第139話 非家族会議 1
「御用だ! おとなしくお縄を頂戴しろ人攫い野郎!!」
俺はその男に人差し指を突きつけ道破し、そして続ける。
「俺はお前がそういう奴だと思っていたぜ。女性嫌いを公言しながらも、その実とてつもなく歪んだ性癖してそうだもんな。しかしまさか連続失踪事件の黒幕だったとは……人気急上昇中のエクシード様も堕ちたものだな! なぁライアス坊ちゃんよ!!」
そう、豪邸から出てきた男とは、第三等位エクシード──ライアス・ルーンフェルグだった。
ただ、今は以前のように鎧を身に着けてはいない。
体にフィットした襟の立ったチャコールグレーのジャケット。
中世ヨーロッパで男性がよく着ているような服装……たしかプールポワンとかいったか?
これがこの男のオフコーデらしい。
今は剣も持っていないようだ。
「いきなり現れて、なにを言い出すのかと思えば……」
俺と再会したことに一瞬驚きの表情を見せたライアス。
しかしすぐにいつもの冷静な表情を取り戻すと、不快そうに顔を顰める。
「ほぅ、シラを切るか? だがな、ネタは上がってるんだ。俺達を襲ったチンピラ共が、この屋敷に逃げ込んだのを(ほぼ)確認している。もはや言い逃れはできんぞ!!」
ここで自白させればこの事件は解決。
是が非でも吐かせてやる!
「こらこら待たぬか。こやつは犯人ではない。なにせ妾にこの事件の調査を依頼してきた張本人なのじゃからな。ちなみにライアス坊やの方もじゃ。この二人は今は妾の助手、警戒せんでもよいぞよ」
ミラージュが、俺の背後から襟元をグイグイ引っ張りながら止めてくる。
「なに? どういうことだ?」
「待て、ここでこれ以上話すのは避けたい。ちょうど私はこれから家に戻るところだ。貴女達は距離を取ってその後をついてきてほしい。詳しくは私の家で話すとしよう。それまでは私語も慎み静かにしておいてほしい」
俺達の顔は見ずに、潜めた声でそう言い残すとライアスは夜道を歩き出す。
まるでこの状況を他人に見られたくないかのように。
どうにも状況が飲み込めない。
だがライアスを追うミラージュのすました表情は、この流れも想定内と言わんばかりだ。
今は黙って従うとしよう。
その後夜道を黙々と歩く。
すでに他の地区に移っているのか、みすぼらしい家が目立つようになってきた。
この辺りは道路も舗装されておらず、夜とはいえ灯りも少なく寂れている。
ライアスはその中のとりわけ古びた家へと入っていった。
「ここが……ライアスの家なのか?」
ボロボロのベニヤ板を継ぎ合わせてなんとか家の形にしているといった印象のその平屋は、とても人気エクシードの棲み処とは思えない。
とはいえ、このまま家の前で突っ立っていても仕方がないな。
俺達はそのボロ家の門をくぐった。
「おんやぁ! ユーティアちゃんにマリオンちゃん! 本当に王都に来てたべなぁ! いんやぁラトル坊ちゃんから聞いてはいたけんど。さっそく会えて嬉しいべよぉ!!」
玄関で俺達をまっさきに出迎えたのは、なんとグルードだった。
その馴れ馴れしい歓迎に、俺は無言で軽く手をかざし、マリオンは両手をブンブン振りながら笑顔で答える。
「グルード、今父上は?」
「へぇ、今日も泥酔して帰ってこられたもんだから、自室に運んでお休みいただいてるべぇ。あの様子じゃしばらくは起きないと思うべぇよ」
グルードから報告を受けると、ライアスはヤレヤレといった様子でこめかみを人差し指で押さえる。
「いや……だが今は好都合。ちょうどラトルも事務処理のためギルドに泊まり込みで帰ってはこない。まさか貴女達まで今回の事件を追っているとは思わなかったが……ならミスルルリリアと共に話を聞いてもらう方がいいだろう。汚いところだが、上がってくれ」
「あのさ、そういうのは謙遜して使う言葉だからガチな時に使うなよ! 見ればわかるから!」
俺は文句を垂れつつも、ライアスに促されて家の中に上がる。