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第11話 小さな冒険者 1

「我こそは冒険王アレックス! 悪魔の森の魔獣王め、オレとその手下が成敗してくれる!」


 ここは教会前の広場。

 昼食後、ユーティアと子供達はこの広場に集合していた。


 といっても年長の二人は別だが。

 あの二人は進学を控えて猛勉強中なのだとか。

 進学できればここを離れて寮で生活することになるが、それは本人たちにとって大きなキャリアとなる。

 しかし学費を抑えるためには特待生での入学が必須なので、こうして休む暇なく勉学に打ち込んでいるのだそうだ。


「おいっ! 聞いてるのか魔獣王め!」

 アレックスが俺に、というかユーティアに剣を向ける。

 といっても厚紙で作ったオモチャの剣だが。


 しかもアレックスだけではない。

 他の子供達もデッキブラシを改造した魔法の杖やら底の抜けた鍋で作った兜やらで、思い思いに仮装をしている。

 さらにだ──


「もちろん聞いているぞ身の程知らずの愚か者ども! その身を我が爪と牙で引き裂いて生き血をすすってやろうぞ! 覚悟するがいい、ガオォオオ!!」

 牙の付いた被り物に大きな爪とフサフサの尻尾。

 ことさら力の入った仮装で芝居気たっぷりなのが、ユーティアだ。


《なんだこれは? コスプレ大会か?》

「冒険者ごっこだそうですよ。子供は好きなんですよねぇこういうの」


《お前も好きそうに見えるが?》

「誤解です! 私はどちらかというとポエムの朗読会とかやりたいんですけど子供受けが悪くて。そしてこうしていつも冒険者ごっこで魔物役をやらされるもんだから、いつの間にやら造形技術や演技が上達しちゃってるんです!」

 ユーティアは両手のグローブから飛び出した黒い爪をカシャカシャ鳴らしながら嘆く。

 安全性を考慮した軽い素材で作られてはいるものの、その見た目たるや妙にリアルなこと。


 しかし冒険者に魔物だと?

《まさかとは思うが、この世界には魔物がいるのか?》

「いますよ? 作物を荒らしたり、時には人に危害を加えたりと喜ばしい存在でないのは確かです。でもこの辺りにはまず現れないので、心配しなくてもいいですよ」


 マジ?

 魔法があって魔物までいるとは。

 いよいよ本格的なファンタジーの世界だな。


「戦闘中に独り言とは余裕だな魔獣王! しかしその油断が命取りだぁああっ!!」

 アレックスが猪突猛進で斬りかかってきた。


《オイ当たるなよ! 当たったら俺も痛いんだからな!》

「大丈夫です、ちゃんと避け──きゃうっ!」


 が、言ってるそばからユーティアは転んだ。

 地面のわずかな段差に蹴躓(けつまず)いて顔面から地面に激突。

 被り物のおかげで直撃はしなかったもののかなり痛い。


「あっはっは! 自爆とは無様だな魔獣王! 人を食いすぎて動きが鈍っているのか? 今トドメを刺してやろう!」

 アレックスが剣を振りかざす。


「だめぇーっ!!」

 今にも剣を振り下ろさんとするアレックスをルーシィが突き飛ばす。


「おいなにするんだルーシィ! せっかくのチャンスだったのに!」

「だってアレックス本気で刺そうとしてたもん! 刺さったら痛いよぉ!」

 ルーシィは半泣きで訴える。


「大丈夫だって、ティアは回復魔法が使えるから腕がもげたぐらいなら治せるだろ? な?」

 女の涙には弱いのか、アレックスは慌ててルーシィをなだめる。


《え? てかおまえ……魔法使えるのか? 今そういう設定とかじゃなくて?》

「は……はい、簡単な治癒と保護程度ですが。ちなみに腕がもげたのとかは無理ですよ」

 ユーティアはおでこをさすりながらヨロヨロと立ち上がる。


《それはつまりシスターだからってことか?》

「そういうわけではないです。シスターで魔法を使えるのは私と院長だけですし。子供達の中では……」

 ユーティアはアレックス達の後方で、こちらに向かって両手をかざしているモモとネネに視線を向ける。


「はぁいあ」

「さんたぁ」


 ポウンポウンと、二人の手の平から淡い光が弾けては消える。

《……なるほど、あの二人か》

 

 それから10分程ユーティアは子供達と格闘する。

 といっても実質的に相手はアレックス一人だが。


 ルーシィはハラハラしながら不利な方を応援しているだけだし、モモとネネは相変わらず後方でポコポコと届かない魔法を使い続けていた。

 結局どちらの攻撃もクリーンヒットせずに昼休みは終了した。


「くっそー! もっと修行して、絶対一流の冒険者になってやるからなぁ!!」

「もぉそんな危険な仕事ダメって言ってるのに! アレックスは本当は頭が良いんだから、勉学に励んで進学しなさいって言ってるでしょ! それとみんな、そろそろ午後の授業が始まるから教室に戻ってね。アマンダさんを困らせないように!」

 皆まだ遊び足りないようだったが、ユーティアに言われて渋々建物に戻っていった。


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