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第15話 タイリア伯爵領 

評価ありがとうございます。

 タイリア伯爵領はソーミュスタ王国の南端に位置していて、海に面している。その広さはソーミュスタ王国中2位、領地全体の人口は50万人を超える大領地だ。夏には、何万本ものヒマワリが咲き誇り、種から食用ヒマワリ油が作られている。


領都は人口25万人の大都市。海の向こう、南の大陸との交易拠点として栄え、魚業も盛んで海産物を国内中に供給している。また、海岸線には砂浜が多く、夏には多くの海水浴場がオープンして、海水浴客やサーフィンを楽しむ客で賑わっている。


ラフスン候爵領のお祭りで大好評を得たことや赤いバラの魔音盤が大ヒットしたことで、タイリア伯爵領のお祭りでは、赤いバラとコラール、美少女隊の3グループは別々の時間帯で公演することになり、時間帯ごとに観客が入れ替えられることになった。


1つの時間帯あたり2時間の舞台である。しかも赤いバラが出演する時間帯の入場者は抽選となった。大混雑を避けるための処置である。


朝から始まった時間帯の舞台に登場したのは、美少女隊。歌った2曲は「好き好きアイスクリーム ―食いしん坊のお嬢様―」と「海辺の恋の達人 ―渚のラブソングー」。2曲とも元気一杯の夏の歌だ。それはいいのだが、舞台衣装が全員ビキニだ。


観客が熱い声援だけではなく、熱い視線も送っている。美少女隊のリーダー、リリーは子爵家令嬢だったはず。コラールのレジェラも貴族みたいだから、聞いてみた。


「レジェラ、子爵家令嬢が舞台上で、ビキニ姿で踊っていいのか?」

「普通は、はしたない事、とんでもない事ですわ」

「リリーは普通じゃないのか? 特別なのか?」


「リリーは、子爵家の6女ですわ。貴族家女子の縁談は、長女から順にいい話が決まっていきますの。ですから、6女ともなると自分でいい縁談を探すのですわ。 

いい縁談を探すために、自分の幸福な未来のために、リリーは裕福な貴族や大商人のいる領地か大きな街でしか、舞台に出ませんわ」


なるほど、裕福な貴族か大商人の跡取り息子の目を引こうとしてのビキニ姿なのか。貴族令嬢も大変だ。頑張れ、リリー。


次の時間帯の舞台に登場したのはコラール。歌う2曲は『サンタルチア』と『夏の高原の思い出』。安定の清純路線、童謡、民謡路線である。美しい、アカペラ合唱で歌いあげた。歌唱中は静かに聴いていた観客が、歌が終了すると大拍手の嵐を送った。


特に『サンタルチア』は地元の民謡で、アンコールの声がたくさん飛ぶほどの大好評だった。そして、最後の時間帯は、赤いバラ。6人が舞台に上がっただけで、大歓声が沸き起こる。


「キャアー、キャアー」「ウォーーー」「こっち向いて~~~」


1曲目の『赤いバラの恋 ―乙女座宮の女の子―』が始まっても治まらない。客席の後ろ半分は歌が聞こえないのでは? と思うほどだ。舞台袖で、赤いバラの舞台を観るためについて来た妹のヴェーヌも、


「お義姉様~、素敵~」


と叫んでいる。そんな大騒動の中、2曲目の『赤いバラの夏』も披露されて、興奮は更にエスカレートし、大混乱。そんな中、赤いバラの舞台は終わった。


「アンコール、アンコール、アンコール」の大合唱が収まらない。コラールと赤いバラのグループ全員で舞台に上がり、この土地のフォークソング『我は海の子』を歌うと3万人の大合唱となり、それで舞台はやっと終了となった。


舞台終了後、大盾使い3人と別れて、コラールの6人、赤いバラの6人、ヴェーヌ、フェネ、セルク、パシファ、そして俺の17人で、ステラ家の別荘に向かった。せっかく海に来たので、ゆっくりしていく事にしたのだ。ヴェーヌも我が家の別荘ということで、外泊を許された。



 別荘に着いて、夕食まで、まだ時間があったので、この土地の夏の観光名所、ひまわり迷路に行く事になった。メイドたちは仕事があるので、参加者は俺とアイーダ、星とバラの妖精の4人、コラールの6人、合計12人である。


