第7話 パーティ名 青い花
赤いバラの屋敷 会議室
「1つのグループのステージが15分から20分ですの。挨拶の時間やメンバー紹介の時間を取るにしても、持ち歌は2曲必要ですわ。2曲ありますかしら?」
「はい、2曲目の『赤いバラの夏』は、歌やダンスの練度を上げているところです。たぶん、お祭りまでには間に合わせることができるはずです。」
「それはどんな曲かしら?」
「夏の海の恋を歌った曲です。元気な女の子が、好きな男の子と遊べる幸せを歌った曲で、とても明るい歌です」
アイーダと『コラール』のリーダー、レジェラが相談中。残りのメンバーは黙って聞いている。内容は、招待された各地のお祭りについてである。
「それなら大丈夫ですわね。ところで、『赤いバラ』の皆さんはアイドルを目指しているのですね?」
「はい、今は自称アイドルグループですけど。『コラール』の皆さんはアイドルを目指していないのですか?」
「私たちは冒険者ですわよ。合唱は趣味ですわ。だから、たくさんのお祭りに参加できませんことよ」
「では、1ヶ月に1つ、7月、8月、9月に1ヵ所ずつ、合計3ヵ所くらいでどうでしょうか?」
「いいですわ。人口の多い領地から選ぶことにしましょう。7月末にラフスン候爵領、8月にタイリア伯爵領、9月にイスス伯爵領、の3つでいいかしら? ちょうど、1ヶ月に1つになります。でも、ラフスン侯爵領のお祭りまで時間がありませんことよ。大丈夫かしら?」
「大丈夫です。でも、どうして人口の多い所なのですか?」
「多くの魔音盤を売ってこそアイドル。アイドルを目指すのであれば、魔音盤の売り上げを増やさないといけませんわ。人口の多い場所の方が、魔音板の売り上げも多くなりますことよ」
「なるほど。アイドルになるためには、いろいろと考える必要があるのですね」
レジェラはなかなかの切れ者である。さすが、『コラール』のリーダー。アイドルの売り出し方法に知識があるのは、ひょっとして、レジェラもアイドルを目指したことがあるからだろうか?
「赤いバラの皆さんは、このような地方イベントに参加するのは、初めてでしたかしら?」
「はい。初めてです。だから、かなり不安があります」
「でしたら、まずは小さいお祭りで、慣れておいた方が良いかもしれませんわ」
「なるほど、それはいい考えですね。是非そうしましょう」
「冒険者登録をするニャ」
俺の左手で頭を撫でられていた猫耳少女バービレが口を出す。もちろん、俺の右手の下にはアイーダの頭がある。アイーダが質問する。
「バービレ、それは何故かしら?」
「行くのが楽になるニャン」
領都のような大きい町には、国の転移陣網の1つが設置されているが、ふつうの村には設置されていない。少し大きい村には、冒険者ギルドがあり、冒険者ギルドの転移陣網が設置されているのだ。それが利用できれば、移動が楽になる。
「そう、じゃあ、冒険者登録をしようかしら。登録は簡単にできるの?」
「慌てないニャン。まずは名前を考えるニャン」
「そうですわ。赤いバラで登録したら、もしアイドルになれた時に、追っかけやストーカーの数がすごいことになりましてよ。それから、アイーダさんも別の名前にすべきですわ」
「なるほど、え~と、え~と、パーティ名は青いバラでどうかな?」
「バラは止めるニャ。すぐにばれるニャン」
「そうかな~。え~と、え~と、青い果実は?」
「魔獣にすぐ食べられそうな名前ニャン」
「じゃあ、う~んと、う~んと、青いトゲは? トゲは食べられないわ。トゲが口に刺さると痛いから」
「女の子だけのパーティの名前じゃないニャン」
「え~と、青い花でどう? 花は食べられないし、女の子っぽい名前だし」
「もう、パーティ名は、それでいいニャン。アイーダの名前はどうするニャン」
アイーダの名付けに、ここまでダメ出しができるなんてバービレくらいだろう。そのバービレも根負けしたようだが。この後もアイーダとバービレの間でやり取りがあり、ダイアに決まった。お付きメイド5人の冒険者用名前も決まった。
「次は武器と防具ですわ。武器と防具のない冒険者はいませんことよ。6人パーティですと、剣士2人、槍士1人、弓士1人、魔法使い2人が標準ですわ」
これは、剣士がヒマリアとアマル、槍士がガリレ、弓士がカルメ、魔法使いがアイーダとアナンに決まった。まあ、名目上である。肩書にふさわしい武器を持つだけである。恰好がつくだけの練習はしてもらうが。
「では、武器屋と防具屋に参りましょう」
武器屋での買い物はそれなりの時間で終わった。実際には冒険者として活動しないのだから、持ち運びの便利さと見た目に重点を置いた。だから、時間はかからなかった。剣は短い両刃剣、槍も短槍、弓も短弓、杖も短杖だ。
時間がかかったのは防具屋。防具とはいえ、身に着けるもの、女の子は時間をかけるのだ。 俺は例によって、控室に逃げ込んだ。女の子14人の買い物には、とてもではないが付き合えない。
14人? そう14人。フェネとパシファをアイーダが誘ったのだ。速く新環境にフェネを慣れさせようとの配慮である。良いお姉さんである。武器屋でフェネは短弓、パシファは短杖を選んでいる。
控室でかわら版を見ると、一面トップがスクープで飾られていた。屋敷に配達されるかわら版とは別の商会が発行しているかわら版だが、一面トップの内容は同じである。それほど重大なニュースなのだろう。
「音楽魔法一族、発見か!?」
オールト大森林で、ある冒険者が音楽魔法一族と見られる一団と遭遇したと王宮報道官が昨日発表した。音楽魔法一族は300年間行方不明になっていた一族である。これが事実ならば、世紀の大発見である。続報が待たれる」
