表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

第16話 祝賀式典

 音楽魔法一族帰還の祝賀式典の日が来た。午前中に祝賀式典、夜に夜会のハードな1日になる。俺は朝から緊張する暇もなく、お付きメイドたちにお世話されていた。


「お風呂で身体をちゃんと洗ってください。何回も洗ってください」

「わかっている。ちゃんと洗うから」

「一緒に入って洗ってさしあげましょうか?」

「いや、大丈夫だ。遠慮しておく。俺1人で大丈夫だ」


俺もこんな大きな公式行事に出席するのは初めてなので、気合を入れて身体を洗った。浴槽に身体を沈めほっとする。いい気持ちだ。しかし、これからの事を考えると、少しだけだが憂鬱になる。


これまでは、顔が知られていないから自由に街も歩けたし、冒険者活動も気ままにできた。それが出来なくなるかもしれない。まあ、考えても仕方がない。いつかはこうなる日が来るはずだったのだ、諦めよう。なるようになるだろう。


その後、髪を乾かされながら、カルメの入念な全身のマッサージを受ける。このマッサージは気持ちいい。身体が軽くなった気がする。そして、髪を整えられて、式典用の服を着用。これだけでたっぷり2時間はかかった。


メイドたちは、自分たちの仕事に満足して、うんうんと頷きながら俺を見ている。ふー、やっと終わった。


アイーダとフェネも俺と同様、メイドたちに磨かれ、着飾られてアルタイルの森へ向かった。午前中は音楽魔法一族として、団体で行動するのでアルタイルの森から出発するからだ。

 

俺はお付きメイド5人で、もう一度髪や軍服を整えられてから、準備してもらった箱馬車で会場の王宮に向かう。見送りは執事のサタールさんと屋敷のメイド全員である。俺の礼装軍服姿を見たかったらしい。確かに滅多に見られる姿ではない。俺だって2回目だ。


外壁の大門を過ぎ、王宮正面玄関で箱馬車を降りる。侍従の人が出迎えてくれ、開始時間までの控室に案内してもらった。部屋の扉の前で侍従が説明する。


「こちらの部屋が星魔法一族の方々の控室でございます。時間までこちらでお待ちください」

「ありがとうございます」


お礼を言い、騎士が開けてくれた扉から部屋に入った。かなり広い部屋だ。その部屋の壁際には、ティーポットやカップ、お菓子が置かれたテーブルが並び、300人ほどの人がいた。みんな軍服姿で、たくましい体をしている。

 

入口近くにはソファがなく、若い者たちが立っている。奥にはソファがあり、年配の者が談笑している。俺の知っている者は、父上の弟、叔父上1人だけだ。小さい頃から、師匠との魔法と武術の鍛錬、戦略や戦術の研究の毎日を送ってきたからだ。


父上は、別の部屋で国王陛下と一緒のはずで、この部屋にはいない。この部屋にいる時間も長くはないだろうと思い、入口近くの空いていた壁際に位置する。なんとなく部屋全体を眺めていたら、周囲の話声が聞こえてきた。


「タイリア伯爵領の花火大会で星魔法のメテオシャワーが使われたそうだ。」

「本当か? 流星群の星魔法が使えるのは、3人しかいないらしいぞ。」


その通りだ。俺と父上、師匠しか使えない。よく知っているものだと感心する。


「そんな大規模星魔法が使われた理由は何だ? 大型魔獣でも出現したのか?」

「わからない。イカ型魔獣は現れたが、それが倒された後らしい」

「その翌日には、タコ型魔物のケンクラーが討伐されたそうだな」


「えっ、この50年間、誰も討伐できなかった魔物が討伐されたのか?」

「ああ、カニを8体も出したらしい」

「えっ、カニ8体か。俺はカニ1体がやっとだ。それも1分くらいな」

「カニは出すだけでも大変だよな。大隊長で2体、師団長で3体が限度という話だぞ」


それは知らなかった。ということは、タイリア伯爵領ではやり過ぎたか、と思っていたら、声をかけられた。


「俺は南部方面軍第1師団の者だが、お前の階級章は見たことがない。お前は何者だ?」


20才くらいの若者だ。オレンジ色の星2つの階級章を付けているから、中尉だろう。中尉くらいでは、俺の青い星4つの階級章は知らないのも無理はない。


軍のトップ、軍務大臣と王国軍総司令官を兼任する父上が青い星5つ、次の地位の最強星魔法軍団の軍団長、俺が青い星4つ。この2つは元帥の階級章である。彼が知っているのは、その下、将官の白い星や佐官の黄色い星の階級章くらいだろう。


