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第144話 Ah! I'm Goddess 2

 飾り気のないシンプルな黒のスーツを着たライアスは、しかしそれでも隠し切れない気品を身に纏っている。

 肩にかかるほどの銀髪はホールのシャンデリアに照らされ輝き、細く均整の取れたプロポーションは高い品性を醸し出す。


 ライアスの姿を見た周りの女性が、黄色い声を上げながら駆け寄る。

 さながらアイドルに群がるファンの如くに。


 ライアスは表情を変えないまま、丁寧に社交辞令的な挨拶を交わす。

 だが俺は見逃さない。

 その頬がピクついているのを。

 本当はああして女性に囲まれている状況が心底嫌なのだろう。


 エクシードよりホストをしている方が稼げると思うんだがね。

 あのルックスで女嫌いとは、つくづくにもったいない話だ。


 一通り集まった女性達を(さば)くと、ややうんざりした顔でライアスがこちらに歩いてきた。


「遅かったではないか坊や。幸いにランダリア嬢もまだのようじゃがな」

「すまない、区長のところに出向いていたものでね。カーラへの疑惑は依然として残る。とはいえ確たる証拠は無いし、私の嗅覚も決め手にはならない。しかし熟達された才智と卓越した慧眼(けいがん)の持ち主である区長ならば糸口を見つけられるのではと思い、今回の晩餐会にお誘いしたのだが……」


「だ~が、断られたのじゃな?」

「ああ……区長はこんな時間だというのにまだかなりの仕事が残っているとのことだ。仮に早めに片づくようなら少しは顔を出せるかもとは仰られていたが、それを当てにするわけにもいくまい。我々だけで真相を突き止めなければな」

 クイッとネクタイを締めなおして気合を入れるライアスを横目に、ミラージュは肩をすくめる。

「やれやれ、失踪事件の捜査はもちろんじゃがの、今注力すべきは坊や自身の身の振り方。せっかくユティが協力してくれるのじゃ。この場の全員に恋人とのラブラブぶりを存分にアピールするのじゃぞ!!」


「うっ……それは……わかって……います」

 ライアスは嫌な現実を思い出させてくれたとばかりに眉をひそめる。


「では妾達はお邪魔になるので離れたところで御馳走でも頂戴するかの? いくぞいニャーコ!」

「らじゃ! んじゃティアとライアスちゃんがんばってねー!!」

 俺達に問題を丸投げしたまま、ミラージュとマリオンは去っていった。


「…………………………」

 隣り合って立つライアスとユーティアが、やや顔を背けたまま沈黙する。


 女嫌いのライアスと色事無免許のユーティア。

 この二人で恋人を演じるなんてこと自体が、そもそも無謀無鉄砲ではないのか?

 かといって俺に案があるかといえば、とんと思いつかない。

 ま、俺はそもそもこんな無意味な作戦には乗り気じゃないから、結果がどうなろうとどーだっていいのだが。


「その……ライアスさん」

 気まずい空気を破り、初めに口を開いたのはユーティアだった。

「私、先日まで孤児院にいたんです。孤児院だから当たり前なんですが、そこに住む子供は親を失った子や親に捨てられた子ばかりです。だから皆どこか心に傷を負っていて、孤児院に来てしばらくはなかなか周囲に打ち解けられないものなんです。修道院のシスターや他の子供達が辛抱強く努力して、ゆっくりと、ゆっくりと時間をかけて、少しずつでも心を開いてもらうしかない。そしてそれがとてつもない信念と努力が必要だということも、経験上思い知らされています。だから、だから……」

 ユーティアはライアスの顔を正面から見つめて声を大にする。

「ライアスさんは凄いと思います! お母さんに見放されて、お父さんは塞ぎ込んでしまって、それでも自力で立派に成人してラトルさんまで引き取って。それは並大抵の努力でできることだとは思えません。だからこそ、今まで頼らなかった分これから困った時は積極的に他人に頼ってしまっていいと思うんです! だから私は今回できるかぎりのお手伝いをさせていただきたいと思います! その、恋人のフリ……というのはちょっとうまく演じきれる自信は無いのですが……」 


 終盤尻すぼみになったユーティアの決意を前にして、ライアスは己を恥じるように下唇を噛む。

「いや……本来は私がエスコートすべきだというのに、気を遣わせてしまってすまない。では少しだけ、お言葉に甘えさせてもらうとしよう。今は私が貴女に面倒を見てもらう子供役ということだな」

 そう言ってライアスは冗談交じりに微笑む。

 どうやらユーティアの熱弁により、気まずさは和らいだようだ。


「それにしても……貴女の変わり身たるや目を見張るものがあるな。昨晩の貴女とは到底同一人物とは思えない。私は融通が利かないとよく言われるのでね、貴女から学ぶべきところがあるのかもしれないな。もっとも真似は到底できそうにないが……」

「あ……はは、そう……ですかねぇ?」

 ユーティアは乾いた笑いで誤魔化す。

 そりゃ実際には別人ですとは言えないからな。


「カーラ様!!」

「おぉカーラ様ご機嫌麗しゅう!!」

 突然、複数人の男性が声を上げホールの入口へと小走りする。


 もっともその内容から事態は推察できるが。

 今日のターゲット、カーラのご登場らしい。


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