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第99話 運命の分かれ道 2

「迷いの森を抜けると、そこは迷いの草原だった! ふむふむ……これは名探偵マリオンの名推理の出番ですな!」

 マリオンは心配ご無用とばかりに親指立てて自身の胸元を指す。

 だがしかし……

   

《推理するほどの話ではないなマリオン。方向自体は間違ってはいない。俺達が目指すのは町ではなく王都なのだから。この地域と王都の間を南北に貫く山脈があると村長は言っていただろう? 俺達の進行方向の先に見えるあの山々がそれだろう。ならこのまま進めばいいだけだ》


「でも、今日中にあの山脈を越えるのは無理ですよ? ルーベル村の周りには高い山も無かったので、私は登山に自信がありませんのでなおさら……」

 その威風堂々とした姿に畏れを抱いたのか、ユーティアは不安そうに胸の前で両手を合わせる。


 山脈の標高は2000メートル近くありそうだ。 

 朝方の出発からかれこれ数時間。

 時刻はすでに午後になっているだろう。

 それほど険しい山というわけではなさそうだが、今日中に山を越えるのは現実的ではないか。


《とりあえずこのまま進むとしよう。もしかしたら麓に小さな村ぐらいあるかもしれないし、無ければ野宿して明日山越えすればいい》

 すでに来た道すら見失っている。

 今からオークの村に戻るわけにもいかない。

 ならば前進あるのみだ!


「おっけー! ちなみにわたしは山登り得意だよエッヘン! ってべつにわたしの村が田舎で山に囲まれてたからじゃないけどね! ラトルちゃんもそれでいいかな? かな?」


「え? は、はい……」

 ラトルがマリオンの問いにやや戸惑いながら返事を返す。


「ちょっとマリー!」

 ユーティアがマリオンの手を引きラトルから距離を空ける。 


「今朝も言いましたが、リュウ君の念話の魔法はラトルさんには届いてないんです。そのつもりで話さないとだめですよ」

「おおっそうだった! リューちゃんの存在は人前に出しちゃダメなのでした! ごっめーんねティア!」

 まるで人を猥褻物みたいに言いやがるなマリオンめ。


 しかし俺が今朝そう重ねて念押ししたのも事実だ。

 ラトルに俺の存在は秘密。

 共に旅をする中で、ボロを出して悟られてはいけない。


 もちろん俺の念話はラトルには送らない。

 だからユーティアとマリオンには、それを考慮して会話を進める必要があるわけだ。


 とはいえすでにラトルの前で俺とユーティアの人格が度々入れ替わっているので、不自然なのは今さらではあるのだが。

 まぁこちらは二重人格とでも言って誤魔化せるだろうが、念話となるとそうもいかない。

 しかしそれを考慮して話すのは億劫(おっくう)だな。

 

 俺がそう思い悩んでいる中、マリオンがぴょんぴょんと跳ねながらラトルの元に戻ると、ピンと人差し指を立てる。

「解説しようラトルちゃん! わたしとティアの話がちょ〜とチグハグに感じちゃうところがあるかもしれないけれど、これはごく自然なことなのです! わたし達みたいな女子力の高いもの同士だと、身振りとか表情とかで以心伝心できるんだよね。つまりこれがガールズトークというやつなのです!」


 なんだそのガールズトークの概念は。

 言い訳にしても見苦しすぎるんじゃないか?

 と思ったのだが……


「な……なるほど。身近な女性が母上しか居なかったので疎いのですが、女性が話し上手というのは僕の想像以上なのですね。たいへん勉強になります!」

 そう目を輝かせてマリオンの出任せを信じ込むラトル。

 

