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第6話 ステラ家②

「それは星魔法の占星術で使う聖星球でしょう」


俺がそう答えると、母上はにっこり微笑んで否定した。


「一般には、そう言われているけど、これは違うわ。これは第23代第一夫人のヤヨイ様が残された音楽魔法のアイテムで、名前は聖音の宝珠。音楽魔法の一族の者だけが、聖音の宝珠の真実の力を引き出せる、と言い伝えられているわ」


母上は聖音の宝珠の上に手をかざし、魔力を聖音の宝珠に注ぎ込んだ。


「これから、占星術を使うわね」


そして、母上は問いかける。


「聖星球よ、アースの第一夫人は誰でしょう?」


聖星球は一瞬、輝いた後に答えた。


「確率99パーセントで、アイーダ フォン ムジカ様です」


アイーダは顔を赤くして、喜んでいる。うん、可愛いと思っていると、応接室の

ドアが開き、父上が入ってきた。


「待たせてしまった。かなり昔のことを調べることになり、時間がかかった。申し訳ない」

「旦那様、ムジカ家がこの国の貴族であることがわかりましたか?」


「ああ、公爵相当の貴族であることがわかった。しかも、この『相当』という言葉には深い意味があることもわかった。結論から言うと、公爵相当ではなく、我が家と同じく公爵とすべきだったところ、音楽魔法一族が固辞したために公爵相当となったらしい」


それから語られた父上の話は、我が国の歴史ともいうべき話だった。その内容は次の通りだ。



遠い遠い昔、まだこの大陸に国が無く、小さな町や村だけが点在していた頃、現在の王家の先祖は1つの村の村長だった。そして、我が家、星魔法一族の先祖はその村の自警団の団長に過ぎなかった。


大陸には魔物や魔獣、盗賊が溢れ、人々は恐怖の中で生活していた。王家の先祖は剣を持ち戦った。剣というよりは、鉄の棒と言うべき武器だ。星魔法一族の先祖は剣と火魔法、水魔法、土魔法、風魔法を使って戦った。


星魔法は研究途上で、子犬くらいしか使役できなかったから、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法を使っていたらしい。


ある時、東方にある島国から流れ着いた一族があった。一族のリーダーである日巫女様が説明されるには、彼らの住んでいた土地で火山の大噴火があり、流れ出した溶岩は島と陸地をつなぐほどで、火山灰は何mも降り積もった。


周囲の国々は戦いに明け暮れており、近くには住める土地が無かった。海を渡り大陸に上陸したが、そこでも大きな3つの国が戦いを繰り広げていて、安住できなかった。そこで、更に西へ西へと旅をして、この地にたどり着いたらしい。


その一族は音楽魔法を使い、魔物、魔獣を追い払った。そして、音楽魔法を使うと、畑の作物は豊作続きになったという。


周囲の村や町が吸収合併を望んだので、村はどんどん大きくなり、900年前に現在とほぼ大きさの国が成立した。村長の子孫が国王となり、自警団団長の子孫が軍務担当公爵になった。


この国において、公爵は貴族の中で最高の位階である。音楽魔法一族も公爵にと、国王が申し出たが、音楽魔法一族は、流れてこの地に来たよそ者ですから、と固辞。その代わりにアルタイルの森周辺の土地を音楽魔法一族の領地、自治領として、公爵相当の地位とした。


 その後、平和で穏やかな日々が続いたが、300年前に事件は起こった。友好条約を結んでいた東の隣国が、突然アルタイルの森に侵攻を開始したのだ。その理由は今でもわかっていない。まさか友好国の隣国が攻め込んでくるとは思っていなかったので、我が王国は油断していた。


王国の国境警備部隊も応戦したが、如何せん、兵力差が大き過ぎた。国境警備部隊千人に対して、侵攻軍は1万人。侵攻軍の国境突破を許してしまったが、国境警備部隊の奮戦も無駄ではなかった。音楽魔法一族が避難する時間を稼ぐことができた。しかし、アルタイルの森一帯は隣国に占領されてしまった。


