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第117話 アバンギャルドな天才 2

「そうかい、それで今さらに、かなーりの遅まきながらも王国に復讐をし始めたってわけかい?」

「うふふ……わかっちゃないわね。勘違いしないでほしいんだけれどね、ワタシは自分を誇示したいわけじゃない。純粋に魔法研究に打ち込めればそれで満足なのよ。その意味では(きょ)を構えたこの山はうってつけだったわ。この山には特殊な魔力が流れる二本の地脈があるの。ワタシはその魔力が交差する頂上にあの魔石を作り、さらに超高度な魔法研究の礎を築いたわ」

 ガルシアはそう言って魔石を指差す。


 やはりあれは人工的なものだったのだ。

 二つの魔力を制御するために、あのようなハート型になったのだろう。


「な・の・に・よ! 一年半ほど前からよ! あの魔石を見つけた人間共が、この神聖な研究所に男女が乳繰り合うための低俗な施設を作りだしたのは! 人が集まるということは、それだけでも地脈に影響を及ぼすわ。しかもそれが盛った猿のように交尾をすることしか頭にない低俗な連中ばかりだとしたら? 最悪よ最低よ! 汚らわしいわ!」

 無いはずのはらわたが煮え繰り返っているとばかりに、ガルシアは雑言を吐き出す。


 しかしこの事件の発端が、まさかこんなリア充爆発しろみたいな理由だったとは……


「それで全員殺したと?」

「ええそうよ。でもワタシは心が広いから、全員生きる屍として生まれ変わらせ自分の子供のように可愛がっていたのよ。だというのに! アナタとあの大男がその大半を惨殺してしまった! 許せないわ! この血も涙もない害虫め!!」

「なんだそりゃ? そっちから仕掛けておいて、ずいぶんな言い草だな!」

 そもそもゾンビを生まれ変わらせただの惨殺しただのという言い分についていけない。

 血も涙もないはこちらが言いたいセリフだ!


「そうでなくても、ワタシはアナタみたいな女はだいっ嫌いなのよ! 若いってだけで粋がっている小娘がね! 腹黒いくせにその純情ぶった容姿でどれほどの男をたぶらかしたのこのビッチが! あぁあ嫌だわイヤラシイ汚らわしい! 不潔! 不潔よ!!」

「あのな! 初対面のお前になぜそこまでこき下ろされにゃならんのだ?」

 もうここまで来るとただの嫉妬である。

 どうしてこういう輩の言い掛かりは、こうもテンプレ通りなのか。


「それに比べてこのボウヤは見所があるわぁ! 穢れを知らない無垢な瞳。そして大人になりきる前の細く頼りない肢体。見ていてゾクゾクしちゃう! 後でじっくりその全身を(もてあそ)んでから、腐らないよう薬液に漬けて観賞用のアンデッドにしてあげるわ! うふふっ……と~っても楽しみ!!」

 ガルシアはラトルを封じた水晶を愛おしそうに撫でながら吐息を漏らす。

 しかしリッチでオネェでショタコンとは、設定盛りすぎだろコイツ!


 この変態にはこれ以上付き合いきれない。

 こちらの頭がおかしくなりそうだ。


「ならそのラトルは好きにすればいいさ。俺も今後そちらから手を出さなければゾンビも倒さないと約束しよう。どうしても戦いたいなら西の元別荘に大男の方が向かっているから、そちらで相手をしてもらうんだな。俺はお前と遊んでやるほど暇じゃないんだ。せっかく不死化した命を散らしたくなければ道を通してもらおうか。いくぞポチ」

 そう言って、俺は東側の登山道へ向けて歩き始める。


「ちょっと! まさかこのボウヤを見捨てて逃げるつもりじゃないでしょうね? アナタの仲間なんでしょう?」

 そう言って俺を引き留めようとするガルシアに、俺は面倒くさそうに振り返る。

「知るかよそんなこと。そもそもそいつは俺のボディガードとして同行していたんだぜ? なのにあっさりとやられやがって。そのうえ俺が危険を冒して助けるんじゃ本末転倒だろう? 自分が犠牲になっても俺が無事ならば、ラトルも本望だろうよ」


「し……信じられないわこの薄情者! 冷血女! アナタには人の心というものが無いのかしら? これじゃロクな大人にならないわね! 断言できるわ!!」


 ガクッ──と、ガルシアの非難を受けた俺は突如、盛大に肩透かしを食らったような虚無感に襲われる。


 そうだった、今ユーティアは気絶中だった。

 ここで突っ込みを入れるのはユーティアの専売特許のはず。

 しかしユーティアの代わりにガルシアに叱罵(しつば)されるという状況が、無性に空しい。


 例えるならツッコミ役を失ったボケ役の漫才師のような。

 いやいや、俺とユーティアは別にそういうペアではないのだが……


「それに逃がすはずがないでしょう? アナタも大男もね! 心配しなくても、ワタシならどちらも一瞬で息の根を止められるわ。そして残りの子供達をかき集めて、次の夜には麓の村へ攻め込むの。そのための準備も必要だし、忙しいのはむしろワタシの方だわ!」

「なん……だと!? 麓の村へ下りるだと!?」

 それは絶対に看過できない魂胆。

 俺はガルシアを睨みつける。 


「そうよ、だってアナタ達害虫のせいで、子供達が減っちゃったんだもの。だから手始めに麓の村を占領し、そこを拠点として王国中にアンデッドタウンを拡大していくの! 今回の件で、人間は生かす価値の無い害虫だと思い知ったわ! だから王国全土を、いいえ世界全土をアンデッドの楽園にするのよ! まぁいずれはこうするつもりだったけどね。うふふふっ」


「──はぁ……なんだかなぁ」

 楽しそうに未来予想図を語るガルシアを前に、俺は気怠そうに頭を抱える。


「お前は救いようのないバカだな! 大人しくこの山に引き籠もっていれば見逃してやったのに。山を下りるだと? そんな事この俺が許すはずがないだろうが!!」

 そして俺はビシリとガルシアを指差し言い放つ。

「この王国はな、すでに俺が征服予約済みなんだよ! だというのにその王国をゾンビだらけにしようって汚物がいやがる! むしろお前こそが害虫だったな! しかもとびっきりタチの悪い悪虫!! そして害虫退治は大元から根絶が鉄則! 今ここでチリ一つ残さず滅殺させてやるぜ!!」  


「うふふふっ……トコトン生意気な身の程知らずの害虫ねぇ。いいわ! よほど腕に覚えがあるようだけど、格の違いというものを見せつけてあげる! 地獄で後悔するといいわ!!」

 ガルシアは両手を大きく広げる。

 と同時に奴のローブから吹き出すように、その魔力が膨れ上がる。

 完全に臨戦態勢だ。


 やれやれ……結局こうなるのかよ。

 だがまぁいい。こいつは正真正銘ここで倒しておかなければ取り返しのつかなくなる相手だ。


 あとまぁ……そのついでにラトルも助けてやるか。

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