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第147話 ほーふく絶倒 1


「大変なことをしでかしてくれたものだ……」


 カーラがホールから出て行った後。

 あの場にいたたまれなくなったライアスはそそくさと控室に引き籠もり、力尽きたように椅子に腰を落とすと頭を抱えた。


「なにが不満だというんだ? お前の子種を欲しがっていたカーラを退散させるにはうってつけの口実だっただろう? むしろ感謝されたいぐらいだ!」

「大半は妾の手柄じゃがな。あのような虚言を妾の天才的な機転と女優顔負けの演技力で、伝播可能なまでに信憑性を持たせたのじゃ。存分に褒め称えるがよいぞ! んなーはっはっはぁ!!」

《リュウ君にミラ様まで! ちょっとはライアスさんの身にもなってあげてくださいよ!》

 得意満面な俺とミラージュに向かって、ユーティアが苦言を呈する。

 

 たしかにライアスの名誉に多少は傷がついたかもしれない。

 しかしこの際、些細な犠牲は止むを得ないだろう。

 無策で挑んだミッションにしては、なかなかの着地点だと思うがね?


「明日には王都中に先程の話が尾ひれはひれ付いて広がるだろう。いや百歩譲ってそれは許せるとしよう。しかしラトルの耳にその話が入ったらと思うと……耐えられない! あのラトルが汚物を見るような目で私を見るようになったらと想像したら……うわぁあああああ!!!」

 勝手に妄想を膨らませて絶望するライアス。


 しかし心配するのソコなのかよ?

 これなら同性愛者でラトルと肉体関係がありますとでも言っておいた方が、まだ真実に近かったかもしれんな。


「でもカーラちゃんこれで諦めてくれるのかな? むっちゃ怒ってたけど?」

 マリオンは空中に二回蹴りを入れる。

 ホールから出る際にドアを蹴り開けたカーラの真似である。


「そうじゃの。一定の効果は期待できるものの、それで終わるほどに甘くはないかもしれんの。とはいえ今日はもうお開きじゃ。良い子は家に帰る時間じゃぞい!」

 ミラージュの号令でマリオンは両手を上げて賛同し、ライアスも弱々しく立ち上がる。


「……お前ら先に帰っていろ。俺は御馳走をいただいてから一人で帰るとする」

《もうリュウ君たらまたあの場に戻る気ですか? 食い意地張りすぎですよ! メッです!》

 そう俺を叱るユーティアだが、しかしなによりそのユーティア自身の腹が空いているのは同調している俺がよ~く理解している。


 そもそもマリオンやミラージュとは違い、俺は一口も料理に手をつけていないんだぞ?

 このままおいしい思い無しで帰れるものか!


 その後一人で会場に戻った俺は、周囲からの好奇の目を気にすることもなく料理を堪能。

 そして一人で帰路に就く。


 すでに外は夜の闇が完全に支配していた。

 しかしミラージュの家まで迷うことはないだろう。

 カトラ地区は北から南へと大きな川が下っていて、この晩餐会の会場はその川の近くにある。

 川岸を南下すれば、自動的にミラージュの家の近くまで辿り着くことができるからだ。


 俺は川沿いの堤防の上を重い足取りで進む。


「やはり……すこし食べ過ぎたか」

 だんだんと気分が悪くなってきた。

 しかしまだ手を付けてない料理もあったのだぞ。

 これでも多少はセーブしたつもりなのだが……

 こんな時はやはりユーティアの小さな胃袋が恨めしい。


 町の灯りがキラキラと反射する美しい川。

 周りに人は居ないし、いざとなったらここに吐くという手もある。

 ユーティアはめっちゃ怒るだろうが……


《ライアスさんの件……うまくいくでしょうか?》

 しばらく歩き、ようやくと気分が持ち直してきたあたりでユーティアが話しかけてきた。


《私はライアスさんにもカーラさんにも幸せになってほしいと思います。そのためにはあの二人が同じ道を歩むことが適切だとは思えません。でも、かといって誰なら適任だと具体的に示せるわけでもない。それに実際には打算で結婚する人も大勢いるでしょう? カーラさんが言ったように子供の私が愛だなんだと言って邪魔をして、ああして関係性を破壊してしまうことが本当に良い事だったのか……。白状してしまうと、本当はちょっと後悔してるんです。恋愛事に口を出すなという言葉の意味を、いまさらですが痛感してきた感じでして……》

「そりゃ本当にいまさらだな……」

 俺は呆れながらにそう漏らす。


「それは恋愛事にかぎらずさ。お節介なんてのはいつだって決めつけの押し売りにすぎない。だがまぁ人とのコミュニケーションなんてそういうもんだと割り切れば、心も痛まないもんさ。俺も今回は私情で話に乗っただけだし、その結果がどうなろうと知ったこっちゃない。そんな他人の心配よりも、自分の身を案じる方が有益だぜ? 例えば今のこの状況とかな……」


 そして俺は後ろを振り返る。

 背後の闇から、見覚えのある人物が姿を現した。


「よく気が付いたわね……クソジャリが!」

 黒いドレスに黒のベールを頭から被ったその人物は、忌々しそうに言い放つ。

 姿はカモフラージュされているものの、その声にその言い様。

 目の前の人物がカーラであることは明々白々だ。


「そりゃ来るだろうと警戒していたからな。そのためにこうしてひと気の無い場所で一人になるシチュエーションをわざわざ作ったんだ。逆にこちらとしても来てもらわなきゃ困るよ」

 俺が余裕綽々にそう答えると、カーラは不快そうに口元を歪ませる。

 どうやら自分がおびき出されたということを理解したようだ。


《え? ええっ? どうしてカーラさんがこの場に? リュウ君……これはいったい?》

「だーかーら! 奴はただでは済まさないって言ってただろう? それは邪魔者は消すって意味だったってことさ! どうせ襲われるなら長期戦になるより早い方がいい。だから俺は自分が襲われやすい環境をお膳立てしてたんだよ!」


 連続失踪事件の黒幕がカーラならば、昨日のような手駒を刺客として差し向けるであろうことは容易に想像がつく。

 ならその刺客を捕らえて吐かせればいいと思っていた。

 しかしこうしてカーラ本人が現れるとは、さすがに予想外だったが。


「ずいぶんと余裕ね。腕力が強いだけのクソジャリのくせに! その思い上がりを後悔させてやるわ! 喉を掻っ切り悲鳴を上げられなくしてから全身をズタズタに切り裂いてあげる! ルーンフェルグの歪んだ性癖はアタシが矯正してやるから、オマエは安心して逝きなさいな!」

 カーラはそう威喝すると、懐からダガーを取り出し構える。

 どうやら本気でこの俺と戦うつもりらしい。



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