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第119話 Alone Battle 2

 ガルシアのそれぞれの口から同時に、しかし別々の呪文が吐き出される。


 基本的に魔法の行使には呪文の詠唱が必要なため、どんなに優れた魔法士であっても同時に二つ以上の魔法は発動できない。

 それをこんな形で克服してくるとは!


 高位魔法の連撃。

 俺の身体強化魔法や魔力によるレジストでも防ぎきれないかもしれない。

 奴が初弾を打つ前に、あのやかましい口を粉砕するしかない!


 だが魔法で攻撃しても、奴は詠唱中の呪文の一つをキャンセルしてまた防御魔法を展開するだろう。


「ならば……肉弾戦しかない!」 

 直接俺の拳をお見舞いしてあの骨野郎をバラバラにしてやる!


 俺はガルシアに向かって全力で疾走するが──


「うふふっ、残念ね遅いわよ!」

 ガルシアは右腕をこちらにかざす。


  『 プリマヴェーラ・ガーデン!!』


 奴の前方の地が割れる──いや破裂するという表現の方が近い。

 と同時にその裂け目から天を突くほどの火柱が吹き上がる。

 その赤き灼熱を伴った地割れは、まるで稲妻のように枝分かれし扇状に広がりながら地を這い、一瞬で俺の目前まで迫る。


「クソッ! んなモン……食らうかっ!!」

 俺はすんでて横に跳びギリギリで回避。

 直前まで俺がいた地点は、一瞬で炎の波に飲まれる。

 いやそれどころか周辺一帯は地盤そのものが四分五裂に分断され、その裂け目の底では溶岩がゴボゴボと音を立てて煮えたぎっているという超危険地帯へと変貌していた。


「うふふっやるじゃない、上手に避けたわね。でも次の第二関門はそううまくいくかしら?」

 間髪入れずにガルシアは第二の呪文を発動する。


  『 コスメティック・シャワー!!』


 奴の周囲の巨岩が、次々と上空に巻き上げられる。

 そしてバリバリと悲鳴のような音を立てて捻じられ、岩の槍へと変貌する。

 槍とはいってもその質量は小型のものでも数百キロ、巨大なものなら数トンに達するだろう。

 それら大小無数の槍が、一斉に雨あられとなって地表へと降り注ぐ。


「チッ! この数だ! 個々の迎撃は難しいか!」


 ならば当然回避するしかないのだが、如何せん足場が悪い。

 地割れに落ちようものなら、当然溶岩に溶かされ死ぬ。


 上方に注視しつつ足元にも気を配らなければならないという、なんともいやらしい窮地へと追いやられた。


 俺は地割れを飛び越え地面を転がりながら岩槍を避ける。

「クッソ! あいつ遊んでやがる。逃げ惑う俺を眺め楽しんだ挙句に(なぶ)り殺しにするつもりか!」


 幸い石槍の直撃は避けられているものの、岩場に激突してり砕けた破片を食らったりで体のあちこちで血が滲む。

 もはやガルシアに近づく暇すらない。

 岩槍を避けるので精いっぱいだ。

 そんな中不意に、一際巨大な岩槍が俺めがけて落下してくるのを察知する。


「しまった──いままでの岩槍は囮、トドメ用の本命はコレか!!」

 このサイズを避けるのは無理──迎撃するしかない!

 俺は身をかがめ防御態勢を取りながら呪文を詠唱し、目標を頭上に設定する。


  『 爆 裂 光 炎 弾(ヘル・ゼシオン) !!』


 多重火球系の中位魔法。

 本来こんな至近距離で使っていい魔法ではない。


 上方数メートルで炸裂した複数の火球は、次々と大岩を爆砕し吹き飛ばす。

 とそのついでに俺の体も爆風で吹き飛ぶ。


 ──だが、これも計算の内。

「これで……チェックメイトだ! やっぱ俺って天才!!」

 軽々と吹き飛んだ俺の体は地面を転がり、しかしすでにガルシアの目前まで迫っていた。


 転んでもタダでは起きない。

 ピンチをチャンスに変える男、それが俺である。


「散々おちょくりやがってこの干物が! そのふざけた頭部を引きちぎって見世物小屋に売り飛ばしてやる!」

「うふふっ無駄な努力ご苦労さま! でも第三関門が残っているのをお忘れじゃなくて? 二つの関門を突破したご褒美にアナタにプレゼントしてあげるわ。地獄への片道切符をね!」

 そう勝ち誇るガルシアの右手の上には、直径30センチ程の空気の固まりが浮かんでいた。


 いや空気の固まりなどという表現では生ぬるい。

 まるで巨大な竜巻が超圧縮されたような、凄まじいうねりと轟音。

 これは……マズい!

 明らかにこの間合いで撃たれてはいけないタイプの魔法──


  『 ブリリアント・ダンス!!』


 限界まで圧縮された空気が弾ける。

 まるで空間の断層のような刃が四方八方へと乱れ飛び、周囲をズタズタに切り裂いた。

 その切れ味たるや巨大な岩であろうとまるで紙のように易々と両断するほど。

 これでは俺の身体強化魔法により硬化された肉体ですら貫くだろう。

 加えてこの至近距離で放たれては見切ることも運任せに掻い潜ることも不可能。

  これでは一巻の終わり──


 とは、しかしならなかった。

 結果的にその魔法は、俺の体に傷一つ付けることはできなかったのだ。


「「「な……なんですって!?」」」

 ガルシアは声をハモらせ驚嘆する。


 俺が無傷で済んだ理由。

 それは俺が呪文発動の直前にこの場でただ一か所の安全地帯へと逃げ込んだからだ。

 その場所とは──ラトルが封じられている水晶の真後ろ。


「はっ! お前はラトルがお気に入りのようだったからな。ここだけは攻撃範囲から外すと踏んだんだが、ビンゴだったな!」

 ガルシアに三発目の魔法が残っていることなどもちろん承知。

 だから俺は保険も兼ねて、意図的にラトルの近くに吹き飛ばされたのだ。


「「「み……味方を盾にするなんてっ! とんでもない外道だわ! この人で無しー!!」」」

「お前に言われる筋合いはない! それと散々遊んでくれた借りを、まとめて返させてもらうからな!!」

 形勢逆転!

 俺は慌てふためくガルシアに殴りかかる。


 この至近距離なら再度呪文を唱える暇は無い。

 このまま畳み掛ける。

 ガルシアの顔面めがけて放った俺の拳が、その頬をかすめ削り取る。


「「「ふひぃいいい! ワタシの美しい顔をよくも! よくもぉおお!!」」」

「こんの! ウロチョロするんじゃねぇ!!」

 ガルシアは俺の連撃を、まるで幽霊のようにフワリフワリと躱す。

 宙を舞うようなその動き故に先読みができず、俺の攻撃がなかなかクリーンヒットしない。


 しかし詰めた間合いは堅持する。

 再びあのふざけた三連魔法を唱える隙は与えない!


 そしてようやくガルシアの動きを捉える。

 このタイミングなら避けられない。

 俺が渾身の一撃を繰り出した瞬間──


 突然、ガルシアの姿が消える。

「なっ、なに!? 奴はどこだ?」


 俺の拳は虚しく空を切った。

 前方にも、振り返ってもガルシアの姿が見当たらない。


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