第141話 非家族会議 3
「それで? 坊ちゃんのほのぼの家庭事情はわかったが、それが今回の事件とどう繋がるんだ?」
今の話ではカーラのカの字すら出てこなかった。
俺達が聞きたいのはそこじゃない。
「ここからは私が話そう。なにより私自身についての内容だからな」
ライアスはあまり気が進まなそうな表情ながらも、その重い口を開く。
「父上は財を失うだけではなく、借金を抱えるにまで至っていたのだ。そしてその借金を返すために新たに借金をするという悪循環に陥っていた。そしてその借金の大部分は、非合法な金貸しを生業とするランダリア家からのもの。そして担保を持たない父上は、いつの間にか私がランダリア家に婿入りするという条件まで入れて借金を重ねていたのだ。エクシードになった私は借金を全額返済した。だがそれで反故にできる話ではないというのがランダリア家の言い分だ。先程も取り下げてくれるよう訴えにいったのだが、またしても冷たくあしらわれたよ」
「まぁわからんではないのぉ。ランダリア嬢は坊やより年上じゃしな。金が戻っても失われた時間までは戻らん。それにこんな色男ならなおさら逃したくないということか。モテる男はつらいのぉ~」
ミラージュは皮肉たっぷりの笑みでライアスに肘打ちする。
「勘違いしないでいただきたいミスルルリリア。カーラの腹の中にあるのは果て無き物欲と名声に対する渇望。アレはそういう類の人間だ。特に最近ランダリア家は急速にその財を積み上げ膨れ上がらせている。だが王国で真に栄華を極めるには、エクシードとしての地位は絶対条件となる。だから奴は欲しているのだ。かつて名家であったルーンフェルグの血筋を!」
怒りが込み上げてきたのか、ライアスは徐々に声を荒らげる。
なるほど、種馬として扱われているというわけか。
つくづく女運が無いな坊ちゃん。
「それに気になることもある。私は嗅覚の共感覚持ちでね。匂いには敏感なのだが、最近カーラの体から異臭がしていることに気が付いたのだ。それは普通の人間なら気が付かないほどの微かなもの。そしてそれはおそらく複数の人間の血の匂い。しかも日に日に濃さを増しているようにすら感じられる」
「なるほど、それで最近多発している失踪事件との関連を疑いミラージュに調査を?」
「そうだ、実は今回の連続失踪事件以前にもカーラの邸宅からさほど離れていない場所で、過去何度か若い女性が失踪する事件が起こっている。しかし三ヶ月程前──実家に帰っていたカーラが戻ってきて以降“連続”と付けなければならないほどに事件は増え始めた。そして事件と共に強まるカーラからの血匂。証拠としては不十分だが疑わしいのも確かだ。だが知ってのとおりエクシードは王国の任務で多忙。私自身で調べるには限界があった。だから名探偵と噂になっていたミスルルリリアに協力を仰いだのだ。もっともこんな幼い少女とは、会って初めて知ったのだがね」
べつにライアスは褒めたわけじゃないと思うんだが、ミラージュは得意顔でフフンと鼻を鳴らす。
「妾達を襲った三人がランダリア家に逃げ込んだ。妾はこれで確証を得られたかと思ったのじゃが、坊やはその三人を見ておらぬのじゃな?」
「うむ、私もまっすぐ門へ向かっていたところだったが、それらしい人影は見ていないな」
方向音痴のライアスの証言なのでイマイチ説得力に欠けるものの、三バカがあのタイミングでカーラの屋敷に逃げ込んだのなら、ライアスが目撃していないのは不自然。
つまりあの三バカはただ見失っただけなのかもしれない。
とすると黒幕はカーラではないということか?
だとすると捜査は一からやり直しということになってしまう。