その報告を聞いた我が王国軍は、ただちに反撃を開始して、侵略軍を追い返すだけでなく、敵国を滅ぼしてしまったらしい。その理由は当時の星魔法一族の第一夫人が、音楽魔法一族出身のヤヨイ様だったことだ。


当家の当主は怒り狂い、星魔法コスモビッグバーンを使用して、敵国の帝都の宮殿があった場所は1ヵ月もの間、溶岩が噴き出し続け、10年間は草木1本も生えなかったそうだ。


しかし、オールト大森林に逃げた音楽魔法一族の捜索は全く進まず、現在でも行方不明のまま。その理由はオールト大森林には多数の魔物や魔獣が住み着いていて、捜索することが不可能だからだ」


父上は語り終えると、お茶を一口飲み、俺に尋ねた。


「アース、今のステラ家で、星魔法コスモビッグバーンが使えると思うか?」

「あれを発動するためには、ステラビッグバーンが使える3人の星魔法使いが必要です。父上と私、それに師匠の3人ならば可能でしょう」


「そうだな、私もそう思う。しかし、できれば使いたくないものだ」

「はい、あのような大破壊魔法は、使いたくないですね」

「ところで、アイーダさんは、本当に音楽魔法一族の人間なのか?」


俺を遮り、母上がはっきりと言う。


「旦那様、先ほど第一夫人の花園で、音楽魔法を見せていただきましたわ」

「そうか、では確かなのだな」

「はい、それと今ちょうど聖星球をここに持ってきています。アイーダさん、これに魔力を注いでくださるかしら? そして、音楽魔法を見せてくれるかしら?」

「はい、お義母様」


父上が首を傾げて尋ねる。


「それは、星魔法の占星術で使う聖星球ではないか。それで何をするのだ」

「これは聖星球ですが、音楽魔法一族の人が使うと、本来の力を発揮するのです」


母上が答えると、アイーダが聖星球、聖音の宝珠の上に手をかざして、魔力を注ぎ込む。すると、球は虹色の光を発して輝いた。母上の時は単に白く光り輝いただけだから、明らかに違う。数分続いた後でアイーダが詠唱した。


「音楽魔法 サクラサクラ」


聖音の宝珠から、聴いたことのない弦楽器の音色で、穏やか、ゆったりした曲が流れ始める。聖音の宝珠の周りに、淡いピンク色のサクラの花びらが現れて、曲に合わせるように舞っている。曲が終わるとサクラの花びらも消えた。


「こ、これが音楽魔法!」


その一言を発した後、固まっていた父上が、しばらくして言う。


「確かに音楽魔法だ。私も確認した。それで、アイーダさん以外の音楽魔法一族も帰還されたのか?」

「はい、まだ帰還準備中ですが」


「そうか、そうか、それは上々。それで帰還先はアルタイルの森であろうな」

「はい。ですが、アルタイルの森にこだわる理由があるのですか?」


 父上は壁の地図に歩み寄ると、2つの場所を交互に指さした。


「この屋敷のある場所と王宮のある場所、この2地点と」


次に、父上はアルタイルの森の1点を指さした。


「この場所を結ぶと正三角形ができるな。偶然ではなく、そうなるように王宮の場所とこの屋敷の場所が定められたのだ。王家とステラ家とムジカ家、この3家がソーミュスタ王国の3本柱であることを示しているのだ」


ここで父上は残念そうに首を横に振って続ける。


「アルタイルの森には音楽魔法一族の神殿があったのだが、300年前に失われてしまった」

「父上、神殿はありますよ。いえ、正確に言うと復活しました。神殿、聖なる響きの館は、今アルタイルの森にあります」


その言葉に父上は驚いて。目を大きく見開いた。


「それは本当か、アース。それで一族の帰還はいつになる?」

「本当です。帰還のスケジュールについては、屋敷商会の会頭さんが詳しいです」

「そうか、これは急ぎ国王陛下に報告しなければ」


「父上、その前にアイーダを第一夫人とする、第二の課題を伺いたいのですが」

「2人で協力して3体の魔物を倒すことだ。それでは、私は王宮に行ってくる」


その言葉を残して、父上は、急いで応接室を出て行った。


 父上を見送った後、母上がアイーダにプレゼントをした。


「アイーダさん、この聖音の宝珠は、あなたがお持ちになってくださいな。これはヤヨイ様が、当家に嫁入りのときに持参されたものです。それに、私には聖音の宝珠を本当の意味で使えません。聖星球は他にもありますから、大丈夫ですよ。遠慮なくどうぞ」


