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第132話 十で神童 1

 フューメル公園。

 王都の南西地区にあるその公園は、端粛(たんしゅく)と連なる建造物群の中から突如その姿を現した。

 王都は壮麗な建造物が多いが、同時に環境保全にも抜かりないようで、こういった公園や自然物がやたらと多い。

 もちろんマナの流れを阻害しないようにという配慮もあるのだろうが。


 しかもこの公園は特に規模が大きい。

 野球場が二つ入る程の広大な面積に、巨大な木が並び立つ。

 そしてここが、大賢者ミラージュ・ルルリリアが指定した場所だ。


 アダルトショップを出た後少し道に迷ったのでやや遅れた気もするが、無事到着することができた。


 俺達はこの広い公園でミラージュ・ルルリリアの姿を探す。

 といってもユーティアしかその外見は知らないのだが……


《大賢者ミラージュ……か、どんな人物なんだ? 外見的特徴は?》

 賢者らしくローブ姿の髭を蓄えたヨボヨボの爺というならわかりやすいが、今見える範囲内にそういった人物は居ない。


「そうですね、外見的な特徴といっても難しいですが、黒髪で……あっ、いた! ミラージュ様! すいませんお待たせしてしまいました!!」

 突然ユーティアが走り出す。


 ユーティアが手を振る相手は、花壇の前のベンチに座っていた。

 片手に小さな紙袋を持ち、もう片方の手で袋の中から何か……金平糖のような菓子を取り出し口に放り込んでは、モグモグと咀嚼しながら至福に満ちた表情で(ほう)けている。

 が、ユーティアに気付くと慌てて袋を懐にしまい立ち上がり、ビシリとこちらに指を突き立て大口を開ける。


「おっそいわいユティ! この仙才鬼才の大賢者ミラージュ・ルルリリア様にとっての一分は、愚鈍な平民どもの一年分の価値があるのじゃぞ? それを浪費させるなど言語道断!! 聖職者ならば五分前行動を徹底せぬか痴れ者め!!」


 大賢者ミラージュに励声叱咤(れいせいしった)されたユーティアは、ひたすら平身低頭で謝罪する。


 とても数秒前まで日なたぼっこを満喫しながら菓子を摘まんでいた者とは思えぬセリフ。


 いやこの際そんなことはどうでもいい。

 それより大問題な事実、それは──


《なんだよコイツ! ちんちくりんのガキじゃないか!!》

 そう、大賢者ミラージュとは、ほんの10歳ぐらいの少女だったのだ。

 それもごくごく普通の、である。


 身長は130センチと少し程度か?

 櫛がなんの抵抗も無く通りそうな、濡羽色の腰まで伸びた細く滑らかな髪。

 アメジストカラーの丸く大きな瞳は、その自己主張の強さを体現する如くエネルギッシュに爛々と輝く。


 賢者らしくローブを羽織っているというわけですらない。

 胸元にワンポイントの赤いリボンが添えられた、髪と同じ純黒の少し肩の出る──フレンチスリーブのワンピース。

 ちょっと上品なお嬢様という形貌。


 強いて言えば切り揃えられた前髪とくすみの無い肌、そして異様に均整の取れた顔付きが知的さを醸し出してはいる。

 しかしこんなガキが大賢者とは、景品表示法違反も甚だしい!


「だーれーがーガキじゃ! お前にはなおさら言われたくないぞい、このこわっぱが!!」

 ミラージュは両手を腰に当て、ユーティアの瞳を覗き込むような体勢で憤激する。


 こわっぱとはこれまた失敬な。

 いくら俺が胎児状態といえど、こんな小学生相当の女児にまで見下される謂れは──っていや待て、そうじゃない!


