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リリィ・フラムの眼はごまかせない


「リリィ・フラム様、何か問題があったのでしょうか……」


 図書館の異変に私を抱っこしたメアリーが怪訝そうな顔をする。

 その間も、リリィさんは私をじっと見つめていて……こ、こわい。

 よく見なくても美少女で、帝都の中でも指折りの魔導師だというのだから、強キャラすぎる。


(あ……明るいところで顔見たら、やっぱりそうだ)


 リリィさんによく似たキャラクターが『FFG』のプレイ動画に出ていたはずだ……大聖女「サクラ」に負けず劣らず、限定ガチャが実装されたときにはユーザーを破産寸前の阿鼻叫喚に追いやっていた。

  かつての私と同じく、読書や散歩などのぜいたくな娯楽をする時間も気力も無く、キラキラのレア演出で脳汁を溢れさせて散財していた日本にあまねく存在する社畜たちを狂喜乱舞させたリリィ・フラムさんである。


 そんなリリィさんは、自分よりもずっと年上の同僚たちに囲まれてアレコレと書類に目を通しながら、メアリーの疑問に返事をよこす。


「問題も何も、図書館で魔塵を撒いたアホがいるんだ」

「ええっ!」

「お察しの通り、拝塵教団のしわざだ。調子に乗って、朝っぱらから余計なことをしてくれるよ。除染作業のためにこのアタシまで駆り出されるなんてさ」

「では、図書館は」

「しばらくは使えない。大量の魔塵が図書館の本にどう作用するかもわからないからね」

「それは……残念でございましたね、サクラ様」


 メアリーがちょっと萎れた声で私に話しかける。


「ちょっと、しけた顔しないでくれる?」

「失礼いたしました、魔導師団の皆様を責めているわけではございません」

「ふん、当然よ。アタシだって……」


 ぶかぶかの白いローブを着たリリィさんは、皇帝陛下の護衛でノアルさんの部屋にやってきたときと同じように不機嫌そうな顔をしている。

 思春期特有の不機嫌。

 通っていた中学のクラスにも、こういう子いたよな。

 私はというと……「何を考えてるのかわからない」と、先生や仲のよくないクラスメイトには気味悪がられていた。いや、普通に毎日疲れていてグッタリしていただけなのだけれど。

 そう思うと、不機嫌を隠さずにいられるのは健康なことなのかもしれない。


(アタシだって……って?)


 何かひっかかることがありそうだ。

 周囲でむずかしい顔をしている魔導師団の大人たちの言うことには、「除染」が必要とかなんとか。大変そうだ。


「……そういえば、貸し出し本は返却できるのでしょうか」

「あー、それならあっちで司書たちが対応してる」

「なるほど」

「貸し出しって……あんたが?」


 あんた、とメアリーを指差すリリィさん。

 慎み深い侍女は、ふるふると首を横に振った。


「いえ、こちらの本は……」


 そこまで口にして、ぴたりと言葉が止まる。

 3歳児が読むには明らかに難しすぎる本だ。


「ふぅん、なるほどね」

 

 リリィさんは、その間に何かを察したらしい。


「ガキんちょ、ちょっと顔貸しなよ」

「あぇっ」


 ずいっとメアリーに抱っこされた私に、顔を寄せてくる。

 そして、耳元で囁いた。


「……あんたが魔力ごまかしてんの、バレてないとでも思った?」


 ひ、ひ、ひえぇぇ~!

 ずっと観察されてるような気がしていたけれど。


(ば、バレてるんだ……)


 背筋がひやりとした。


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