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第137話 奇々怪々 1

 その日の夕方。

 俺達はカトラ地区へと来ていた。

 もちろん失踪事件の調査のためだ。


 すでに夜の(とばり)が下りてきている。

 しかしカトラ地区中央を南北に貫く繁華街は、いまだ多くの人々で賑わっている。

 街灯が通りを明るく照らし、あちこちの酒場から叫騒が溢れ出す。

 楽しい夜はこれからだと言わんばかりだ。


 そんな喧騒から少し離れた裏通り。

 そこを俺達は目的地も無く彷徨(さまよ)っている。


 失踪者の足取りを追ったところ、この繁華街周辺で事件が起こっている可能性が高いとはミラージュの分析。

 だが犯人が誰であれ、人混みの中で襲ってきたりはしないだろう。


 だから街灯が少なく人もまばら。

 そんなほどよく襲いやすそうな路地を選んでは、先程からこうしてほっつき歩いている。


 そしてかれこれ約30分。

 しかし犯人が現れる気配はまだ無い。


《本当に……これで犯人がおびき出せるのでしょうか?》

 俺達自身を餌にして犯人を炙り出す囮作戦。

 やはりユーティアは乗り気ではないようだ。


「こーんな超絶美少女三人が夜道を歩いておるのじゃぞ? 襲うっきゃないじゃろうが! 健全な若人ならば、思わず気の迷いで襲ってしまっても責められまいて!」

 ちゃっかり自分も美少女にカウントして力説するミラージュ。

 だが10歳のコイツを夜道で襲うのは、さすがに健全とは言えないだろ。

 というか俺達は連続失踪事件の犯人を捕まえにきたのであって、気の迷いで襲ってきた奴を捕まえても意味はないのだが……


《それにしても綺麗な場所ですね。それに人々の活気もあります》

 ユーティアが抱いた感想は、俺も同じく感じたことである。

 リムファルトのように町自体が新しいというわけでもないのに、特にこの辺りの街並みは清潔さが保たれている。

 裏通りといえども、それは同様。

 荒廃感は無く、一見治安は良さそうに見える。


「昔は貧困地域などもあったようじゃが、今の王都ではほぼほぼ無くなりつつあるようじゃの。特にこのカトラ地区では区長の手腕が秀でているのじゃろう、全体的に豊かさが保たれているようじゃ。だからこそ今回の事件には区長も胸を痛めていると聞いておる。そして一刻も早く汚名返上をと望んでいるそうじゃ。それが高額な報酬にも表れているのじゃろうて」

 ミラージュは他人事のように淡々と説明する。

 特段この地区に愛着があるという風には聞こえない。

 あくまでビジネス目的でこの近くに住んでいるだけということなのか。


「うーん夜は苦手だぞ! 早く出てきてほしいにゃ~!」

 マリオンが大きく伸びをしながら、夜空に吐息を漏らす。

 日が落ちてから明らかにテンションが下がっている。

 とはいえさすがにまだこの時間。

 ゾンビ山の時のように眠り始めたりはしないだろうが。


「なんじゃ? ニャーコは昼行性変動型の魔法士か? たしかに魔力が少し落ちてきておるの。逆に妾は夜行性! この闇の中でこそ真価を発揮するタイプじゃぞ!」

「ほー、なら夜なら鉄を金に変えたりできるのか? できるんなら土下座してでも弟子にしてもらうところだけどな」

 そう言って茶化す俺に、ミラージュはチッチッと舌を鳴らす。

「転写魔法はあくまで雑学程度のノリで身につけたものよ。妾の本質的な魔法属性は異なるところにあるのじゃ。ま、機会があれば見せてやるぞい」


 ミラージュの魔法属性か。

 エルフなんだから、どうせ風系統の魔法とかだろうな。

 もしくは土系統とか。

 いずれにしても、戦闘に向いた魔法を使いそうにはない。

 犯人が襲ってきたら、俺が率先して戦うしかないか。


「おりょ? 行き止まりだよ?」

 先行していたマリオンが足を止める。


 たしかにこの細い通路はここで袋小路になっている。

 引き返すしかなさそうだ。


「繁華街からもだいぶ離れたかのぉ? この辺りの地理は妾もよくわからぬし、ここは一度繁華街まで戻って──」

 振り向いたミラージュが動きを止める。


 その表情から事態を察した俺はすぐさま後ろに振り向く。 

 やはり……危機はすぐそこにまで迫っていた。


「ヒャッホホーッ! 上玉じゃんキタコレ!!」

「ムムゥ……しかも三人。ボス喜ぶ! グムム……」

「余計な事しゃべんなっての! コロスぞオマエ!!」

 下衆そうなのと根暗そうなのとガラが悪そうなのとで三人。

 俺達の行く手を阻むように立ちはだかっていた。


「おいでなすったか。お前らが(ちまた)で噂の連続失踪事件の犯人か?」

 こんなこと聞いたところで答えるはずもなし、と思ったのだが──


「え? オレラ有名人なの? マジソレ?」

「ムムゥ……俺達ボスに命令されてるだけ」

「だっから! 正直にしゃべんなってのコロスぞオマエ!!」


 よほど知性が低いのか。

 はいそうですよと言わんばかりの回答が返ってくる。


「マ、いっか! どーせさらっちまうんだし! 行くぜオマエラ!!」

 ガラ悪い奴がダガーを取り出すと、それに続いて下衆がメリケンサック、根暗が棍棒を手に持ち構える。

 どうやら本格的にやり合うつもりらしい。


「この辺りの建物は民家ではないな……倉庫かなにかか?」

 騒動を起こしてもすぐには誰も助けにこないというわけだ。


 しかし……ならば好都合。

 手加減する必要はなくなったな。


「アルバスター・キール・ド・メイス・レザリオン 燦爛(さんらん)たる煉獄の狂炎よ 我が身に宿り敵を打ち滅ぼせ!」

 俺は呪文の詠唱を始める。


 相手は目の前至近距離。

 今からこの魔法の射程範囲外まで逃げることはできない。

 さらにこの狭い路地では左右に逃げることすら不可能。

 俺達を追い詰めたつもりなんだろうが、実際に追い詰められたのはこの三バカだったということだ。


  『 龍 牙 爆 裂 砕(ガルドライヴ) !!』

「「「ホゲェアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」


 巨大な炎の牙が、三人を同時に飲み込む。


 勝負は一瞬でついた。

 ミディアムに焼け焦げた三バカが、半死半生で地面に転がる。


「王都だろうと雑魚の程度は変わらんな。これに手を焼く王国の自治力に不安すら感じるぞ」

 俺は三バカを見下し罵る。

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