どう答えたものか、と考えていたら騒ぎが大きくなってきた。


「どうした、何事だ?」

「いや、見たことのない階級章を付けた者がいるのだ」

「他国のスパイか? それともテロリストか?」

「師団長を呼んでくる。逃げないように見張っていてくれ」


すぐに白い星1つの階級章を付けた年配者がやって来た。少将だ。


「何の騒ぎだ? 落ち着け、静かにせよ」

「ハッ、師団長閣下。見知らぬ階級章を付けた、怪しい者がおります」


少将は、俺の階級章を見ると、大きく目を見開いた。少将ならば、青い星4つの意味がわかるのだろう。


「皆の者、騒ぐではない。失礼のないように、そのまま待機しておれ」

「「「「「ハッ」」」」」


静まる若者たちを後に、少将は急ぎ足で奥に行き、白い星3つの階級章を付けた人物を連れてきた。大将、南部方面軍司令官である。その後ろには白い星の階級章を付けた者たちがゾロゾロと続いている。大将が語りかけてきた。


「これは、星魔法軍団の軍団長閣下ではありませんか。お待ちしておりました」


笑顔で、俺が嫌いな肩書で呼ぶのは、叔父上だ。いつもはアースと呼んでいるくせに。俺が初めて公式行事に出席したのが、嬉しいのかもしれない。それを聞いた少将があわてて言う。


「軍団長閣下、部下たちが大変失礼いたしました。申し訳ございません」

「いや、怪しい者への対応としては当然です。良い部下をお持ちです」

「ありがたきお言葉、感謝いたします」


少将はほっとした様子で、右手の拳を左胸に当てる。部下たちも同様に敬礼をした。


「タコ型魔物のケンクラーを討伐したのは、軍団長閣下でしょうか?」

「はい、そうです」


オオー、さすが軍団長、凄い、若手から声が上がる。


「我々南部方面軍は困っておりました。先月は軍務大臣閣下にも来ていただいたのですが、ケンクラーが姿を現しませんでした」


そうか、先月父上が海で用事と言っていたのは、ケンクラーの件だったらしい。叔父上が続ける。


「どうやって、ケンクラーを海中から引き出したのですか?」

「それは、星魔法ではありません。音楽魔法で引き出したのです」

「音楽魔法!?」


「はい、音楽魔法一族の副巫女長の音楽魔法です。音楽魔法一族と協力すれば、魔物討伐が楽になるでしょう」

「ということは、音楽魔法一族の帰還は大歓迎ですな」

「そうです。とても喜ばしいことです」


回りの者が、うんうんと首を縦に振っている。星魔法一族と音楽魔法一族の関係が良好になればいいと思う。



「お時間でございます。式典会場の第一謁見室へ移動をお願いします」


すぐに祝賀式典の時間になり、侍従が案内に来た。一同揃って第一謁見室へ移動する。正面の舞台に向かって左側に星魔法一族300人が俺を先頭に、右側に音楽魔法一族300人がアイーダを先頭に並ぶ。その後方に有力貴族400人が並んでいる。


国王夫妻と父上、母上、アイーダの父上、母上が舞台袖から舞台上に入って来た。国王陛下と父上、アイーダの母上は、ロイヤルパープルに染めた服を着ている。アルタイルの森で織られ、染色された布で作られたのだろう。


