第4話 音楽コンクール
自称アイドルグループ『赤いバラ』は、音楽コンクールに参加する気らしい。音楽コンクールは、毎年、王国建国記念日に行われる。いくつかの部門があり、その中のグループ部門にエントリーしたようだ。
ここ数年、グループ部門は参加者が最も多い人気部門だ。仲良しグループでの若い 時の記念参加も多いだろうが、激戦部門である。
屋敷以外のステージなので、記念に何かプレゼントしようと思って、考えた。すると、先日のベガの森の子どもたちへの『赤いバラ』のステージで気づいたことに思い至った。ステージでの靴がバラバラだったことだ。
アイーダとお付メイドたちの履く靴全部の色や形を同じにするとか、意図された違う色や形にするとかした方がいいと思う。歌やダンスだけなく、見た目にも楽しくなるようになるように。
だから、靴をプレゼントすることにした。どんな靴を選ぶかは彼女たちに決めてもらう。ただ、王国建国記念日はもうすぐだ。普通の靴なら少し前から履いて慣らしておくものだが、魔法靴の中から選んでもらう。魔法靴は、靴が足のサイズに優しく、ぴったり合わせてくれる靴だからだ。
フェネも王都を見たいと言うから連れて行くとすると、フェネにも買ってあげないといけない。となるとお付きメイドであるパシファも、と結局8人に靴を買ってあげることになる。
まあ、8人であーだ、こーだと騒ぎながら買い物してもらおう。俺は店の控室でお茶でも飲んで、待っているつもりだ。似合いますか? と聞かれても困る。俺のファッションセンスは壊滅的なので、相談されても困るのだ。
*
コンクールを明日に控えた日の朝食後、昼食は王都でするから、と言って出発する。コンクール会場の下見と靴の買い物である。8人の女の子の買い物だ、何時間かかるか予想できない。だから、朝から出かけるのだ。
靴屋の近くの転移陣へ転移した。フェネの両手を俺とパシファで1本ずつしっかりつなぐ。アイーダの時の経験から学んだのだ。フェネはキョロキョロとあちこちを眺めているが、急に走り出そうとはしない。いい子である。
靴屋に到着。入口で店員が一礼して挨拶する。
「いらっしゃいませ。今日はどのような靴をお探しでしょうか?」
「女性用の魔法靴8人分が欲しいのです。支払いは俺がします。それと俺は控室に案内してください」
「かしこまりました」
店員が女の子8人を魔法靴売り場に案内し、傍に控えていた、もう一人の店員が俺を控室に案内してくれた。ここ1週間のかわら版が、控室に置いてあった。目を通したが、音楽魔法一族のことはまったくニュースになっていなかった。屋敷商会が情報統制をしているのだろう。
載っているニュースは、どこそこの海水浴場が混んでいるとか、山の登山者が増えすぎて、山小屋の予約がとれない状況が続いている、今年はメロンが豊作で去年より安い、など日常的なニュースだけだ。この国は平和だ。いい国である。
2時間くらい経った頃、やっと靴選びが終わったようで、店員が呼びに来た。赤色にすることだけはすぐに決まったが、他が全然決まらなかったのだ。最後は衣装担当のガリレが選んだ靴を、アイーダが承認することで決定したらしい。代金を支払い、靴屋を後にした。
次はレストランに向かう。俺の贔屓にしている、ハンバーグの美味しい店だ。レストランの前で声をかけられた。
「アース、アースではありませんか」
振り返ると、冒険者パーティ、『コラール』のリーダー、レジェラがいた。
「やあ、レジェラ、狩りの帰りかい?」
「いいえ、明日のコンクール会場の下見の帰りですわ」
「えっ、『コラール』も出るの?」
「あら、アースはご存じなかったのですか? 私たち去年も出場しましたわ。それも優秀賞をいただきましたの。今年は最優秀賞を狙いますわ」
「そうだったのか。知らなかったよ」
「そもそもアースはパーティ名『コラール』の意味が分かっておりませんのね」
「ああ、知らない。どういう意味だ?」
