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第154話 深く静かに潜入せよ 1

「んぁ? 見ねぇ顔だなおめぇら?」


 やはりというか、入り口で止められた。

 白髪交じりの初老の守衛は、俺達のことを胡散臭そうにジロジロ眺める。

 さすがに素通りできるほどザル警備ではなかったようだ。


「あの、私達ここで働きたくて面接をお願いしてたんですけど、聞いて……ませんかねぇ? あははっ」

 ユーティアの白々しい演技。


 もちろん面接の予約などしちゃいない。

 だがいざという時はこう言って誤魔化すと事前に打ち合わせをしていたのだ。


「面接? 聞いちゃねぇが……背がでけぇのとパイオツがでけぇのはともかく、おめぇ本当に成人かぁ? というかそこのおめぇ! どー見てもアウトやろ!」

 背が低かったため今まで見落とされていたらしい。

 守衛は初めてミラージュを見つけると、大口開けて驚く。

 さすがに小学生相当の女児が同行するのは無理があったようだ。


 だがミラージュは不敵な笑みを浮かべると守衛の目の前まで歩み、片手を腰に、もう片方の手で髪をかき上げなんかセクシーぽいポーズを取る。

「わかっておらぬな御仁。美女とは見掛けでは量れぬ魅力を秘めているものよ。妾の場合はその内の一つに年齢じゃな! 見ての通り妾はエルフ。つまり見た目で判断してはヤケドするということじゃ!」

 尖った耳を晒しながら、守衛を悩殺するように迫るミラージュ。


「ふーん、エルフねぇ。なら見た目はともかく実年齢は条件を満たしてるってことかい? しっかし法的にセーフとしても、こんなチンチクリンを好む客いるのかねぇ?」

 ミラージュがエルフと判明し、一応は守衛も納得した様子。


「いや、そーでもねぇか。おめぇら知ってっか? 最近話題のライアス・ルーンフェルグてぇエクシードいるやろ? そのライアス・ルーンフェルグが、実は筋金入りの小児性愛者てぇ話があんだぁ! 世の中にはああいう隠れた変態が一定数いるんだろなぁ!」

 ビクリと、守衛の言葉にライアスが反応する。


「そ……それは、なにかの間違い……ではありませんでございましょうか?」

 律儀に女性のフリを続けるライアスが、汚名を(そそ)ぐべくなんか変な丁寧語で反論する。


 しかしもうこんな所まで昨夜の話が伝わっているとは。

 噂とは恐ろしいものである。

 元凶の俺が言うのもなんだが。


「いやぁ、俺ぁ見抜いてたぁぜ! 自慢にゃならねぇが、この仕事が長いもんだから目が利くのさ! ありゃあ真正のロリペド野郎の顔だ! 澄ました顔をしちゃいるが、ドス黒い欲望を抱えた類い希な変質者よぉ!」


「おのれ! そこまで愚弄するか!!」

 さすがに我慢の限界を超えたようだ。

 守衛に食って掛かろうとするライアス。

 だがそれを見越していたミラージュが止めに入る。


「おっとすまんの、此奴はそのライアス・ルーンフェルグの熱心なファンなのじゃ! その噂のことで少々気が立っておっての!」

「そーかい、しかし別嬪なのに奴の好みと正反対とは、心中察するねぇ。と……それよか面接だっけな? この先進んで右側に事務所があるから、詳しくはそこで聞いてくれるかぃ?」

 守衛は通路の奥を指差す。


 なんだかんだで関門は突破できたようだ。

 先んじるマリオンをユーティアが追い、その後ろでまだ誤解を解こうとするライアスを引っ張るミラージュが続く。


「じむしょじむしょ……と、あ、ここかな?」

 マリオンが足を止めた扉には、たしかに事務室と書かれた金属製のプレートが貼り付けられている。


 だがミラージュはフルフルと頭を横に振る。

「ニャーコ、妾達は本当に面接を受けに来たわけじゃないのじゃぞ? それにここで聞いたとしても、ランダリア嬢の居場所を教えてくれるとも思えん。少なくともこの辺りの営業スペースにはおるまいよ。さらに建物奥か、上層階を自力で探さねば。まずはこのフロアの深奥(しんおう)を探るかの」


「うむ、なら急ぐとしよう。こんな場所に長居は無用!」

 ライアスはそう言ってその先の通路を折れて先陣切って走り出す。

 建物の正面入り口側に向かって。


《あ……そうだ、あいつ重度の方向音痴なんだっけか?》

 とはいえまだ建物に入ったばかりである。

 いきなり真逆の方向へ進むかね?


「私が連れ戻してきます。皆さんはここで待っててください」

 ユーティアはライアスを追って走り出す。


 だがすでに通路の先にライアスの姿は見えない。

 なんで方向音痴のくせに先走るかね?

 迷いの森でもこうやってラトルとはぐれたんだろうな。


 こりゃ追いつくまでに時間がかかるかもなと思った矢先、ライアスがこちらに向けて歩いてきた。

 しかしその顔は、かすかに赤みを帯びて見える。


「どうかしたんですかライアスさん? お顔が少し赤いようですが……」

「い……いや、大丈夫だ。どうやら道を間違えたようだ。いったん戻るとしよう」

 ライアスは手で頬を隠しながら来た道をスタスタと戻っていく。


 まぁ、ここは娼館だ。

 何を見たかはだいたい想像がつくがな。


 その後一階のバックヤードを探索するも、従業員の待機室や食堂といったスペースが主。

 ここにカーラが潜んでいるとは思えない。


 ちなみに途中で下着姿同然の女性とすれ違うことが何度かあった。

 彼女達が身に付けているシースルーのランジェリーをマリオンは興奮気味に凝視し、ライアスはばつが悪そうに視線を外しながら通り過ぎる。

 少なくとも社会見学としては実りのある内容となりそうだ。


 その後俺達は二階へと上がる。

 この建物は高さはあるものの、各階の天井が高いためフロアは三階までしかない。

 とすればカーラが居るエリアは残る二階か三階のいずれか。

 そろそろ見つかってほしいところだ。

 四人で固まって移動していると目立つので、これ以上無闇に歩き回りたくもないしな。


 しばらく歩いたところで、金で装飾された豪華な扉を見つける。

 カーラが好みそうな麗々しいその扉は、いかにも怪しい。


「ここで間違いないだろう。私の勘がそう告げている!」

 その勘がまったく当てにならないライアスが、躊躇することなく扉を開く。

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