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第108話 死者の帝国 3

 とはいえ文句を言っても始まらないか。

 このままゾンビを倒しつつ、夜通し歩いて山を越えるしかない。


「おいマリオン起きろ! いつまで寝てるつもりだ! 置いていかれたいのか!!」

 多数を相手にするにはこちらも人員が必要。

 俺はまだラトルに担がれたままのマリオンを引きずり下ろすと、その頬をビタビタと叩く。


「うりゅしゃいなぁ~わらしは夜はまほーがほとんど使えなくにゃるの~おでかけにゃらポチにつれてってもりゃうからだーいじょーぶ~」

 やはりまたしても不機嫌そうな対応のマリオン。

 だがその代わりにポチの丸い瞳がパチリと開く。

 そして四つ足で立ち上がると、ブルンと身震いして一回り大きく膨らむ。


「まさか……こうしてマリオンを飲み込んだまま移動するつもりかポチ?」

「ナーゴ!」

 ポチに言葉が通じているかは不明だが、どうやら趣旨としてはそういうことらしい。


 それにしてもマリオンが夜に魔法が使えなくなるというのは本当か?

 ポチはこうして動いているが……戦闘に耐えるレベルでは無理という意味だろうか?


 所詮は精神年齢小学生のお子様。

 夜間労働は期待できないということなのかね?


 しかし本人は寝てるのにポチに運ばせるとは。

 オマエ猫使い荒すぎだろ。


「しょうがない! せめてお前は役に立てよラトル! 突っ切るぞ!!」

「は……はいっ! 今度こそお役に立ってみせます!」

 俺に発破をかけられたラトルは、ここから一番近いゾンビに敢然と切り込む。


 ゾンビの動き自体は敏捷ではない。

 いくらラトルでも外しはしないだろう──と思ったのだが。


 スカッ──と、外した!

 あいつほぼ棒立ちのゾンビ相手に外しおったぞおお!!


「今のを避けられるとは! 素早い奴め!」

 ラトルは振り向きさらに一撃打ち込むが、これも外す。


 ──ヘボすぎる!

 ゾンビ相手の恐怖心からか、ラトルの奴完全に腰が引けてやがる。

 おまけに相変わらず目を瞑ったままでの攻撃。

 こいつまったく成長していやがらない!


「就寝前にあれだけ大見得を切っておいてこのザマはなんだ? やる気あるのかお前!」

「死ぬ気で戦っているつもり……なんですが。なにせ見た目が怖くてですね、ひぇ~!!」

 ゾンビに怯えるラトルの姿は、お化け屋敷で怖がる小学生のようですらある。


 魔物の見た目が怖いのなんて、至極当然ではないか。

 ゾンビに限った話ではない。

 覚悟が足らないから恐怖心が先に出るのだ。


《リュウ君まえ! 前にきてますぅ!!》

 ユーティアからの緊急警報。


 うまく避けていたつもりだったのだが、目の前に二体のゾンビが迫っていた。

 やはりこの暗闇、加えてこの天候では視界が悪い。


「チッ! ぬかった!!」

 だが俺は相手が襲い掛かるより早く、左右の手でそれぞれ両者の顔面を鷲掴みにする。


《なななっ! なんで素手で戦うんですかリュウ君!? 魔法を使ってくださいよ!!》

「簡単に言ってくれるけどな、こいつらを魔法で倒したとしてもその後も次から次へと別のゾンビが襲ってくるんだぞ? そいつらも魔法で倒すのか? しかも生半可な威力の魔法では行動不能には至らない! 完全に倒すには高威力の魔法が必要になる! さらにここから山越えする間、どれだけのゾンビと遭遇するかもわからないんだぞ?」

 おまけにマリオンもラトルも役に立たない。

 俺一人で戦わなきゃならないときたもんだ。


「いや、それでもこの手のゾンビだけなら俺の魔法で切り抜けられるだろう。だが問題は別にある。それはこのゾンビ共を指揮している奴がいる可能性があるということだ。俺達は計画的に襲われている。それをこの脳の腐ったゾンビ共が自発的に画策し実行しているとは考え難い。いやそもそも元人間であるはずのこいつらを、誰がこうしてゾンビに仕立て上げた? つまり裏で糸を引いている奴がいるだろうという話だ。だからソイツと遭遇する可能性がある以上、魔力は極力温存しておきたい。雑魚を大量にぶつけて疲弊したところを叩くってのは悪党の常套(じょうとう)手段だからな! つまり俺が今取るべき戦闘法は魔力消費の少ない肉・弾・戦!!」