 ユーティア並に猜疑心の無い奴だな。

 素直と言えば聞こえはいいが、ここまで愚直だと他人事とはいえこいつの将来が不安になってくる。


 そこから山脈に向けて歩くこと約一時間。

 麓に近づくにつれ、地表の所々で岩肌が露出するようになってきた。

 相変わらず人影は無く、代わりに山羊みたいな動物をチラホラと見かけるようになってくる。


《残念だが、この周囲に村は無さそうだな。まだ昼間だが今日はこの辺りで野宿して明日の山越えに備えるしかないか……》


 オークの村長から携帯用の食料はもらっているので、ここでも腹は満たせる。

 ただ雨風しのげる場所が無さそうなのは痛いが。

 今のところ天気は良好だが、山の天気は移ろいやすいっていうからな。


「あれは……なんでしょうか?」

 ユーティアが突然に走る。

 少し進むと草むらが途切れ、細い道が現れた。


 舗装されてはいないものの、人が往来していたであろう形跡はある。

 ただ雑草がいたるところで覆い茂るその道は、少なくとも最近ではあまり使われていないように見えるが……


「見てください! 案内板があります!」

 山方向の道が二つに枝分かれしている場所で、ラトルが木製の標識を見つける。

 よく登山道の入口とかにあるやつだ。


「えーっと、なになに~?」

 すでにかなりの距離を歩いているというのに、マリオンは疲れを感じさせない溌剌とした声で案内板を読み上げる。


「ようこそローレル山脈へ。ここからは二つの道に分かれますので、お好きな方を選んでくださいね。①右の道は山頂部へと続くラブラブロマンスルートだよ! 恋人達に大人気のリゾート施設『ラブパレス』へと向かわれる方はこちらへ。頂上のハート型の超巨大魔石の前で告白すると、永遠の愛で結ばれるという王国随一のパワースポット! さらに日の出と同時に告白すれば、その効果はなんと100倍! 生涯に渡って固く結ばれること間違いなし! ②左の道は渓谷へと続く地獄谷ルートだよ! ハーピーが大量に生息する超危険地帯! 一歩踏み込んだが最後、生存率0.001パーセント! ハーピーに食い殺されたい性癖のある方、もしくは自殺願望のある方だけお進みください……だってさ!」


 なんとも両極端なルートだな。しかしこんなもの悩むまでもないだろう。

 もちろん俺達が進むべき選択肢は──


「「ラブラブロマンスルート!!」」

《地獄谷ルートだ!!》


 ──!??

 バカな! 

 意見が割れただと?

 ユーティアとマリオンはラブラブなんとかとかいうメディアリテラシーの欠落した底辺庶民共が飛びつきそうな、低俗感丸出しのルートがいいなどと声を揃えてのたまいやがった。


「もぅリュウ君地獄谷は無いですよ? ハーピーですよハーピー? すごーく凶暴だって聞いたことありますよ? それに山上に宿泊施設があるのなら、今から登っても間に合いそうですし」

「そーだよ! それにラブラブロマンスルートで恋人同士の愛の触れ合いを観察して女子力を高めたら楽しいと思わないのかな? いえ楽しいに違いないのです!!」

 これまた調子を揃えてユーティアとマリオンはラブロマルートを超絶プッシュしてくる。


《冗談じゃない! 楽しくねぇーよ!! 発情したリア充カップルがこぞって押し寄せイチャついているような所だぞ! そんな年中クリスマスイブみたいな場所に行った日には、俺はその施設ごと爆破してしまうかもしれんぞ? そんなこの世の地獄に行くくらいなら、俺はハーピーを相手に闘う方がはるかにマシだ! それにハーピーの生態系にも興味があるしな。半分人間で半分鳥の鳥獣。どこまで人間でどこまで鳥なのか? 外見は醜い説と美形説あるが実際はどちらなのか? はたまた本当に飛べるのか? 見てみたいだろ? 気分はまさにUMA探検隊だ!》


「なにゆーまって? 死ぬほど興味ないんですけどぉ! それよりラブパレス行きたいっ! ラブパレス行って恋バナしたいのーっ!!」

《この色ボケ処女が! お前には10年早いわー!!》

 マリオンは髪色だけでなく脳みそまでピンクらしい。

 しかしこいつに付き合って俺の精神がリア充共に侵食されるなど我慢ならん!


《わかった、ではこうしよう。ここは公平に民主的に、残ったラトルに決定権を委ねるとしよう。お互いラトルの選択に従う。これで異論ないな?》

「はい? 仮にラトルちゃんがリューちゃん側に回ったとしても、二対二だからぜーんぜん公平的でも民主的でもないんだけど……まぁいいや、どうせ結果は決まってるもんね! ってわけでぇラトルちゃんはどう? やっぱりラブラブロマンスルートがいいよねぇ? ね?」


 ククク……引っかかったなバカマリオンめ!

 好奇心旺盛な年頃の少年ってのは、キメラ的な魔物にはロマンを感じずにはいられないものなんだよ。

 それにラトルは修行の一環として俺達に同行しているんだぞ。

 あいつの戦闘経験を積む相手として、素早く飛び回るであろうハーピーは打って付けの練習台。

 つまり地獄谷コースを選択しないわけが──


「その、僕もラブパレスへ向かう道が良いと思います。その方が安全ですし……」

「だよね! だよね! ハイ決定~!!!」


《なん……だと!?》


 この腰抜けめ!!!

 こいつ本当に金玉ついてるのか?

 その性根、ここで叩き直してやろうか!?


「リュウ君、約束は約束ですから、暴れちゃダメッですよぉ?」

 まるで俺の心を読んだかのように、ユーティアが牽制してくる。


《くっ……たしかに山越え前に無駄な時間と体力は消耗したくないが……》


 こうして俺達は意気揚々と歩き出すマリオンを先頭に、ラブラブロマンスルートを進むこととなった。


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