「古代語で賛美歌という意味ですわ。私たち合唱は好きですし、得意ですの」
「そうなのか、知らなかった。ところで、アイーダたちも出場する予定だ」
アイーダとバービレが同時に言った。
「負けないわ」
「負けないニャン」
2人が火花を飛ばしている。それを見たレジェラが猫耳少女バービレの手を取り、
「では冒険者ギルドに行きますので、失礼しますわ」
「ああ、またな」
冒険者パーティ、『コラール』の6人と別れた後、レストランに入店した。俺の注文は、デミグラスソースをかけたハンバーグ。アイーダたちも、トマトソース、玉ねぎソースなどソースの種類が違えどもハンバーグを注文した。
アイーダとフェネは、赤ワインソースのハンバーグと玉ねぎソースのハンバーグを半分ずつ交換している。付け合わせの野菜も交換しているが、フェネはニンジンを全部アイーダの皿に移そうとして、アイーダに阻止されて、説教されている。
「好き嫌いはダメよ。魔力が増えないわよ」
「はい、お姉様。これからは、ニンジンも食べます」
おおー、アイーダがお姉さんらしいことをやっている。素直に従うフェネも可愛い。いい姉妹である。
デザートもそれぞれに注文した。夏だけにアイスクリームが人気だ。特に、中にフルーツが含まれているものが大人気である。フルーツの種類は、旬のフルーツのラズベリー、プルーン、メロンなど。珍しかったのはパイナップルである。南の大陸で生産されるフルーツで、今年の初荷だろう。
レストランを出た後、王国立公園に向かう。王立公園はとても広い。剣技場や弓技場、体術場、陸上競技場などの武術施設、博物館や美術館、音楽ホールなどの文化施設など多数の施設が中にある。
明日の音楽コンクールが、行われるのは音楽ホール。音楽ホールは正八角形の建物で、白色の外壁に、国旗の色である緑色、青色、赤色の縦縞でデザインされている。ホールの内側に入ると、正面には広い舞台、1階には2000席、2階には800席ほどの一般客席、3階には500席ほどの貴族専用席がある。
「わあー、広いわ」
「どうしよう、お客さんの数がすごく多そう」
「こんな場所で歌ったり踊ったりできるなんて、感激だわ」
「失敗したらどうしよう。もうドキドキする~」
それぞれに感想を口にするお付メイドたち。そんな中、アイーダが提案する。
「舞台に上がってみましょう」
舞台に上がった赤いバラのメンバーは、リハーサルのように舞台上を動く。いつも練習している屋敷のダンスホールより広いためか戸惑っていたが、すぐに慣れたようだ。しばらくして、アナンが言い出した。
「舞台が広いから、一人ひとりの間隔をもう少し空けた方がいいわね。その方が見栄えがいいわ」
その提案に従って、ダンスを何回か踊る。5回くらいでアナンかも納得したようだ。アイーダは横笛を吹いて、会場の音の響きを確認する。こちらは1回で終わりだ。何の問題も無いようである。
最後は赤いバラのメンバーが円陣を組み、片手を円陣の中央で重ねる。アイーダが声を発する。
「明日は優勝するわよー。赤いバラ~~~、ファイト」
「「「「「オーーー」」」」」
やる気十分のようである。健闘を祈ろう。
*
音楽コンクール当日
赤いバラの6人はコンクール参加者専用転移陣へと転移して行った。コンクール参加者のスムーズで安全な出入りを確保するため、専用転移陣が設置されているのだ。
俺はフェネとパシファの3人で、一般観客用転移陣へ転移した。凄い人の数だ。人の波をかき分けて、チケット売り場で2階の客席を確保した。貴族用の3階席には入らない。いろいろと面倒だからだ。
俺は夜会やお茶会に出たことは全くない。肖像画も出回っていない。だから、俺の顔は知られていないのだ、ごく一部の親族を除いて。その俺が貴族証を見せて貴族席に入ったらどうなるか? 大混乱である。俺も気楽に街や狩りに出かけられなくなる。そんな状況になるのは避けたい。