 メキメキ──と、左右のゾンビの頭蓋骨が俺の握力に耐え切れず悲鳴を上げる。


《だ、だからって、こんな戦い方ないですよぉ! まさか本気でやらないですよね? ねぇリュウ君!!》


 バキボシャッ──と、卵が割れるようにゾンビの頭蓋骨は砕け、中から異臭を放つ腐った脳みそが噴き出す。


《いやぁあああああああああああっ!!!》


 ビックリした!

 一瞬ゾンビが悲鳴を上げたのかと思ったが、声の主はユーティアだった。

 

「五月蠅い奴だな! 邪魔をせずに黙って見ていろよ! なぁに安心しろ、俺がⅤRゲームが好きだったのは前にも言ったよな? ゾンビ無双ってⅤRゲームがあって、こうしてゾンビをブチ殺すのには慣れているのさ。もちろんリアルな感覚による不快感はあるが……自分の肉体じゃないと割り切れば耐えられないほどじゃない!」


《だから私の体だからやめてって言ってるんですぅ! こんな生々しい感覚私は耐えられませぇんっ! 病んじゃいます! 私病んじゃいますよぉ~!!》


 かといって戦わずにゾンビに噛まれでもした日にゃ病む程度じゃ済まないのだ。

 ユーティアには悪いがここはこのままいかせてもらうぜ!


「オラァア! アックスボンバァア!」

 鋭い腕の一振りがゾンビの顔面を粉砕!

《きゃああああああああああああっ!》


「くらえっ! ジャーマンスープレックス!」

 破裂するゾンビの上半身!

《いやぁあああああああああああっ!》


「よっしゃ気分が乗ってきた! ジャイアントスイング!」

 飛び出した腸を掴んでブン回し、岩壁に激突!

《やめてぇええええええええええっ!》


「ブレーンバスター! ローリングソバット!! パイルドライバー!!!」


 ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

 後に残るは文字通りの死屍累々。


 しかしその甲斐あってゾンビ軍団は突破できたぞ!

 広場を抜け、九合目あたりまで来たのではないだろうか?


 ラトルもなんとかついてきている。

 闇雲に剣を振り回すばかりでほとんどゾンビは倒せていないが。

 そしてその後にマリオンを飲み込んだままのポチが続く。

 この状態だとゾンビから人間とは認識されないのか、ほとんどゾンビの標的にはならないようだ。


「ざっと15……いや20体近く倒したんじゃないのか。なぁユーティア?」


 ────返事が無い。

 無茶な戦い方を強行したから拗ねてるのだろうか?


「しょうがないだろ他に方法がないんだから。返事ぐらいしろよ!」


 ────だがやはり返事は無い。


「おい……まさかお前……気絶してるのか?」

 そういえば戦闘途中からユーティアの悲鳴が聞こえなくなっていたとは思っていた。

 だがまさか、この状態で意識を失うとは器用なやつだな。


「……しかし、さすがに疲れたな」

 まぁおかげで魔力消費を抑えてここまで進めたのだ、とりあえずはこれで充分だろう。


 それにこの辺りにはゾンビが居ないようだ。

 いつの間にか雨も止んでいた。

 山には静寂が戻りつつある。

 このままやり過ごせればいいが……


「ユーティアさん見てください! 前方に炎が見えます!」

 ラトルはわずかに声を弾ませ走り出す。


 たしかにこの坂を上り切ったなだらかな場所に、篝火(かがりび)と覚しき炎が見える。

 魔光石で明かりを得るのとは違い、火を起こすとなるとその行程は複雑。

 つまりゾンビではなく人間が居る可能性が高いということだ。


 人が居ればこの山の異常な状況を知る手がかりが掴めるかもしれないし、なんにしても少し休みたい。

 微かな期待を胸に、俺もラトルに続き坂を上った。

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