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第116話 アバンギャルドな天才 1

「ガルシア・ボッキンベル……だな?」

 俺は突如現れラトルを封じたリッチにそう問うた。


 実はこの流れはまったく予見できていなかったわけではない。

 ガルシアは生きていればそれなりの高齢。

 今さらこんな大事件を起こすことに不自然さもあった。


 だがガルシアは高位のネクロマンサーだ。

 ならば自分の肉体を不死化させていると仮定すればどうだ?

 とすれば、この疑問が解消することになる。


 リッチ──高位の術士が自身そのものをアンデッド化させた魔物。

 不死の肉体を持ちながらも高レベルの魔法を行使するというチートな存在。

 仮に並の冒険者がリッチに遭遇したとすれば、それは同時にパーティーの全滅を意味するほどの難敵である。


 今俺の目の前に立ちはだかっているリッチも、そんなご多分に漏れず脅威な存在なのは間違い無い。

 それは先程の時間停止魔法を見れば明白。


 ただこうして疑問形で確認を取っているのは、このリッチがガルシアだという確信が持てないからだ。


 ガルシアは男性だったはず。

 しかしこのリッチは女口調。

 もちろん骨だけとなっているリッチの性別などわからない。

 だからガルシアだろうというのは状況判断に過ぎないわけだ。


 しかし当のリッチは答えない。

 わずかに頭を傾げて指で顎を撫で続けるその姿は、わずかに返答に戸惑っているようにすら見えるのだが……


「どうした、山籠りが長すぎて自分の名前すら忘れちまったのか? ガルシア・ボッキンベル?」

 俺の二度目の問いを受けると、リッチはガタガタと顎骨を震わせ始めた。


「ボッキンベルじゃないわよ! マッキンベル! マッキンベルよ!! アナタこそナチュラルに人の名前間違えてるんじゃないわよこの糞害虫がぁあああ!!」

 ほぼ骨だけとなり肺も無いであろうリッチは、しかしそれでもスゴイ肺活量?で怒声を上げる。

 しかし人を害虫呼ばわりする奴に、名前を間違えたなどと攻められる謂れは無いのだが。


「それと、ワタシはガルシアという名は捨てたのよ。だってワタシが使うには凡庸すぎるしキュートさに欠ける名前でしょ? だから今はキャルピュアっていうプリティな名前に改名しているのよ。キャルちゃんでもピュアちゃんでも、お好きな方で呼ぶと良いわ害虫!」

 ガルシアは、その新しい呼称の部分だけは可愛らし〜く強調して主張する。

 そのセリフに悪寒がするのは恐怖によるものではないだろう。


「いい歳したオッサンが、まるで若い女みたいにキュートだのプリティだのと必死になって恥ずかしいとは思わないのか? それとも脳が腐って狂ってるのか?」

「シャーラップ!! 黙りなさい害虫!! 凡人はそうやって性別などという微細なことに囚われているから凡人なのよ! 至高の境地へと到達するには、その固定観念からの解脱が必要だということが理解できないのかしら?」

 などと意味不明なことを熱弁し始めるガルシア。

 やはり本当に頭が腐っているようだ。


「どうやらワタシの言うことが理解できていないようだから、低脳にもわかるように説明してあげるわ。この世界には陰と陽といった具合に対立する属性が、しかし対となって存在しているの。これは男と女の関係性でも然りであり、そこから派生する魔法の指向性にも当てはまるわ。大雑把に言えば男は攻撃魔法が得意で女は防御や回復魔法が得意といった具合にね。つまり魔法を極限まで極めるならば、性別を超越した存在になる必要があるということなのよ! そして男と女、二つの性別を兼ねそろえたワタシは究極の魔法生命体へと進化したのよ! うっふふふ!!」

 ガルシアは細い両手を大きく広げながら、まるで愚民を唆す悪徳政治家のように高らかに謳い上げる。

 その表情は読み取れなくとも、奴が最高潮に悦に入っているのはそのテンションの高い声がまざまざと示している。


「なんなんだそのこじつけ理論は? 素直に趣味だと言えよ! どうせお前、生前も女物の服とか着て出歩いてたんだろう?」

 ギクリと、ガルシアは俺の指摘に反応する。


「それが……それがどうしたっていうの! それを異端と感じること自体が、人の進化から目を背けた愚行なのよ! アナタも王国の魔法審査官と同じね! 視野偏狭の未熟者めが!」

「王国の……そういや王国と揉めてこの山に逃げ込んだって話だったな?」

「逃げ込んだ? それはまた不名誉な誤解ね。逃げたのではなくワタシが王国を見限ったのよ。当時魔法研究のために資金が必要だったワタシは、王国のエクシード認定試験を受けたわ。エクシードになればより高度な施設と資材を調達して、さらなる高みを目指すことができる。当時のワタシの能力ならエクシードに認定されるには十二分だったはず。ところがワタシの才能を恐れた審査官は、なんと申請書類の不備を理由にワタシのエクシード認定を却下したのよ! 何たる暴挙! 許されざる権力の乱用!!」

 炎のような瞳をさらに燃え滾らせながら、ガルシアはギリギリと歯ぎしりする。


「それは本当に書類に不備があったとかいう話ではなくてか?」

「不備などあろうはずがないわ。審査官曰く性別記入欄の男性と女性の両方にチェックマークを記述していたことが不受理の理由だそうよ。何たる差別主義! ジェンダーフリーの流れに逆行する狂態と言うしかないわ!!」


 やはりというか、予想通りのオチだった。

「いや……そこは男で出せよ。性別偽っちゃだめだろ?」

「偽ったのではなく、魔法士が目指すべき指標を率先して示したと言ってほしいわね。ワタシが新人類としてのスタンダードを身をもってプレゼンテーションしているというのに、頭が古代から進歩しない旧人類がそうやって足を引っ張っているのよ。嘆かわしい! 愚かしいわ!!」

 ガルシアは両手をワナワナと震わせる。


 なんだよ新人類のスタンダードって。

 こいつは将来魔法士が全員オネエキャラになるべきとでも思ってるのか?



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