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第136話 情けは人の為ならず 2

 このミラージュとかいう賢者。

 利用価値があるかもしれないと思いここまで付き合ったが、特段に得るものは無さそうだ。

 宿が得られるという利点はあるものの、こう仕事まで押し付けられるのでは俺の世界征服が進まんではないか! 


 それに他人を無闇に信用するなが俺の信条。

 それが頭の回るミラージュならなおさらだ。


「よいのか? もちろん報酬も出るというのに。今回はとりわけ高額だぞい?」

 入り口のドアノブにまで手をかけていた俺だが、ミラージュのその一言に動きを止める。

 そんな俺の心中を見透かすように、ミラージュはわざとらしく大袈裟な口調で続ける。

「ち・な・み・に・じゃ! 今回の成功報酬は、ななんと破格の300万リグじゃ!」


「さっ! さっ、さ……300万だと! バカな! 高額すぎるだろ!!」

「人の命がかかっているんじゃぞ? すぎるということもあるまい。しかし相場より高いのも確かじゃな。ま、続きを聞きたければ座るがよい」

 ミラージュは先程まで俺が座っていた席をポンポンと叩く。


 くっ……出て行こうとした手前言われた通りに戻るのは癪だが、大金には代えられない。

 俺はスタスタ歩き元の席に座る。


「今回の事件は王都南西部の北側──カトラ地区を中心に発生しておる。そして今回の調査の依頼主はそこの区長。つまり私的ではなく公的な依頼というわけじゃな。それが報酬が高額な理由の一つというわけじゃ」

「くちょー?」

 その聞き慣れない単語に、マリオンは疑問符を浮かべる。


「区長──王都内の一地区の首長のことじゃ。条例の制定や予算の配分等々の強い執行権を持っておる。エクシードが務めることが多いの。特にカトラ地区の区長はなかなかの切れ者での。必要なところにはすかさず惜しみなく予算を注ぎ込むタイプの人間じゃ。おかげでカトラ地区はなかなかの繁栄を築いておる。妾がカトラ地区の近くにこうして住んでいるのも、その栄耀栄華(えいようえいが)にあやかりたいという部分もあってのことじゃ。経済が回れば金も動くし、人の悩みや争いごとも増える。探偵業にはこの上ない環境じゃな」


《でもその区長から直接依頼を受けるなんて……やっぱりミラ様はすごいです! さすがは名探偵ですね!》

 ユーティアに褒め称えられたミラージュだが、意味ありげに苦笑いをする。


「う~む残念ながら、さすがの妾もまだ区長から直接依頼を受けるほどには顔は利かぬな。今回の件は別の依頼主から間接的に受けたものじゃ。その依頼主は今回の件の真相に思い当たる節があるようじゃが、証拠となるものが無いために妾に相談を持ち掛けたというわけじゃ。報酬はすべて妾にゆずるという条件付きでな。その依頼主は報酬はいらぬのでこの事件の真相を突き止めることを最優先してほしいとのことじゃった。だからじゃ……」

 そしてミラージュは俺の顔をまっすぐ見て続ける。

「妾もその意を汲もうと思うのじゃ。報酬が減るのは痛手。じゃが事件を迅速に解決に導くにはおぬしらの協力が不可欠じゃろう。報酬は三等分し100万リグずつ分配しようと思う。どうじゃこわっぱ? 気が変わったかの?」


 ──100万!

 軍資金としては十分すぎるほどの額。

 チマチマ働いたのでは稼ぐのに半年近くかかるだろう。

 それがたった一件のクエストで手に入る。

 こんなにおいしい話はこれを逃せばもうないだろう。


「許せねぇ……」

 俺はゆっくりと立ち上がり、胸の前で右手の拳を握りしめる。


「夜道で女性を襲うなど……外道め! 俺の燃える正義の心が、一刻も早く犯人を捕らえろと騒ぎ立てる! その調査、喜んで手伝わせてもらうぜ大賢者ミラージュ!!」

 そして事件の解決を固く誓うのであった。


「わっかりやすい奴じゃの~」

《はい、いつもこんな感じです……》

 だがミラージュとユーティアが、そんな冷ややかな声を俺に浴びせてきた。


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