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第124話 新しい朝がきた 1

 東の空が明るくなってきた。

 長い夜が明けようとしている。


《はわぁああ!! 魔物! 魔物がぁあ!! ……ってあれ? いない? 私……達、無事に逃げられたんですかリュウ君??》

 暁光(ぎょうこう)に導かれるように、ようやくとユーティアが意識を取り戻した。


「逃げられた、じゃないぞ眠り姫。お前が気絶している間に、俺は相当数のゾンビを粉々にしたしその親玉を今まさにぶっ潰したところだ。だというのに、お前は呑気なものだなまったく」

《え? 気絶……って? 私が?? はわっ……そういえばいつの間にか朝になってるうっ!?》

 浦島太郎状態となって混乱し始めるユーティア。

 だがここが山頂であることと周囲の戦闘跡から、俺の主張が正しいことを理解したようだ。

 

《うぅ……ごめんなさいリュウ君。夜中に子供を放置するなんて、私は最低の親です! 極悪非道の大罪人です! この悪行を、どうやって償えば許されるでしょうか?》

 ユーティアは悲愴に満ちた声で懺悔し始める。

 いちいち重い女だな。


 ここでこの弱みに付け込んでイニシアチブを取ることも可能だが……今回はユーティアが気絶していた状況に救われてもいる。

 あまり積極的に攻める気にもならないか。


「まぁ、今はいいさ。軽く貸し一ってことで。王都で興味をそそられる場所でもあったなら、積極的に付き合ってくれるぐらいで帳消しにしてやるよ」

《本当ですか! さすがリュウ君! 人の過ちを許せる優しい子に育ってくれて、お母さんはうれしいです!》

 ユーティアは俺が強制的にゾンビと肉弾戦に持ち込んだことをもう忘れているのだろうか?

 蒸し返されると面倒なので、この話題は切り上げた方がよさそうだ。


「ふわぁあああ~! よく寝たぁ~! おっはよーティア! ラトルちゃん! わたしはごちそうたーくさん食べる夢を見たから、今朝はちょーご機嫌ですよ!」

 そして今度は見過ごせない奴も起きてきた。

 ポチの口からずり落ちるように現れたマリオンが、何食わぬ顔で清々しく朝の挨拶をキメてきたのだ。

 

「あれ? どーしたのティア……じゃなくてリューちゃんか、そんな眠そーな顔して。さては夜更(よふ)かししたなぁ? 寝る子は育つ! 寝ない子はおバカになっちゃうぞ! いけませんなー自堕落な生活習慣は。お姉さんを見習いなさい! なーんてね!!」

 そして俺の神経を逆撫でするようなセリフを次から次へと吐き出しやがる。


「あんのなマリオン! お前には言いたいことが山ほどあるが、今の俺は見ての通り疲労困憊。次に起きた時にたっぷりと説教してやるから! その胸を揉まれる程度で済むと思うな──」

「うわあっ!! スゴイ! 見てみんなっ!!」

 聞いちゃいない!

 マリオンは俺の小言を遮って抱き付いてくると、山頂の中央を指差す。


 ハート形の巨大魔石。

 あの戦闘でも魔石周辺は無傷だったようだ。

 ガルシアはあの魔石も傷つけないように戦っていたのだろう。


 そしてその魔石に今、朝日が差し込み始めた。

 光は魔石の内部で乱反射し、七色の光線を周囲に投射。

 山頂全体がまるで万華鏡のような幻想的な空間へと変貌する。

 

《うわぁ!! 素晴らしいですねリュウ君!! こんなにも色鮮やかな世界があるなんて感動です! まさに神の奇跡です!!》

「ロマンチック~だね! きっとあの魔石はモーニングストーンの一種なんだよ! モーニングストーンは朝の光の波長を内部で増幅させる特性があるんだって。でもわりとレアーな魔石だから、あの大きさは絶対に世界一だよ!!」

 ユーティアもマリオンも、この不思議な光景を目の当たりにして大はしゃぎだ。


 たしかにまぁ、こんな神秘的なランドスケープは観光地の目玉としては恰好。

 告白の名所としてもピッタリだ。

 そりゃ成功確率も上がるんだろうよ。

 もっとも今の俺には無縁の話だがな。


「ユーティア……さん……」

 ラトルが、なにか思いつめた様子で俺に声をかけてくる。


「その……今こんなことを言う僕をお許しください。でも僕は意気地が無いので、今ここで言えなければ今後一生この言葉は言えないでしょう。僕にこんなことを言える資格が無いことも重々承知しています。でも今言わなければ僕は必ず後悔するはずです。だから……その……」

「あん? なんの話だ?」


 ラトルの意図が読めない。

 言葉を続けようとして口を開き、しかし口をつぐむ。

 しばらく沈黙した後、覚悟を決めたように大きく口を開け言い放った。


「好きですっ! ユーティアさんっ!!!」

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