《俺の声が聞こえている……だと? そんな馬鹿な!?》

 そう俺は今、念話をユーティアとマリオンにしか送っていない。

 なのにミラージュは聞こえないはずの俺の念話に反応した。

 いやそれだけじゃない。

 その口ぶりは、ユーティアの中にいる俺の存在までも見透かしているような……


「なにを驚いておる? (わらわ)は大賢者であると同時に名探偵でもあるのじゃぞ? つまり通信傍受もお手の物。もちろんユティの中におるおぬしの正体も見抜いておるわ! どーじゃ恐れ入ったか! この天才的な才智を存分に称えるがよいぞ! んなーはっはっはぁ!!」

 背を()け反らして高笑いするミラージュ。


《これは……なんつー高飛車なガキだ!》

 だが俺の正体までバレているだと?

 しかしこうして俺に向けて話しかけていることからも、嘘をついているとも思えない。

 悔しいが、その才覚は認めざるを得ないか?


 しかしその時、俺はその幼さばかりに気を取られ、ミラージュの外見のある特徴を見落としていたことに気付く。


 その細く繊細な黒髪からわずかに覗く彼女の耳。

 その耳の先端は尖っていた。

 明らかに人間のそれとは違う形状。


《そうか……エルフか!? ってことはミラージュ、お前実年齢は何歳なんだ?》

 人間よりもはるかに長寿のエルフ。

 なら外見が幼くとも、実際には50歳……いや100歳なんてこともあるかもしれない。

 だとしたらその達見ぶりや、やたらと偉そうな態度も理解できる。

 もしや見た目は子供、頭脳は大人な名探偵なのか?


「なんじゃお前もか? ヤレヤレ人間ときたら、すぐにレディに歳を教えろなぞと無神経な野次馬根性を現すのぉ。まあよかろう、隠すほどのモノでもないしな。聞いて驚くでないぞ! 妾の年齢はな、10歳じゃ!!」

《見たまんまじゃねーか!!》

 まったくもっての外見通りの年齢。

 逆にこれでどう驚けというのか?


「ヤッホー! わたしはマリオンだよ! よっろしくねーミラちゃん!!」

 例によって、マリオンが馴れ馴れしく初対面のミラージュに抱きつきながら自己紹介をする。

 こいつのパーソナルスペース狭すぎだろ。

 マリオンの大きな胸に圧迫されているミラージュも、やや迷惑そうな表情。


「約束の時間に遅れちゃってゴメンねぇ! ここに来る途中ティアと二人で、おちんちんランドに行ってたのです!」

「んなぁ!!」

 マリオンが明らかに公共の場で言ってはいけない単語を大声で口に出す。

 周りの人達も奇異の目をこちらに向ける。

 抱きつかれたままのミラージュも、面食らいながら固まっている。


「あっ! この言い方はダメってティアから言われてたっけ? リュウちゃんによると、正式名称はアダルトショップって言うんだって!」

「正式だろうと不実だろうと、人前で声を大にしていい単語ではないぞ! なんなのじゃこのナチュラル情痴女は! というか妾まで同類に見られるから離れぬかぁ!」

 ミラージュは迷惑そうにマリオンを押し退けようとする。

 だがマリオンはその小さな体の抱き心地が気に入ったのか、ミラージュから離れようとしない。


「ナーゴ!」

「ひっ! ひえわっ!!」

 傍に居たポチがマリオンの肩に飛び乗り一鳴きする──と、それを見たミラージュは鳥を絞めたような悲鳴を上げて強引にマリオンの体を引き剥がした。


「あ……危なかったのじゃ……」

「危ない? ノンノン!! ポチは優しいしカワイイし、わたしの自慢の相棒なんだよ! ほら、ポチだよ〜!」

 怯えた風のミラージュに向けて、ポチを抱えたマリオンはその前脚を手に取り振ってみせる。

 だがミラージュはポチから恐れるように目を逸らし、見ようともしない。


「と……とにかくじゃ、人目が集まってきたからこの場に留まるのはマズい。話の続きは妾の家でじゃ。探偵は信用第一。色欲まみれの淫乱探偵などと不名誉な心証が広がってはたまらんからの!」

 ミラージュは俺達と距離を取り他人のふりをしながらも、後に付いてくるよう促す。


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