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第100話 サイレントマウンテン 1

 それにしても気が進まない。


「山の熊さんっこっんにっちわ~♪」


 唯一の救いはラブパレスで宿を取れば野宿をせずに済むというところだが。


「鮭が好きかっな? 鮎もうまいぞ~♪」


 しかし全室でギシアンしているような実質ラブホに泊まるなど、もはや児童虐待ではなかろうか?


「一緒に食っべよっう! ヤッホー! ヤッホー!!」


《うっるせぇーなぁああ!! さっきからなに歌ってんだこのバカ女がぁああ!!》


「ぶっぶぅー! バカじゃありませーんリューちゃん。こうして山の中で歌っていると、熊さんが寄ってこないのです! いやぁーまた博識っぷりを披露しちゃったかなぁ~エッヘン!!」

 俺とは対照的にノリノリのマリオン。

 そのテンションが腹立たしい!


《んなこたぁ以前聞いたし元々知ってる! だが熊なんか出そうな環境じゃないんだが? リスやキツネみたいな動物しか見かけないんだが?》


 観光地というだけあって凶暴な動物や魔物は出ないのだろう。実に平穏そのもの。

 野を駆けまわる温厚そうな小動物に、色とりどりに咲き乱れる山野草。

 鳥達が奏でるハーモニーに合わせて、踊るように陽光を乱反射させながら舞う蝶。

 眺望絶佳なその景色は、なるほどデートスポットに打って付けとはいえるのだろう。


 ちなみに登り始めた当初は細い山道だったが、途中で広めの登山道へと合流できた。

 こちらが正規のルートなのだろう。

 とはいえ……


「でも他の人達がぜーんぜんいないんだけど! あーあガッカリだよ~」

 マリオンはガクリと肩を落とす。


 そう、たしかにここはメインの登山道と思われるが、俺たち以外の登山者が見当たらない。

 本当にこの先にラブパレスとやらがあるのか疑わしくなってくるほどに。

 カップルを観察して女子力を磨くというマリオンの計画は早くも破綻寸前というわけだ。


「ラブパレス……という名だったか定かではないですが、王国西側の山脈に恋人に人気の観光地があるというのは僕も聞き覚えがあります。きっと王国側……つまり山脈の東側からの観光客が主なのだと思います。山上の施設まで行けば賑わっているとは思いますが……」

「おぉー詳しい! さっすがシティボーイのラトルちゃん! これはわたしも負けてられませんなぁ!」

 ラトルに励まされて活気づくマリオンだが、カッペのこいつがどうラトルと競うというのか。


「見てくださいリュウ君! 素晴らしい景色ですよ! 壮大な自然においしい空気、雲の隙間から降り注ぐ光のカーテン! まるで天国のよう……だなんて、ちょっぴり言い過ぎでしょうか?」

 そして意外にも、現状を一番満喫しているのは登山不得意宣言をしていたユーティアだった。

 鼻歌交じりに花畑で踊るユーティアは、傍から見れば妖精のように見えるのかもしれない。


「ではユーティアさん提案なのですが、ここで小休止するのはいかがですか? さすがに皆さん疲れがたまってきているとお見受けしま……す……し」

 そんなユーティアの姿に見惚れでもしたか?

 目を伏せがちなラトルは照れた風に、ちょっとそわそわしながら提案する。


「さんせー! さんせー! お腹すきましたー!! もう動けませーん!!」

 そのわりには元気だなと、ぴょんぴょん飛び跳ねながら挙手するマリオンに呆れながらも、しかし時刻は午後の三時は過ぎているはず。


 朝から歩き詰めで疲労も溜まっている。

 今後山道も険しくなる可能性が高いだろうし、今のうちに休息を取るのは賢明な判断だろう。

 俺達は見晴らしの良い場所で座り、遅めの昼食とすることにした。


「これは……なかなかユニークな形の料理ですね。中に具が入っていると言っていましたが……」

 ユーティアが食品を包んでいる大きな葉をはがすと、三角形に握られた米の塊が姿を現す。


 言うまでも無い、おにぎりだ。

 さすがオーク、携帯食まで徹底して和風。

 とすると中の具は……


「うっ……うえっ……しゅごいひぇんな味がするんひゃけどリューひゃん……これ……食べてダイヒョーブ???」

 いち早くおにぎりにかぶりついていたマリオンが、涙目になりながら()せる。


 やはり……その手に握られているおにぎりの具は梅干しだった。

 腐敗防止としては申し分ないが、異世界住人にいきなり食わせるのは難易度の高いチョイスだな。


 俺はユーティアに梅干しに害が無いことと、クエン酸による疲労軽減・除菌効果等栄養的にも優れている旨説明し、それをマリオンとラトルに伝えさせる。


「問題ありません! 昔は野菜を長期保存するために、よく塩漬けしたものです!」

 本音なのかやせ我慢なのか不明だが、ラトルはモリモリと食を進める。

 マリオンはそれでも受け付けないようで、梅干しだけはもっぱらポチに食べさせていた。

  

 食べ終わり少し休憩した後に、俺達は登山を再開。

 いまだ天気は良好。

 気温はやや低くなってきているが、寒いとまでは感じない。


 ただ登るにしたがい徐々に道は険しくなる。

 所々で進むのに難儀するようになってきた。


 観光地ならロープウェイぐらい設備しろと言いたいところだが、この世界の技術力では無理だよなぁ。

 となると登山は日帰りではなく山上での少なくとも一泊は必要となるわけで、この上で宿泊施設が繁盛するのも必然とはいえる。

 それを山頂のハート型の魔石と結び付けてカップルの名所にするとは、商売としてはあざといやり方だよホント。

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