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第118話 Alone Battle 1

「ポチ! 下がってろ!」

 俺はポチに命じて後退させる。

 このレベルの魔法士同士の激突だ。

 巻き添えを食らったら一巻の終わりだろう。


 俺もガルシアとの距離を詰めることはしていない。

 敵の能力は未知数だ。

 臨機応変に対応できる間合いが必要になる。


「さて害虫、どんな殺され方がお好みかしら? 慈悲深いワタシはアナタのお好みに合わせて、かつワタシの芸術的センスによるアレンジを加えた絶望的な死をプレゼントさせていただくわ。何せワタシが行使する魔法は多種多様、きっとお気に召す処刑法がみつかってよ? 全身を強酸でドロドロに溶かそうかしら? それとも原型をとどめないほどに細切れの八つ裂きにしてやろうかし──」


「アルファティオンス・メルパティランス・イマージフ・ゼル・ゼア (よい)の宝玉 (あかつき)の秘鍵 揃いて盟約の棺は開かれる 破壊と殺戮の権化たる炎帝は目覚め その本能のままに終局を奏でる!」 

 奴の口上に付き合う必要はない。

 そして出し惜しみも無しだ!


  『 極 滅 大 紅 蓮(アーカーディア) !!』


 多重火球系の高位魔法。

 超高熱の大火球の全弾一極集中。

 不死化しているといったって、体の隅々全細胞を瞬間的に焼き払ってしまえばひとたまりもない!


 次々と炸裂する火球の連撃によって爆ぜる炎は狂瀾(きょうらん)し、山はこのまま割れるのではと思えるほどの地鳴りで叫喚する。


「さすがにリッチといえどもこれを食らって健在とはいくまい。アンデッドは火属性に弱い。相手が悪かったな天才さんよ!!」

 言いつつ俺は岩が溶解する爆心地を凝視する。

 視界が熱波で歪んでいるため奴の姿は確認できない、が──


「やれやれ、人の話は最後まで聞くものよ。(しつけ)のなってない害虫だこと」

 ゆらぐ炎の中から、ガルシアの涼しい声が響く。


 やがて俺の視野の中央に、無傷の奴の姿が浮かび上がった。

 それも俺が攻撃する前とまったく同じその場所で。


「なっ、なんだと!? まさか……あの攻撃を耐えた? いや、耐えたというより防いだ!?」

 そう、奴の前方には半透明の壁のような光が輝いている。

 その壁によって俺の魔法が阻まれたようだ。


対魔法防御壁アンチ・マジックシェル!? まさか……そんな高度な防御魔法まで行使できるってのか?」


 攻撃魔法と防御および回復系の魔法とでは、マナの作用の方式がまったく異なる。

 魔法という(くく)りでは同一視されがちだが、実際には水と油並みに別系統の代物。

 だから仮に攻撃魔法の達人がいたからといって、普通は高度な防御魔法まで使えるということにはならないのだ。


 現に俺も高度な防御や回復の魔法は持っていない。

 もちろん俺の場合は身体強化魔法で肉体を硬化して防御力を大幅に上げることはできる。

 だがそれは、分類上防御魔法というよりは強化魔法。

 純粋な意味での防御魔法というのは、やはり苦手なのだ。


 しかしガルシアは今明確に対魔法の防御壁を展開している。

 しかもあの高位魔法を無効化するほどの強力な防御壁とは……


「うふふふっだから言ったじゃない、ワタシは両刀使いだってね。性別を超越したワタシは攻撃魔法も防御魔法も自在に扱うことができるのよ。どう? 恐れ入ったかしら?」

 ガルシアは左手を腹部に当て、軽くお辞儀をしてみせる。

 あれだ! 英国紳士とかがよくやってるやつ!

 余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》って感じで逆に腹が立つ!!


「とはいえ……むしろ驚いたのはワタシの方だわ。アナタの魔法のとてつもない威力。この魔法壁ですら完全には防ぎきれなかったわ。不死化していなければ一瞬で焼け死んでいたはずよ。おまけにこのワタシですら知らない言語と術式……うふふっ、面白い! 年甲斐もなく血が(たぎ)ってきたじゃないの! 相手にとって不足無し! こちらも全力を出した方がよさそうね!!」


 干乾びたコイツのどこに(たぎ)る血があるというのか?

 などと心の中で突っ込んでいる間に、ガルシアは胸の前で両手を合わせて印を組む。


「とびきりキュートでちょっぴりお茶目 合言葉はラブ&ピース! みんなの想いは受け止めたわ! プリズムパワーでメーイクアーップ!!」


 これは……呪文なの……か?

 リズミカルに韻を踏んだ詠唱といい、独特なマナの挙動といい、正道の魔術プロトコルとは思えない。

 どうやらガルシアの使う魔法は奴のオリジナルらしい。

 長年引き籠もって魔法研究をしていたのは伊達じゃないってわけか?

 

  『 エンジェリック・ファンシーレボリューション!!』


 ガルシアの呪文、それは攻撃のためのものではなかった。

 呪文の発動と同時に奴の頭蓋骨の両脇がボゴリボゴリと膨らみ、左右それぞれの隆起に横一線に亀裂が生じる。

 その裂け目はまるで意思を持つかのように蠢くと、内側から牙のような突起物まで生やし始める。

 さらにその上部にはそれぞれ二つずつの穴が空き、赤紫色の炎を宿した両眼まで生成され始めた。

 それはさながら阿修羅像のような三面顔。


「「「どう? これぞ人類が究極まで進化した姿! 名付けて三神一体エンジェリック・キャルピュア!! あらゆる生物の頂点に君臨するにふさわしい神々しさでしょう? さぁ畏れなさい! 敬いなさい! 平伏しなさい! うふっ……うふふふふっ!」」」

 三つの口のそれぞれから異なる声質で同じ台詞が同時に発せられる。


「なーにがエンジェリックだ! その姿のどこが神々しい? お前の家に鏡は無いのか? 今のお前は田舎の寂れた遊園地のお化け屋敷か、秘宝館の卑猥なオブジェの隣に並び立ってるのがお似合いだぞ? ぷっ……くく……想像したら笑えてきた!」

「「「ぐぬぬぅ~口の減らない害虫だこと。そうやって余裕風を吹かしているところを見ると、まだ事の深刻さを理解していないのかしら? 魔法士であるワタシがこうして三神一体化することによって、常人では成し得ない神業が可能となるのよ。さぁ、それは何かしら? わ・か・る・か・し・ら?」」」

 ガルシアはリズミカルに指を振りながら問う。

 まるでクイズの司会者のように。


「フッ……舐めるなよ! もちろん一目見た時から見抜いているさ! 答えは“三倍早食いができる”だろ!!」

「「「ちっがーうわよっ! わざとでしょ? アナタ絶対わざと間違えてるわね? どうやら三神一体エンジェリック・キャルピュアの恐ろしさを実際その身に味あわせる必要があるようね。いいわ……見せてあげるからあの世で後悔なさい!」」」

 ガルシアは激昂すると、その細い指を複雑にからめるように印を結ぶ。

 そして──


「パフュームの香りが広がるの 妖精がスキップするみたいに──」

「ナイーヴな乙女達 秘密のルージュで女子力アップよ──」

「情熱的に踊りましょう リードはお任せするわ──」


 チッ! やはり……三重詠唱かよ!

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