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第130話 至高の名刀 1

「これで……いいんですかリュウ君?」

《ああ、くれぐれも扱いは慎重にな》

 ユーティアは俺に言われるまま、目の前の商品を手に取る。


 宿屋で大賢者ミラージュのメッセージを受けてから一晩明け、俺達は指定された場所へと向かっていた。

 とはいえ約束の時間は正午。

 時間を持て余した俺達は、散歩がてらに武器屋の並ぶ通りを歩いていた。


 その時に、路地の奥で偶然見つけたのがこの店。

 俺はこの店に並ぶ商品を見るなり、すぐに店内に入るようにユーティアに指示した。


 薄暗く狭めの店舗内。

 だがホコリ一つ無い店内には秩序整然と商品が並べられており、この店のグレードの高さが窺える。


 並ぶ商品はいずれも業物(わざもの)

《確かにこれも武器ではあるが、まさかこんなものがこの異世界にあろうとは……。しかも実に精巧に作られているな》

 俺はその技術力の高さに舌を巻く。


 細く長く、わずかに反ったその特徴的な形状。

 そしてこの独特の鈍い光沢。

 それは俺が前世で知っていたものを、まるで模倣したかのように酷似している。


 どうやらこの店は、これが主力商品のようだ。

 店内にはこれのバリエーション違いの商品が、等間隔で陳列されている。


 長い物に短い物。

 太い物に細い物。

 体型や力量、戦術によって使い分けるということか。

 実践を想定した本格的な品揃え。

 この店のこだわりたるや相当なモノだ。


「リュウ君、もういいですよね?」

 ユーティアは震える手で商品を棚に戻す。


《そうだな、では次は隣の太いやつを手に取ってみてくれ》

「ええっ! 嫌ですよ!! だってこれって……その……あの……」


「おちんちんなんだよね!?」

 連れ立っていたマリオンが、商品片手にユーティアが言いあぐねていた単語を店中に響き渡る大声で叫ぶ。

 そしてその奇行にどよめく他の客達。


「ちょ! マリーそんな……嫁入り前の女性が……その、おち……だなんて!」

「そぉ? でも正解だよねリューちゃん? わたしは大人の女性なので、とっても物知りなのです! エッヘン!!」

 そのおちんちんを片手に声を大にするマリオンは、大人というより一歩間違えば変質者である。


 もちろんおちんちんといったって、本物じゃあない。

 男性器の模造品である。


 そう、つまりここは大人のオモチャが売っている、いわゆるアダルトショップ。

 といっても俺の前世であったような、バラエティ豊かで多種多様な商品が売っている店とはかなり違う。

 この店の品揃えの約九割はおちんちん。

 実質的にこの商品の専門店と言っていいだろう。


 これはこれで夜の武器。

 武器屋通りの片隅で営まれているのは、ある意味適当なのかね?

 もっとも本来の客層は100%男性。

 血気盛んな野郎の集まるここに店を構えるのは理にかなっているのだろうが。


 なにせこの店の店員は初めユーティアとマリオンが入っていった時、呆気にとられた様子だったからな。

 さすがに止めようとしたのか立ち上がりかけていた。

 ユーティアは気付いていないようだが、入り口にはちゃんと未成年立ち入り禁止と書いてあったしな。


 だがユーティアに続いて、二人の入店を興がる男性客がゾロゾロ入ってくるのを見て店員は腰を下ろした。

 明確に法に触れるわけではなく努力義務程度の規制なのか。

 ここはあえて水を差すまいという判断なのだろう。


 とはいえこの店に女性が入るのはもちろん珍しかろうよ。

 狭い店に詰めかけた十数人の男性客は、ユーティアとマリオンを遠巻きに、しかし興味津々に観察している。


「早く出ましょうリュウ君。私もうこんな場所嫌ですよぉ……」

 右を見ても左を見ても目に入るのはおちんちん。

 いたたまれなくなったのか、ユーティアは蚊の鳴くような声で急かす。


《でもお前、ゾンビ山で王都に行ったら俺に付き合うって言ったよな?》

「それはそうですけど! こんな……の、眺めてもなにかの役に立つわけじゃないし……」

《役に立たない? それはどうかな? コレこそ今のお前に必要な物だと俺は思うがね?》

「私にって……どこがですかぁ!」

 肩身が狭そうにモジモジしながら、ユーティアはそう反論してくる。


《いや本当だぞ? 俺がただの興味本位でこの店に入るよう言ったとでも思ってるのか? 性経験の無いお前がいきなり出産というのは、さぞ負担が大きいだろうと俺はかねがね危惧していたんだ。そんな折にこの商品と出会えた。俺はピンときたね!》


「ピンとって、ま……まさか……」


《そう! つまり事前にコレを使って慣らしておくべきだと思うのだ! そうすれば本番でのリスクも、お前の精神的な負担も減るだろう! どうだ? 俺の温かい思いやりに涙が出てくるだろう?》

「いえいえ! そんなこと言ったって、こんな……大きいの……その、入る……わけないじゃないですか! 怖いですよ! 無理ですから! 別の意味で涙が出てきそうです!!」

 せっかくの俺の心遣いを、ユーティアはブンブン頭を振って拒否する。


《あのなお前、俺がコレより小さいサイズで出てくるとでも思ってるのか? 無理と思うなら今なおさらに、刻苦精励(こっくせいれい)すべき時だろう! その努力は、きっと報われるはずだぞ!》

「爽やかっぽく言っても無理なものは無理ですから! 私はぶっつけ本番でもなんとかしてみせますから、こういうのは遠慮しますぅ!」

 早くこの場から離れたいのか、ユーティアはジタバタ足踏みしながら猛烈に主張する。

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