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第156話 深く静かに潜入せよ 3

「ふざけるな! 図に乗るのもいい加減にしろ下衆が!!」

 ライアスがチュリスを突き飛ばす。

 床に落下したチュリスの体が、ボールのようにゴロゴロ転がる。


 いや、落ちたのはチュリスだけではなかった。

 ライアスの胸元からこぼれた二つの柔らかい物体。

 あれは……ライアスの女装用胸パット!

 どうやら今の揉み合いで外れたようだ。


「んおお?? お……男……とな? しかもおみゃあは……ライアス・ルーンフェルグじゃなかぁ!!」

 チュリスはガクガクと震える太い指でライアスを差す。


 どうやら揉み合った時に三つ編みまで解けたようだ。

 本来のストレートヘアに戻り男だということも判明すれば、知っている人間ならばライアスだとわかるだろう。


「見破られたからには仕方ない! 洗いざらい吐いてもらうぞチュリス・アルノイア!」

 ライアスはドレスを脱ぎ捨てる。

 その下は裸……というわけではなく、体に密着したチャコールグレーの五分袖シャツにハーフパンツを身に着けていた。

 こうなることも想定して用意していたようだ。


 しかし見破られたからにはって、お前が我慢しないからバレたんだろうが。

 ディープキスぐらい耐えろよ腰抜けが!


「おんのれぇ~! カーラ様に気に入られているだけでも目障りだってーのに、僕ちゃんのお楽しみタイムまで台無しにするなんてぇ言語どーだん! で~も、ここで消しちゃえばいいっか! おまえさえいなくなれば、カーラ様も僕ちゃんと結婚したいと言い出すだろうからね!」

 どういう理屈でそうなるのか意味不明だが、チュリスは不敵な笑みを浮かべてベッド脇のサイドテーブル上のボタンを押す。


 するとすぐに入り口から10名近い短刀を持った黒服の男達が現れ俺達を取り囲んだ。

 こいつらがメイオズ商会の連中か?


「男は殺してかまわ~ん! おにゃのこたちは僕ちゃんがエッチーな尋問をするんだから傷つけずに捕らえるんだぞーん!!」

「ぶっぶーそんなのお断りでーす! やっちゃえポチ! にゃんにゃん爆弾!!」

 飛びかからんとする黒服達に向けて、マリオンが手をかざす!

 するとポチの口からポコポコと拳大の黒い球体が次々と吐き出される。


 球体は男達の足元まで転がると爆発!

 殺傷力はないようだが、至近距離に居る黒服達は紙人形のように吹き飛ばされる。


「説明しよう! にゃんにゃん爆弾とは、爆発に巻き込まれるとかなり痛ーい爆弾なのだ! ただ……魔力の消費が大きいのがタマにキズにゃんだにゃ~」

 マリオンはぐてっとした表情で息を切らせる。

 ポチの操作には長けているが、こういう飛び道具的な使い方は苦手なようだ。


「血に飢えし地獄の処刑人よ! 愚かな咎人(とがにん)の四肢を引き裂き頭を捻じ切り、恐怖に歪んだその首を我に差し出せ!」

 そしておぞましい文言の呪文が続く。

 術者が誰か……なんて確認するまでもないだろう。


  『 ブラッディ・ナイトメア!』

 ミラージュの前方に二つのサークル状の影が現れる。

 そしてその影からそれぞれ黒い人影が伸び上がってきた。

 

 人影の身長は二メートル強と大型。

 体のあちこちにギョロリとした目玉や牙の生えた口が蠢く。

 以前ミラージュが使った影を人型に立体化したような魔法だ。

 影は金切り声のような奇声を上げる。


「うわぁああ!! 悪魔だあああ!!」

「こんな醜い化け物を従えるなんて! ダークエルフか!!」


「誰がダークエルフじゃ! それに此奴らだってよく見れば愛嬌あるじゃろう! じゃろ? ……う〜ん、ちとムリかの?」

 黒服達の反応に怒りつつ、一人ボケツッコミをかますミラージュ。

 一応あのビジュアルに問題があるということは自覚しているようだ。


「ここは妾達が引き受けよう。男連中はランダリア嬢を追うんじゃ! この騒ぎに感付いて逃げられる前にの!」


《リュウ君!》

「わかってるよ! ここまで苦労したんだ。300万を逃がしやしないさ!」

 もちろんすでに俺はユーティアとは入れ替わっている。

 黒服達がこの部屋に押し掛けてきた時点でな。


 ライアスも女子供を残すことに気が引けるのか躊躇する表情を見せたが、この二人なら対応できると判断したのだろう。

 意を決したように俺と共に部屋から飛び出す。


「しかし、二階にはもう他に怪しい場所はないな」


 俺達は三階へと駆け上がる。

 三階にも人影は無いが、長い通路が交差し複数の部屋がある。

 面倒だがしらみつぶしに探すしかないか?


 だがライアスが急に足を止める。

 そして右に延びる通路の奥の扉をジッと見る。

 あそこは……位置的にはこのフロアで最も奥まった場所にある部屋だ。


「微かだが……匂いがする……血と、不快な何かが混ざったような匂いだ……」

「なるほど、ではここは優秀な警察犬君の鼻に頼ってみるとするか!」

 俺はその扉へと近づく。

 扉に鍵が掛かっていたが、俺は魔法で扉をブチ破る。


 この部屋も照明は少なく薄暗かった。

 そしてやはり家具などは無さそうで、かなりの広さがありそうだ。

 倉庫……だろうか?


 そしてその暗さに目が慣れる前に、部屋の奥から女性の声が響く。


「またなの? 今日は不作法な客が多いったらないわね。この場所も早くも捨て時かしら?」


 その声は、まさに探していたカーラのものだった。

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