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第114話 頂点 2

 ギルヴァルト・アルティウス──油断できない奴だったな。

 ドシリと根の張ったような気宇壮大(きうそうだい)な性格。

 しかしそれ故に(くみ)し易い……とはいかないだろう。


 そこは百戦錬磨の英傑。

 ただの脳筋に務まるとは思えない。

 あのマイペースな表情の裏には、培われた計算高さがあるはずだ。


 だが今回それを十分に窺い知ることはできなかった。

 ああいうタイプこそ、底が知れず恐ろしいものなんだよなぁ。

 ギルと比べると、ライアス坊ちゃんはどれほど扱いやすかったことか。

 いっそのこと、ここでギルが討ち死にしてくれた方が有難いかもしれん。


 そんな淡い期待を抱きながら、俺は闇の中を歩く。

 闇といっても今は雲も晴れ、月明かりがあるのでうっすらだが見通しも利く。

 この頂上付近では木もほとんど無いため、いきなりゾンビに襲われるということもなさそうだ。

 魔法で明かりを灯すこともできるが、自分の位置を知らせるようなものなのでやめておいた。


「でも本当によかったんですか? ユーティアさん?」

 ラトルが少し不安そうな表情で俺に尋ねる。


「というと?」

「いえ、アルティウス様はとてもお強い方なので、同行した方が安全だったのではと思いまして。ユーティアさんを守る立場の僕がこんなことを言うのもなんなのですが……」

 そう語るラトルの声には、少し残念そうな色が見え隠れする。


「お前……もしかしてギルが戦うところを見たかったのか?」

「い、いえそんな! たしかに僕はアルティウス様が実際に戦っているところを見たことはありません。しかしだからといって今回の件を口実に間近で見られたら嬉しいなどとは、少しも、これっぽっちも思ってはいませんので!」


 ラトルのこの慌てぶり。

 図星ですと言っているようなものだ。


 そういえば、ギルは王国でヒーローのような扱いなんだっけか?

 ならラトルのみならずとも、その活躍を目の当たりにしたいというのは当然なのかもしれない。


「べつに怒りゃしないよ。ギルの戦いぶりを見たいのは俺も同じさ。だが今はこの山を下りるのが先。つまりこの判断は優先順位の問題に過ぎない」

 これは本音だ。

 ギルの戦闘を見れば攻略法も見つかるかもしれない。

 しかしすぐにガルシアが見つかるとも限らない。

 ともすると、探索自体が長期化する可能性すらある。


 王国兵なら昼夜問わず働き続ければいい。

 しかしこちらはとうにお眠の時間なのだ。

 このまま速やかに下山するのが精々だろうて。


 それに、ギルがガルシアの相手をしてくれるというのなら願ったりだ。

 雑魚のゾンビだけならば、俺の魔法でどうとでもなる。

 俺とギルとですでに相当数倒しているので、残りのゾンビの数にも限度があるはずだ。


「わかりました! ならば今度こそ僕が!」

 いつの間にか俺の正面に回り込んでいたラトルが、拳を胸に当て覚悟するように声を大にする。


「魔物が再び現れた際には、今度こそ僕がユーティアさんを守ります! 騎士道に誓って!!」

「そうか……そりゃ頼もしいな」

 以前にも聞いたようなラトルの決意。

 俺はそれをラトルとは真逆の熱量で淡々と返す。


「いえ! 今度こそご期待くださいユーティアさん! 実はユーティアさんが着替えている間、臆病な僕が魔物と戦うための戦術をアルティウス様からご教授いただいたのです」

「ギルから?」

 戦闘のプロフェッショナルがどう指南したのか、それはそれで興味はある。


「はい! アルティウス様によると、恐れとは己の外側より訪れしものにあらず。自身から生まれしもの。そしてもし恐れに囚われそうになったなら、自身の思考を止めて無心となり勇往邁進(ゆうおうまいしん)せよ! とのことです!」

「ふ〜ん、なるほどねぇ……」


 目を輝かせて力説するラトルには悪いのだが、その戦法はどうだろう?

 ギルのように練磨された技術と積み上げられた経験があれば直感的に戦うこともできるだろうが、素人のラトルが考えなしに突っ込んでいったところで無謀な突撃にしかなるまいよ。


 もしかしてギルは、まだラトルがライアスに並ぶ実力者だと勘違いしたままなのかもしれない。

 もっともラトルは魔眼さえ発動すればかなり有利に戦えるから、偶然とはいえ的外れなアドバイスとも言えないか?

 要は今のラトルに必要なのは度胸なのだから。


 そんな話をしているうちに、山の頂へと到達する。

 頂上はなだらかな岩場になっていて、かなりの広さがある。

 小さめの競技場ぐらいあるだろうか?


 草木も生えぬ殺風景な場所。

 だがしかし、その中央付近に“それ”はあった。

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