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第145話 Ah! I'm Goddess 3

 借金のカタに得たライアスとの婚姻に固執する変わり者。

 それがどんな奴なのか興味はそそられる。

 さて鬼が出るか蛇が出るか。


「道を空けなさいゲス共! アタシの美貌を衆目に披露する邪魔をするなんて、神であろうと許される行為ではないわ!」

 甲高い声を張り上げながら、その女はズカズカとホールの中央近くまで歩み出た。

 まるで自分の存在を誇示するように。


 170センチ以上ある長身と凹凸激しいグラマーな体型のその女性は、自らアピールするまでもなく人目を引いた。


 いや、体型だけの問題ではない。

 カールのかかった燃える炎のような深紅のロングヘアに、その豊満な体にピタリと吸いつくワインレッドのドレス。

 吊り上がった目は濃く塗り重ねられたアイラインでさらに強調され、紅唇は今まさに獣でも食い殺してきたかのような鮮血の色に染まる。


 これまた()も気も強そうな女である。

 一応美人……には分類されるんだろう。

 しかしその滲み出る高圧的なオーラは、俺のような小心者には近寄り難く感じてしまう。


「カーラ様! 特等席を用意しておりますぞ! ささ、どうぞこちらへ!!」

「極上のヴィンテージワインもございます。必ずやお気に召されるかと!!」

 さらにホールの奥から二人の中年男性が()せるなりカーラをエスコートする。


 ホールの入り口で出迎えた男性は三人いたはず。

 つまりこの場のカーラの取り巻きは五人。

 ずいぶんと人気者なようだ。

 もっとも五人の中年男性以外の参加者は、呆気に取られた様子でこの成り行きを遠巻きに眺めているが。


「わかってないわね愚図が! まずは荷物を預かりなさいな!」

 そう言ってカーラは手に持っていた小型の赤いバックを取り巻きの一人に投げつける。

 それをキャッチした低身長で小太りの男性はしかし怒るでもなく、むしろ一秒前までカーラが手にしていたそれを愛おしそうに眺める。

 なんだろう……この世界の成金共はM気質な奴が多いのだろうか?


 カーラはそんな取り巻き男達を無視するように、ホール中央の特等席まで歩む。

 そしてワイングラスを手に取りその中身をゴクゴクと飲み干すと、空になったグラスをテーブル上に放り投げる。

 そして口端から垂れたワインをハンカチで拭うでもなく、その妖艶な舌でペロリと舐め上げた。


 すさまじく野性的な飲みっぷり。

 明らかにワインの飲み方として不適当。

 しかしその無駄がなく合理的な身のこなしは、有無を言わさぬとばかりの説得力を放つ。


 周囲の参加者もその姿を下卑すべきか賛評すべきか計りかねたような、困惑した表情を注ぐ。

 カーラはそんな視線を意に介する様子もなく、このホールを一瞥する。


 と、俺達のところで視線を止めると、ニヤリと広角を吊り上げコツコツと赤いヒールを鳴らしながら近付いてくる。

 どうやら、この時初めてライアスの存在に気が付いたようだ。


「言われた通りに来るとは、殊勝な心掛けねルーンフェルグ。ようやくアタシのモノになる決心がついたと解釈していいのかしら? それにしてもコレは……なに?」

 カーラはギラリとした視線を下に向ける。


 その先に居るのは俺……というよりユーティアだ。

 鋭い眼光で射られたユーティアは、蛇に睨まれた蛙のように身震いする。


「まさかオマエ、またゴミを拾ってきたんじゃないだろうね? オマエとアタシが婚姻関係を結べば、ソレはアタシにとっても無関係ではいられないのよ? アタシの顔に泥を塗るような真似は二度とするなと釘を刺したはずよね?」

 カーラは隠す様子も無く苛立ちを突き付けてくる。

 ここでいうゴミとは、どうやらラトルのことのようだ。

 つまりは家系図に余計なノイズを加えてくれるなということらしい。


 しかしラトルをゴミ呼ばわりされてライアスが黙っているはずかない。

 ギリッと歯を噛み締めカーラに言い返す。

「ラトルは私の大切な家族だ。そして今や私に並ぶ実力者として名声を築き上げている。そのような悪罵は慎んでもらおう。それと言っておくが、この子はラトルとは違う。この少女、ユーティア・シェルバーンは私の……」


 ライアスはここで言葉を詰まらせるが、一呼吸置き意を決して続ける。

「私の想い人だ!」


「はぁ? なんだって!?」

 カーラは狐につままれたような顔で口をポカンと開ける。

 が、驚いたのも束の間。

 今度は腹を抱えて笑い出す。

「オマエがこんな年端も行かないションベン臭いガキに……想いを寄せているだって? なんの冗談だいそりゃあ! キャッハハハ!! 」


 なにやら笑いのツボに入ってしまったようだ。

 それにどうにも本気とは受け取られていないらしい。

 やはりユーティアでは役者不足だったのではないか?


「その……私は本気なんだミスランダリア。本気で彼女を……その……愛している」

 そう説得するライアスの言葉は、どこか感情の抜けた棒読みに聞こえる。

 

 大根役者め!

 説得力が無いのはユーティアの外見以上に、こいつの演技力の無さが原因だぞ。


「あぁそうかい。ま、アタシはそんなことどうだっていいんだがねぇ」

「そ、それでは婚約を取り消してくれるのか?」

 予想外に事が進み喜色を浮かべるライアス。


 が、カーラはそんなライアスのネクタイを右手で掴むとグイと引き寄せる。

「そんなわけないだろバァカかオマエ! アタシだって別にオマエが好きで結婚するわけじゃない。ルーンフェルグの血統が欲しいだけだ。オマエはそのための道具に過ぎない。オマエは食事の時にナイフやフォークの気持ちを考えるのか? 考えないだろう? それと同じだよ。だからオマエが誰を愛していようがどうでもいいが、アタシと結婚して道具としての務めは果たしてもらうよ!」


 おいおい、カーラの傲岸不遜(ごうがんふそん)ぶりたるや度を超しすぎだろ。

 たとえ貴族だろうとエクシードには絶対服従のはず。

 いくら弱みを握っているとはいえここまで言えるとは、こいつ心臓が強いにもほどがあるぞ。

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