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第149話 蚊帳の外 1

「まったく、奴が区長なら最初から言っておけっての!」

「てっきり知っていると思っていたのだ。貴女とアルティウス様が見知り合いということはラトルからも聞いていたのでな。それにしても……今日は一段と機嫌が悪いな。くれぐれも粗相の無いよう頼むぞ」


 俺がカーラとやり合った翌日、俺とライアスはカトラ地区の区庁舎を訪れていた。


 俺がギルのオッサンに助け……再会した後、俺は一通りの事情をギルに説明した。

 ギルはなにやら難しい顔で考え込んだ後、明日俺にライアスと共に自分を訪ねるようにと言い残し去っていった。

 晩餐会の会場とは逆方向へ向かって。


 ミラージュの家に着いた後、ミラージュとマリオンにも事のあらましを(俺が少しだけピンチになったことは除いて)話した。


 闇夜に俺を襲ったカーラ。

 おまけに対象を闇に引きずり込む魔法まで使えるときた。

 その二つの事実により、カーラが連続失踪事件に関与している可能性はより深まった。

 それでもまだ確定的とまではいえない。


 だがギルは昨夜の状況を見て何かを掴んだようにも見えた。

 ならばここで詳しく聞き出すとしよう。


 正直、昨晩不覚を取ったことは慙愧(ざんき)に堪えない。

 さっさとカーラを見つけて締め上げてやりたい気持ちでいっぱいだ。

 

 てなわけで、今のこの状況へと至るわけである。

 ちなみにライアスへは俺が区庁舎に向かう時間に合わせて赴き同行するようミラージュが伝言を飛ばしている。

 俺とユーティアがメッセージを受け取った時の、あの黒い鳥を使ったようだ。


 報せを受けたライアスはダークグレーのスーツに身を包んで俺より早く来て待っていた。

 ギルに会うということで、いささか緊張しているようにも見える。


《やはり私が直接話したほうがいいような気がしますよリュウ君。ライアスさんが言うように、私もリュウ君がちゃんとお行儀よくできるか心配です。それに昨晩のお礼もまだちゃんと言えてないですし……》

「あのな、学校の三者面談じゃないんだぞ! なんでかしこまらにゃならんのだ!?」


 相変わらずユーティアは神経質すぎる。

 そもそもギルはまだユーティアの人格と会話したことはないのだ。

 ユーティアの性格で対面すれば、混乱するのが目に見えているではないか。

 

 区庁舎はカトラ地区の中心部近く。

 ミラージュから聞いたとおりの場所に、赤レンガと白の御影石が映えるルネサンス様式風の建物があり一目でそれとわかった。


 ちなみにミラージュとマリオンは今は別行動。

 あちらは別に調べたいことがあるそうな。

 もっともマリオンは半ば強引にミラージュに付き合わされたも同然だったが。


 俺達は区庁舎に入ると一階のロビーで用件を伝える。

 話は通っていたようで、すぐに職員に二階の区長室へと案内された。


「アルティウス様、ご多忙中恐れ入ります。ライアス・ルーンフェルグです」

 ライアスは区長室の扉をノックする。


「おおっ! 来たか、入っていいぞ!」

 扉の中からギルの声。

 まるで居酒屋で遅れてきた飲み仲間を呼び迎えるようなノリ。

 本当に仕事をしているんだろうな?


 ライアスは失礼しますと断った後、扉を開ける。


 区長室はほどほどに広かった。

 正面奥には大きな窓があり、その手前には木製の大型デスクが設置されている。

 左右の壁には天井に届きそうなほど高い本棚があり、ギッシリと本が詰まっている。

 これをギルが読むのだろうか?

 意外と読書家なのかね?


 その当の本人は俺達と向かい合う形で机に向かい、卓上に積まれた書類と格闘している。

 もちろん身に着けているのは鎧ではなくビジネススーツだ。


「スーツ……やっぱ似合わねぇな、ギルのオッサン」

「貴様! なんという口の利き方だ! それに略称のうえお……オッサン呼ばわりなど無礼にもほどがあるぞ!!」


「ガッハハハ! まぁいいではないかルーンフェルグ。呼び名はオレが許可している。そうカリカリしなさんな。この書類がもう少しで片付くんだ。すまないがそれまでそこで座って待っていてもらえるか?」

 ギルは部屋の右側に向かって親指を立てる。


 そこには細長い形状のローテーブルと、それを挟む形でブラウンの革張りロングソファが設置されている。


 俺は一人で奥のソファに座ろうとしたのだが、それを見たライアスに慌てて入り口側のソファに座るよう促される。

 結果入り口側のソファにライアスと並んで座ることになった。

 一応上座とか意識してのことだろう。


「まったく、やはりオレにはデスクワークは向いてないよ! 積み上がる書類は魔物より厄介だ。せめて有能な秘書が欲しいところだな」

 ギルはそう言いながらも、書類を次々と処理していく。

 その手際の良さからも、そしてカトラ地区の繁栄ぶりからも、区長として有能であろうことは明白だろう。

 どうやら文武両道を地で行く男のようだ。


 ギルは仕上げた書類を提出しに行き戻ってくると、俺達の向いのソファに腰を下ろす。

 その時人数分の茶を持ってきて、俺達の前へと差し出した。

 遠慮して口を付けないライアスを差し置いて、当の本人はグビグビと速攻で飲み干す。

 まるでジョッキの生ビールを空にするような勢いである。


「さてと、一緒に来てもらっておいてなんだが、二人にはそれぞれ別の話がある。まずはルーンフェルグについてだが……」

 ギルはやや硬く、張りつめた口調で話し始める。

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