開会宣言に続き第一国歌『讃えよ、われらの王を』の演奏が行われる。国王礼賛の歌である。次は第二国歌『二人の英雄』が演奏される。『二人の英雄』」は、900年くらい前この国が成立するきっかけになった戦争の英雄2人を称える歌である。


 はるか東方から10万人の騎馬兵で騎馬民族が侵略してきた。我が国より東に位置する国や都市は打ち破られた。我が国の兵力は10万人だが、その中で騎馬兵は1万人。兵の数だけなら互角、いや攻撃側は守備側の3倍の兵力が必要という戦術論的には、我が国が有利。しかし、騎馬兵の数を考えると我が国が不利であった。騎馬兵1騎で歩兵10人に相当するからだ。


そこで、星魔法一族の族長は一計を案じた。騎馬兵が戦いづらい土地に、敵軍を誘い込み戦う作戦である。我が国の全騎馬兵1万で敵軍を攻撃して、頃合いを測って退却。好機と思って追撃してきた敵全軍を、作戦通りの土地に誘導して敵を打ち破ったのである。


この退却戦を指揮して最後尾で戦った2人、星魔法一族の1人と音楽魔法一族の1人、は重傷を負いながらも見事に任務を達成。この2人を英雄として歌ったのが、『二人の英雄』である。


第二国歌の演奏が終わり、司会が進行する・


「国王陛下のお言葉」


「このたび音楽魔法一族が300年ぶりに帰還したことは、我が国にとって大変喜ばしいことである。


我が国の国旗は、白地の中央上部に王家の紋章である緑の剣、その左下に音楽魔法一族族長の紋章である赤いバラが、右下には星魔法一族族長の紋章である青い星が配置されている。

 

さらに、はるか昔に使用されていた言葉で、剣は「ソード」音楽は「ミュージック」星は「スター」。この3つの言葉から文字を2つずつ取り、国名が「ソーミュスタ王国」と決められた。

 

そして、王都の名は、この3つの言葉の最初の文字から1つずつ取り、「ソミス」と名付けられた。


このことからも分かるように、音楽魔法一族は我が国の根幹をなす民族である。その音楽魔法一族が帰還した今、我が国の明るい未来は約束された。ソーミュスタ王国に幸と栄光あれ」


国王陛下のお言葉が終わり、司会者は式典を進行する。


「星魔法軍団軍団長による歓迎の星魔法」


俺は右手を上げ、手のひらを天井に向けて詠唱する。


「星魔法 ばら星雲」


天井いっぱいに広がる巨大な赤いバラが空中に現れ、参加者全員から感嘆の声が上がる。音楽魔法一族の族長の紋章は赤いバラだ。だから、赤いバラにしたのだが、それともう1つの理由がある。こちらは秘密だが、赤いバラはアイーダが喜ぶだろう、と思った事もあり、「ばら星雲」にしたのだ。


「続きまして、音楽魔法一族副巫女長による答礼の音楽魔法」


司会者の言葉に、黄金色の横笛を手に持ち、正装の巫女服のアイーダが、2人の巫女服姿の女性を従えて前に進み出る。アイーダが詠唱する。


「音楽魔法 新時代の夜明け」


そして、3人は横笛の演奏を始める。ラッパが鳴り響き、タイコの音が轟く。まさに新時代の夜明けの音楽だ。

 

最初にアイーダの上空に緑色の球体が現れ、次に青色の球体が現れた。しばらく間をおいて、赤色の球体が現れて3つの球は同一円上を回り始めた。数分間回り続けた後、3つの球は円の中心に向かい衝突、合体して白い球体になり明るく輝く。


参加者は壮大な曲に圧倒されて、緑、青、赤の球体が合体して、白く輝く球体が現れたことに驚かされた。


演奏が終わると、球体も消えた。


司会者が祝賀式典の閉会を宣言した。


「以上で音楽魔法一族帰還の祝賀式典を終わります」



お読みいただきありがとうございます。


いいなと思ったら、評価等お願いします。


参考

「新時代の夜明け」でイメージした曲

交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」 作曲 R・シュトラウス 冒頭部分

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