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第138話 奇々怪々 2

「ばっかもーん! なにをやっておるのじゃこわっぱ!!」

 しかしなぜか、ミラージュが俺に苦言を呈する。


「なにって、依頼通りの犯人確保だが? 我ながらスマートに事を済ませたつもりなんだがね?」

 周りの倉庫が多少は吹き飛んだが、まぁ許容範囲だろう。

 俺の基準ではだが。


「ちがうちが~う! プロはこうするのじゃぞ! 見ておれ!!」

 ミラージュは俺を押し退けると地面に転がった三バカに向けて左手を伸ばす。


「奈落に蠢き冥王よ! ここに生贄を捧げん! その皮を剥ぎ、骨を砕き、肉を食い散らせ! その苦痛こそ快楽! その絶望こそ愉悦なり!」


 ゾクリ──と背筋に悪寒が走る。

 なんつー悪趣味な呪文だ。

 これがミラージュの言っていた彼女の本質的な魔法……なのか?


  『 ヘルズプリズン!!』

 ミラージュが魔法を発動させる。

 彼女の前方に黒い影が伸び、三バカを飲み込む。


 夜だというのになぜその影を明確に認識できたのか?

 それはうまく説明できない。

 闇より暗きその影は、この世にあってはならない“異質なモノ”と感じられたから認識できた……という他ない。


 ボコボコと、湧き出るように闇の表面から目玉が次から次へと剥き出る。

 目標を捕捉した闇は、黒く細い腕を無数に伸ばし三バカの体を拘束する。


「ヴゴォラァアアアアア!!!」

 そしてついには複数の巨大な口が(わめ)き声と共に解き放たれ、三バカの体にその牙を剥く。


「グギャァアアアアア!! イテェエエエエエエ!!!」

 路地に反響する悲鳴。

 だがさらに次々と現れる巨大な口は、半ば闇に引きずり込んだ三人の体に貪るように食らいつく。


「イヤだぁアアア! 死にたくネェヨォ! 頼む! 助けてクレェええ!!!」

「助けてくれ……じゃと? おぬしはそう助けを乞うた相手を今まで見逃したことがあるのか?」

 ミラージュは冷酷にそう言い放つ。

 そしてさらなる無数の口が、獲物に群がるピラニアのように襲いかかる。


 バキボキと骨が砕ける音が響き、噴水のように血飛沫が舞う。

 目の前はさながら地獄の処刑場と化していた。


「ひゃにゃにゃ! ……と、止めたほうがよくないリューちゃん?」

 マリオンは俺の背中につかまり声を震わせる。

 ちなみにユーティアもか細い悲鳴を断続的に上げながら絶句している。


 まぁ俺ですらドン引きするほどの大虐殺だ。

 ユーティアが精神的ショックで不調をきたされても困るのは確かではあるな。


「なぁミラージュ。俺が言うのもなんだが、ちょっとやり過ぎじゃないのか? 動けない相手にここまでしなくても……」

「何を言っておる、動けない相手だからこそじゃろうが! ……とはいえそろそろ頃合いじゃな。もうよいぞ!」

 ミラージュが合図すると、闇が三人を吐き出す。


「ウハわぁああア! お助ケぇえエエ!!!」

 血まみれになった三バカは、皆顔を恐怖に引きつらせて一目散に逃げ出す。


「よし追うぞ、ついてくるのじゃ! しかし悟られぬよう距離を取っての。なに妾は夜目が効く。見失いはせぬよ」

 そう言って走り出すミラージュ。

 俺達も訳がわからぬままその後に続く。


「どういうことだ? あいつら……むしろ元気になってないか?」

 ダメージのためか恐怖のためか、おぼつかない足を引きずるように進む三バカ。

 だが俺の魔法を食らった直後はまともに歩けないぐらいにボロボロだったはずだが……


「そりゃそうじゃ、妾がああして回復魔法を使って治療したのじゃからな。ま、少々荒療治ではあったが」

「はぁ? 回復魔法……だって? あの悪魔召喚みたいなやつがか?」

 俺はあまりにも予想外なその単語に、尾行してることも忘れて甲高い声を上げてしまう。


「悪魔召喚とは失敬じゃな! こわっぱと同じ精霊魔法じゃぞ! まぁ見た目が少しアレな感じなのは認めるがの。ただ対応するのは回復だけではないぞい。攻撃や補助、探索といった幅広い汎用性を持つのが特徴。これこそが妾のオリジナル属性魔法──暗黒風魔法(あんこくふうまほう)じゃ!!」

「あ・ん・こ・く・ふ・う・ま・ほ・う!?? なんじゃその……」

 ふざけた属性はと続けそうになったが、ミラージュを怒らせるだけなので口をつぐむことにした。

 それにあの見た目からすれば的を得たネーミングとは言える。


「だが骨はバキバキに折れてたし血も凄い勢いで噴き出してたぞ?」

「あれは暗黒風魔法の副次的効果なんじゃ! 実際に相手の骨を折ったり傷をつけたりしているわけではないわい! 爆発魔法だってドーンと音がしてモクモクと煙が上がるじゃろう? それと同じではないか!」

 うん、なんかミラージュには悪いんだが、ぜんっぜん同じには感じられないのだが?

 しかしガルシアといい、天才的な魔法士ってのはどうしてこう常人には理解不能なレベルで型破りなのかね。


「あやつらは指示されて人を攫っているようなことを言っておったじゃろう? つまり奴らの単独犯行ではなく、黒幕がいるということじゃ。ああして逃がせば奴らのアジトまで案内してくれるやもしれぬぞ。ま、そううまくいくかは運任せじゃがの」

 ミラージュは、三バカに見つからないよう物陰に身を隠しながらそう説明する。


 なるほど、しかもあいつらは血……っぽい液体まみれ。

 ならば人目をはばかり直帰する可能性は高いな。


「うむ? 妙じゃな、見失った? いや……ここに逃げ込んだかの?」

 ミラージュが足を止める。

 

 目の前には大きな豪邸。

 オフホワイトの外壁に橙色(だいだいいろ)の瓦屋根という南欧風の建物。

 だが高めの外壁に囲まれているためその中までは窺えない。


「確かなのか? 周りにも建物はあるが」

「ほぼほぼ……というトコじゃな、残念ながら。この門の脇の植え込みが死角になって建物に入るところまでは見えなかったからの。じゃがこの建物は……」

「潜入調査しちゃう? わたし変装なら得意だよ〜!」

 マリオンがポチを抱えてアピールしてくる。

 またいつぞやの時のようにポチの中に入って潜り込むつもりなのだろうが、あれははたして変装と言えるのか?


《駄目ですよマリー、証拠も無いのに。見つかったら逆にこちらが不法侵入で捕まってしまいます!》

「そうじゃな、実際に逃げ込んでいたとしたら、今は向こう側も警戒しているじゃろう。そんな中踏み込んだところで連続失踪事件の証拠まで得られる可能性は極めて低い。こうしていくつかの情報は得られたのじゃ。いったんは退くべきかの」

 ユーティアのみならず、ミラージュまでもが慎重な意見。

 子供ながらも適切な引き際を心得ているとは。

 伊達に探偵を名乗っちゃいないってわけか。


「……だれかいるのか?」

 しかしその時、豪邸の門から一人の男が出てきた。


 こちらから探るまでもなくこの家の住人が姿を現してくれるとは、なんたる幸運!

 そしてそいつはいかにも悪さをしてそうな、あくどい面構えときたもんだ。

 もうこいつが主犯で間違いないだろう。


「そうか……お前が黒幕か!」

 そう、そしてそいつは俺のよく知る男だった。

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