「ありがとうございます。お義母様。もう1回魔法を使ってよろしいでしょうか?」

「いいわよ。もうあなたの物ですから」


それを聞いたアイーダは、聖音の宝珠に魔力を注いでから問う。


「聖音の宝珠よ、日巫女様方は何処から来られたのでしょうか?」


聖音の宝珠は一瞬、虹色に輝き告げた。


「お答えします。現在、倭国と呼ばれる国の南部の土地からです」


それを聞いて、俺は納得した。ベガの森での食事が、倭国風であったことの理由がわかったからだ。それにしてもアイーダは何故、日巫女様の出身地を知りたかったのか? 聞いてみたら答えが返ってきた。


「お義父様のお話の中の東方にある島国が、どの国なのか知りたかったのです。

音楽魔法一族のご先祖様、日巫女様方は倭国から来られたのですね。知ることができて、良かったです」


自分のルーツは何処なのか、誰でも知りたいものだ。そして、次はそこに行きたくなる。いつか倭国に行くことになるのか。いや、それよりも今の問題をはっきりさせよう。


「アイーダ、父上の第二の課題はどうする?」

「もちろん、2人で協力して3体の魔物を倒しましょう。私は、絶対に第一夫人になりたいのです」」


それを聞いた母上が、うんうんと頷いている。


「そうよ、アイーダさん。それでこそ、ステラ家の第一夫人に相応しいわ。頑張りなさい。たとえ失敗しても、私が第一夫人として、いえ、必ず成功するから大丈夫よ」


「ありがとうございます、お義母様」

「そうそう、妹のヴェーヌは魔法の修行中で不在だけど、弟のレーヴェをアイーダさんに紹介しなさい、アース」


母上がメイドを呼び、弟をここに来させるように言いつけると弟はすぐにやって来た。たぶん、控えていたのだろう。


「アイーダ、弟のレーヴェだ」

「レーヴェ、俺の第一夫人候補のアイーダだ。1年後に結婚式を挙げる予定だ」


2人がそれぞれ自己紹介した後、レーヴェが尋ねた。


「アイーダさんは、魔法が使えるのですか?」


俺がアイーダに携帯魔法を見せるように勧めると、アイーダが詠唱する。


「聖音の宝珠 イン」


消えた聖音の宝珠に驚くレーヴェ。


「音楽魔法の1つの携帯魔法だ」

「音楽魔法? 聞いたことのない魔法です」

「ああ、今は誰も知らない魔法だからな。詳しいことは、後で母上に教えてもらえ。それより、お前、俺の代わりに次期ステラ家当主になる気はないか?」


「とんでもない話です。私は戦闘より事務仕事向きですから。武器や食料などの補充や輸送、軍の人事など、裏で兄上を支えるのが私の使命と心得ております」


そう言うレーヴェだが、星魔法は師匠、父上、俺に次ぐ第4位の実力を持っている。ただ、性格が優しすぎるのだ。王国の軍務を担うステラ家当主向きではない。残念である。


「そうかわかった。いい弟を持って俺は幸せだよ」


大量の事務仕事に、煩わしい貴族との付き合い。そんなことは遠慮したい。それを引き受けてくれる弟がいるのなら、ステラ家当主をやっていける。他にも俺を支えてくれる人間は必要だ。たくさんの仲間を集めよう。


でも、一番必要なのはアイーダだ。俺の横にアイーダがいてくれれば、どこまでも進んでいける。アイーダと出会えて、とても良かった。そんなことを考えながら、ステラ家からの帰路につくのだった。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「サクラサクラ」  日本の歌曲



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