客席が満員の中、音楽コンクールのグループ部門が始まった。グループといっても人数が2人のグループから100人のグループまで、曲のジャンルもクラシックな曲から若者向きの最近の曲まで多種多様である。
1つのグループが入場する時、応援する集団から拍手の音が鳴り響き、ガンバレーと声がかかる。退場する時にも、拍手の音が鳴り響き、良かったぞーと声が飛ぶ。凄い熱気である。
中盤でコラールが出てきた。伴奏はない。いわゆるアカペラである。ほとんどのグループはあらかじめ伴奏を蓄音してある魔音板を利用しているのだが。曲名は『ハレルヤ』。『ハレルヤ』は神殿の中でよく聞く言葉だから、神を称える古い曲だろう。
美しい女声三部合唱だ。6人の中では背の低い、レジェラとバービレが、ソプラノで主旋律を歌う。見事なハーモニーだ。上手い! 冒険者を止めて、プロとして合唱でやっていけるレベルだ。とても驚いた。
赤いバラの出番は終盤近く。両手で拳を作り、胸に当てているフェネの見守る中、6人は舞台に立っている。衣装は赤を基調としている。その中にそれぞれの髪の色、アイーダは金色、ガリレはピンク色、カルメは黒色、アナンはオレンジ色、ヒマリアは黄色、アマルは緑色のバラの模様が散りばめられている。
アイーダが、まるで女剣士のように腰に差している黄金色の横笛、黄金のクラーフルを抜くと残りの5人がポーズを決める。
アイーダが横笛を口に当てて演奏を始める。軽快なテンポ、まるで、恋にウキウキしている乙女の心情を表現しているようだ。恋人と結ばれる未来を夢見る様子を表現しているのか、後ろの5人の踊りも軽やかだが、ときに優雅な動きだ。まさに、ファンタジーな曲である。
そうだった、曲名は「赤いバラの恋 ―乙女座宮の女の子―」だった。観客は息をすることも忘れたように聴きいっている。音楽魔法は使っていないが、音楽魔法一族の巫女様の歌と演奏である。一般の演奏と比べることなどできないほど高いレベルだ。
横笛の演奏が終わると、一瞬の間をおき速いテンポの明るい曲調が始まる。メインボーカルはアイーダ、5人がバックコーラスを務める。
アイーダの歌う声はとても美しい。5人のダンスもキレッキレッ。普段から体術の鍛錬に励んでいるのだから、当然だ。ダンスソロはカルメ、柔らかい身体が舞台で躍動する。
曲の最後の方は、一変して優しい雰囲気の曲調になる。恋が成就し、結婚式を挙げる2人を祝福している絵が頭に浮かぶ。 最後に6人のポーズが決まると、会場は大興奮、大歓声である。
結果は明らかだった。赤いバラは最優秀賞に輝いた。ついでだが、コラールは優秀賞で2位であった。
思うに、音楽魔法一族がコンクールに参加するのは反則だろう。帰還する一族も参加したら、上位独占である。来年からは、音楽魔法の一族は別会場でコンサートをするべきだろう。
2階席から転移陣へ向かうと、長い行列ができていた。1階席の客の方が速く転移陣に来るのだから、当然か。フェネとパシファを伴い、物陰から屋敷に転移する。屋敷で結果を報告して、祝賀会の準備をしてもらった。
*
大いに盛り上がった祝賀会の翌日、屋敷に大量の手紙が届いた。昨日の赤いバラのステージを見た各地の貴族からだ。自分の領地のお祭りに、是非参加して欲しいという招待状である。楽しみの少ないこの国、この大陸で、お祭りは大切な行事なのだ。
農作物の収穫がひと段落した時期に農民の苦労をねぎらい、みんなで楽しむのがお祭りである。領民を大切にする貴族としては、赤いバラには是非参加してもらいたいのは当然だ。
いろいろな場所に行ってみたい、とアイーダが言っていたことを思い出した。招待状はコラールの所にも届いているだろうから、相談してみるか。先輩アイドルグループのコラールと一緒のほうが心強いから。
今年の夏と秋は忙しくなりそうだ。
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参考
「ハレルヤ」 オラトリオ「メサイア」より 作曲 ヘンデル