どうやら、王宮もアルタイルの森で、音楽魔法一族の者と接触したようだ。一族の帰還についても、シナリオができたのだろう。そんなことを考えていたら、窓から手紙を持った黄色の鳩が入ってきた。
星魔法一族の鳩は、家によって色が決まっている。ステラ家は青色である。黄色はプラネート家の色だ。内容は5日後、赤いバラの屋敷を訪問したいとのことだ。
あの子と会うのは面倒なのだが、やむを得ない。どうせ一度は会わないといけないだろうし。承諾の返事を書いて鳩を送り出す。
2時間ほどで買い物は終わった。2時間で済むとはありがたいことだ。次は冒険者登録。冒険者ギルドで面倒ごとが起きなければいいが。
*
カララーン、カララーン、冒険者ギルドのドアベルが鳴る。女の子14人のグループが入って来れば、目を引く。しかし、その目線はすぐに逸らされる。レジェラがいたからだ。
レジェラは美人だが、馴れ馴れしく近寄る男には厳しいことで有名なのだ。火傷することが分かっているのに、火の中に手をいれる者はいない。しかし、レジェラに話しかけてくる男がいた。勇者なのか愚かなのか。
「よう、姉ちゃん、女の子がたくさんいるじゃねえか。それだけいれば1人くらいは魔法使いがいるだろう。魔法使いを俺たちのパーティに入れてやるぜ。有難く思え」
「誰ですのあなた?」
「俺は先週ここ王都にやって来たB級パーティ、死神の使いのリーダー、ドロだ。」
「そうですか。お断わりしますわ。邪魔ですわ、どいてくださいまし」
「なにー、痛い目にあいたいのか」
「やれるものなら、やってみなさい。手加減はしませんことよ」
どうやら、最近王都の冒険者ギルドに来たばかりらしい。冒険者のランクは実力を表している。地方では、B級冒険者の数は少ないから、B級を自慢して、横暴なことをやってきたのだろう。
しかし、ここは王都だ、B級冒険者もたくさんいる。『コラール』はC級パーティでも、レジェラ個人はB級冒険者である。本気で争って、けが人でも出たら大変なので、俺が仲裁に出ることにする。男の前に行き、話しかける。
「ちょっと待て。ここは引いてくれないか。そうでないと俺が相手する」
そう言って俺の冒険者カードを男の顔の前に提示する。
「何だ、これは。冒険者カードなんか見せて、どういうつもりだ」
「良く見てみろ」
A級冒険者カードを見たことがないのだろう。この国で、A級カードを持つ者は2人しかいないし、A級のカードは金色のカードでB級の青、C級の緑とは色が違うのだから。男はカードを良く見て、驚きブルブル震え出した。
「ひ、ひぃーーー。お、お許しをーーー」
男は仲間を連れて、あわてて逃げ出した。自分の身分や権力を自慢して、他人を虐げる者は、自分より高い身分や権力には弱いものだ。まあ、何事もなく、無事に済んだことだし良しとしよう。
その後、無事に冒険者登録を終わり、F級パーティ『青い花』が誕生した。フェネとパシファはパーティに参加していない。次は依頼カードが貼ってあるボードに向かう。予行練習のお祭りの場所を探すためだ。
どうせなら、お祭りに参加した後、狩りに行き稼げる場所がいい、というコラールの要望があったからだ。「青い花」にも、狩りを見学するというメリットがある。
掲示板を見ると、たくさんの依頼書が貼ってあった。薬草採取、魔獣討伐依頼、商隊の護衛などいろいろである。今回の『コラール』の目的から考えると、魔獣討伐がいいだろう。そして、C級冒険者パーティ『コラール』に妥当な難易度の依頼はサル型魔獣討伐である。
ちょうどいい依頼があった。場所はギルベ男爵領で、田舎の領地だ。それほど大きくもない領地である。今回の目的にもあっているし、日程もいい。
慎重な検討の結果、2日後のギルベ男爵領のお祭りに参加することに決まった。そのとき、レジェラが、たった今、気が付いたように忠告してきた。
「少し大きい村程度では、舞台の警備が十分ではないかもしれませんわ。こちらから、誰か雇って連れて行った方がいいのではありませんか?」
「警備だと大盾使いがいいか。3人くらい必要かな?」
「3人いれば十分ですわ」
「わかった、ギルドに依頼を出しておこう。イオが引き受けてくれるとありがたいが、スケジュールが空いているかな?」
「もう1つ。冒険者バンクにパーティ名義の口座を作った方が良いと思いますわ。依頼達成や獲物売却で得たお金を持ち運ぶよりも、口座に振り込んでもらった方が良いと思いますの」
「ありがとう。そうだな、口座を作っておこう、使わないかもしれないが。」
カララーン、カララーン、冒険者ギルドのドアベルが鳴る。見るとイオを含めた大盾使い3人が、ギルドに入ってきた所だった。2人がかりで棒にぶら下げた大きなヒグマを持っている。ちょうどいい所にイオが来た。早速、依頼してみる。
「やあ、イオ。すごい獲物だな」
「おう、アースか。3人で30分もかけて、やっと仕留めた」
「たった30分でか。さすがはイオだ。ところで2日後、3人に護衛を依頼したいが、空いているか?」
「空いているが、護衛対象は誰だ? まさかお前や『コラール』ではあるまい」
「ああ、こちらの2人の女の子と、おっと、詳しい事は別室で」
『赤いバラ』の護衛のことは、内密にしたいので相談用の部屋で説明をして、依頼を快諾してもらった。そして、正式に指名依頼をギルドに提出した。
2日後の朝、ここでの待ち合わせを約束して、その日は解散した。
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