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第129話 ヒミツの探し人 3


 ガルシアの話がもうこんなところにまで!?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 問題はその話の内容だ!


「ヌッヒヒヒッ!! まぁーなぁ! 中々の強敵だったぜぇ! なんせ奴はかつて王国屈指と謳われた天才魔法士! だがこの俺、ラモンド・グレイモール様の実力の前では木偶(でく)も同然! 呪文を唱える暇も与えず、ズタズタに切り裂いてやった──」

「……っほー、よっぽど強いんだなお前は?」

 俺はユーティアの体を奪うと、ラモンドと名乗る男の脇に仁王立ち。

 その間抜け面を見下す。


 ガルシアを倒した俺の手柄を横取りとは、ふざけた野郎だ!

 しかもさらに問題なのは、それを語るのがなんとも冴えないビジュアルのオッサンという事実だ。


 長身ながら見苦しいまでの中年太り。

 そして頭髪の生え際が激しく後退したこの男は、どう見ても衰えを隠しきれなくなった中年オヤジではないか!


「おぉよ! しかも強いのは腕っぷしだけじゃあないぜぇ? 夜の方だって現役ビンビンよぉ! 試してみるかいお嬢ちゃん!? なぁいいだろぉ! ヌッヒヒヒッ!!」

 酩酊(めいてい)状態のラモンドは、フラフラと立ち上がると俺の腕を引っ張り二階へと連れていこうとする。


 俺はそんな奴の手を払い、その腹部に蹴りを入れる。

 ラモンドは数歩後退りするものの転倒寸前で踏み留まると、鼻息を荒げて俺を睨む。


「そんなに連れ込みたきゃ力ずくでやってみな! もっとも、ホラ吹き野郎に俺が負ける道理は無いがなぁ!!」

 そしてすかさず呪文を詠唱。

 俺を中心として渦が巻き上がる。


「ラモさん! コイツ魔法士だぜ!」

「それがどうした!? このラモンド様の剣技とこのパーフェクト・ブレイクソードがあれば、魔法を切り裂くことなど容易! そしてその後はあの生意気な小娘をじっくりと陵辱してやる! ヌッヒヒヒッ!!」

 ラモンドは椅子に立て掛けてあった剣を構える。


 確かに高価そうな剣だが、目立った刃こぼれもなくまともに実践で使われた形跡が無い。

 こいつ、ウドの大木もいいところだな。


《ちょ、なんで王都に着くなりまた揉め事起こすんですかリュウ君!? とりあえず待って! おーちーつーいーてー!!》

「黙れ! ガルシアを倒したのがこんな下品なオヤジと広まれば、後々の俺の沽券(こけん)に関わる! 二度とデマが流せないように、念入りに半殺しにしてやる!!」


 そもそもユーティアは俺がどれだけ苦労してガルシアを倒したか知らないからそんなことが言えるのだ!

 その苦労を踏みにじるような行為は言語道断!

 万死に値する!


  『 龍 牙 爆 裂 砕(ガルドライヴ) !!』


 俺の拳が放たれ、ラモンドの振りかざした剣を粉砕!

 その勢いのまま、奴自身までも吹き飛ばした!!


《──いやぁこれぞ善因善果ってヤツだな! 俺の正義感に感謝しろよお前ら!!》

 その後、俺達はこの宿で一泊無料で泊めてもらえることになった。


 俺にブチのめされたラモンドは、俺の魔法で損壊した店の修繕費を支払うことで手打ちとする案に同意。

 もちろんガルシアを倒したなどという嘘も取り消させた。


 ラモンドはちょっとした小金持ちのようで支払いは渋らなかったが、俺のような子供に負けた事が余程ショックだったようだ。

 半ば放心状態で涙ながらに自分の半生を勝手に語り始めた。


 親の反対を押し切り冒険者となったこと。

 しかし自分には戦闘の素質が無かったため大成できなかったこと。

 結局親の遺産でヤケ酒に溺れる日々へと落ちぶれてしまったこと。


 だが一通り語り終わると、泣き腫らした目を俺に向けて口を開く。

「だが……あんたのおかげで目ぇ覚めたぜ! あんたの拳が俺の嘘で塗り固めたプライドを砕いてくれた! 子供でもこんなにスゲェ奴がいるんだな。俺も歳を言い訳にするのは止めだ。いつまでも不貞腐れてないで、自分のできることを探すとするぜ!!」


 ラモンドはそう再起を誓ってこの酒場を去っていった。


 この店としても最近はラモンドが入り浸っては騒ぎを起こし他の客に迷惑をかけていたので、それが改善されそうなのは喜ばしいとのことだ。


《しかし、良い行いをした後は気持ちの良いものだな!》

「それは偶然たまたまの結果論じゃないですか! もうぜーったいに暴力使っちゃ駄目ですからねリュウ君! メッですよ!!」

 一階で軽く食事を済ませた後、二階の部屋に上がる階段の途中でも俺とユーティアはまだそんな言い争いをしていた。


「ふわぁ〜元気だねぇ二人とも〜。わらしは眠いからもー寝るねぇ。おやすみぃ〜」

 夜は急激にテンションの落ちるマリオンが、ポチをヌイグルミのように抱きかかえながら自室に戻っていく。


「私達も休みましょうリュウ君。お小言の続きはまた明日ということで」

《え、まだ続くのこれ?》

 ユーティアはマリオンが入った部屋の隣の部屋の扉を開ける。


 安いだけあって古いベッドと机だけが備えられた小さな部屋。

 だがその簡素な部屋ゆえに、入った瞬間にその異変は察知できた。


 窓辺に浮かぶ小さな──サッカーボール程の大きさの影。


「キエェー!!」

 その影は、俺達が部屋に入ると同時に奇声を発しながら羽ばたき、部屋の中をグルグル飛行し始める。


「きゃわっ! なな……なんですかこれ!!」

 ユーティアは思わず頭を抱えしゃがみ込む。


 部屋に鼠が出ることはあったが、まさか鳥とは。

 鳥といってもその体型は少しずんぐりとしていて、フクロウのようなシルエットをしている。


《いや、だがこの鳥……妙だぞ?》

 光をまるで反射しないその体は、まるで影そのもののようですらある。 


 何度か部屋を旋回した鳥は、そのまま部屋の壁に激突。

 弾けるように霧散する。


「え? 消え……た?」

《いや違う、これは……部屋を明るくしろユーティア》

 俺の指示を受け、ユーティアが部屋の灯りを付ける。


 鳥が激突した壁には、黒い液体のようなものが文字の形に付着していた。

 この黒い液体は、寸前まで鳥だったものだろう。


《つまりあの鳥は生き物ではなく、魔法によって生成された鳥の形をした使い魔……か?》


 それにしてもこうして文字まで浮かび上がらせるとは、相当に高度な魔法だぞ?


 しかしこの魔法を使った相手は、探すまでもなくすでに判明している。

 なぜなら壁にはこう書かれているからだ。


 “明日の正午 フューメル公園にて待つ ミラージュ・ルルリリア”


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