馬鹿げた判断で人生を棒に振るなんて、所詮は父親と同じ出来損ないってことかね? 悪いけど、逃がしゃしないよ! 退路は絶たせてもらったからね!」

 カーラは蛇のように口の端を吊り上げる。


 振り返ると、俺達が入ってきた入り口外側の通路は黒い壁のようなもので塞がれていた。

 闇がうねるように広がる境界面。

 これもゲートの一種だろうか?

 いずれにしても触れないほうがよさそうだ。

 亜空間に飛ばされちゃたまらないからな。

 今にして思えば、カーラ宅前で三バカを消したのもこの手のゲートだったのかもしれない。


 そして俺の目の前のこいつらは魔族……なのか?

 たしかに普通の魔物とは雰囲気が違う。

 存在そのものに邪悪性を感じる。


 見た目だけならミラージュの暗黒風魔法(あんこくふうまほう)も大概だ。

 だが俺は、ここで両者の大きな違いに気が付く。


 それは臭いだ。

 ミラージュの暗黒風魔法はビジュアルこそエグいものの、臭いは無い。

 それは生物のように見えても実際には実態を持たない精霊魔法だからだろう。


 だがこの魔族共は異臭を放つ。

 腐った肉と錆びた金属が混ざったような不快な臭い。

 ライアスが言っていた血に混じった別の臭いとは、この魔族のものだったのだろう。


「それともう一つ訂正すると、使役してるって表現は適切じゃないねルーンフェルグ。アタシの魔法とギフトの能力は戦闘向きじゃない。だから戦闘要員としてコイツらと手を組んでいる。アタシの美と力を増すには乙女の血が必要。コイツらは血を吸った後の残りカスだろうが男だろうがなんでも食べる。いわば共存共栄のビジネスパートナーってわけさ!」

 カーラは、エクシードであるライアスを前にしても怯む様子もなく(さら)ける。

 よほどこの魔族共の戦闘力に自信があるのか?


「ギフト……ということはミスランダリア、貴女もユニオンだったということだな。そのギフトはどういう能力なのだ? それが失踪事件とどう関係あるの──」

「そんなことまでカーラがペラペラしゃべるワケねーだろ! 奴の体に直接聞くんだよ!!」

 こんな時まで優等生か!

 自分の能力まで説明するバカがどこにいるってんだ?

 俺は前方に踏み出しながら呪文を唱える。


  『 灼 熱 光 矢(メリオス) !!』


 今度は手加減無し!

 連続して爆ぜる爆炎に、カーラの体は粉々に吹き飛ぶだろう。


 だが飛び散ったのは血や肉ではなかった。

 カーラが居た場所から、無数の黒い物体が舞い上がる。


《ななっ! あれは何ですかリュウ君!?》

「やはりな、乙女の血を好む魔物なんてそうはいない。あれは蝙蝠(こうもり)……つまり奴はヴァンパイアのユニオンだったってわけだ!」


 ヴァンパイア──不死に近い肉体を持つアンデッドモンスターの頂点。

 攻撃を加えても蝙蝠へと変体することによって、ダメージが入らないようだ。

 あの黒ドレスごと、今はカーラの一部なのだろう。


「そのバンパイア……とかいう魔物がカーラのユニオンの正体なのかミスシェルバーン?」

「坊ちゃんまで知らんのか? まったく無知蒙昧が過ぎるな!」


 この世界の住人は、意外にも魔物の知識が少ない。

 多くの魔物がすでに姿を消しているか、人間とは隔絶された場所で生活しているためらしい。

 とりわけヴァンパイアのようにただでさえ希少性の高い魔物だと、その生態はほとんど世に知られていない場合も多いようだ。

 だからユニオンとして顕在しても、それが何の魔物なのかわからないケースもあるそうだ、とはミラージュから聞いた話だが。


 しかしこれで合点がいった。

 カーラの取り巻きの男達、あれはギフトの能力で魅了されていたのだろう。

 ヴァンパイアの視線にはチャームパーソンの効果がある。

 セイレーン程の絶対的な支配力は無いものの、特定の相手にはそれなりの威力を発揮しているようだ。


「しかし蝙蝠化にチャームパーソン、おまけに血まで吸うとは完全に吸血鬼そのものじゃないか!」

 このギフトの能力、いろんな意味でエグ過ぎやしないか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