ひまわり迷路


「入場料は1人銅貨10枚だよー、ひまわりの種を、取るのはダメだよー」

「12人だから銅貨120枚、つまり銀貨1枚と銅貨20枚ですね」

「まいどー、制限時間はないよー。迷ったらヘルプ台に登っとくれー」


威勢のいい受付で入場料を支払って、ひまわり迷路にチャレンジ開始だ。迷路に入って1時間が過ぎた。ひまわりは高さが2m以上あり、道以外は見えない。適当に進むしかない。なかなか出口に辿り着きそうにない。


そうこうしているうちに、前方と左右に道がある交差点に来た。


「ねえ、ここはさっきも通らなかった?」

「いいえ、通っていませんわ」

「ここは右ニャン。絶対右ニャン」


「いえ、真っ直ぐだと思うわ。自信があります」

「いいえ、左ではありませんか? 私の直観がそう言っています」


船頭多くして船山に登るとは、この事だろう。すぐ近くにあった高さ5mほどあるヘルプ台に登って、出口までの道を探したが役に立たなかった。出口までが遠すぎるし、経路が複雑すぎるのだ。


そろそろ夕日も沈みそうで暗くなってきたので、鳩を出して道案内させようと思った時、フェネの声が聞こえた。


「お姉様、蛍を呼んでいいですか?」

「いいわよ。道に迷ったら蛍に助けてもらうのが一番だからね」


フェネが詠唱する。


「音楽魔法 ほたるこい」


フェネが横笛を演奏すると、赤色を点滅させる蛍と青色を点滅させる蛍が、どこからともなくフラフラと飛んできた。前と左への道には、赤色を点滅させる蛍が、右への道には青色を点滅させる蛍が集まる。


「右の道へ進んでください。出口はそっちです」

「さあ、みんな、右の道へ進むわよ」


アイーダの掛け声で右の道へ進む。どうやら、青色の光を発光する蛍が進行方向を教えてくれるようだ。その後も、蛍の案内で無事に出口へたどり着けた。アイーダによると、音楽魔法一族は、暗い森の中で道に迷ったら、蛍に助けてもらうのだという話だった。音楽魔法は素晴らしい。



夕食は海産物のオンパレード。


「アース様。この魚は片方にだけ、目が2つあります」

「フェネ、それはカレイという魚だ。他にヒラメという魚も片方にだけ目がある。ヒラメとカレイは海の底にいるから、上から来る敵を早く見つけるためにそうなった、と言われているんだ。まあ、俗説の1つに過ぎないが」


カレイの煮つけを見て、フェネが聞いて来た。森の中で育ってきたから、海の生き物を初めて見たのだろう。アイーダとフェネから他にもいろいろ聞かれた。


「この魚の身は赤いのに、あちらの魚の身が白いのは何故でしょうか?」

「何故、生のエビの殻は黒いのに、煮たエビの殻は赤いのですか?」

「足8本がタコ、足10本がイカと言うのですね?」


他にもイクラ、貝、ワカメなど、初めて見るものに興味が尽きないようだった。


夜、浜辺には多くの人が集まっていた。打ち上げられる花火を見物するためである。この土地の花火大会は規模が大きいことで有名なのだ。花火と言っても、火魔法の火球を空に放つだけだが。アイーダの隣で見物したかったけれど、 俺とアイーダの間にヴェーヌとフェネがいる、残念。


猫耳少女バービレとレジェラが近づいて来た。2人とも火魔法が使えるから、気になったのだろう、打ち上げられる火球の色がオレンジ色だけではないことに。その理由を俺に聞きにきたのだろう。 


火魔法の火球の色は、ふつうオレンジ色だが、多量の魔力を込めると青白色になる。しかし、通常それはやらない。1の魔力で倒せる魔獣や魔物に10の魔力を使うのは無駄、効率が悪いからだ。そして、今、目の前には緑色や黄色、赤色の火球が打ち上げられている。これをとても不思議に思うのは当然だ。


「どうして、赤色や緑色、黄色の火球があるニャ?」

「火球を作ったら、それに粉を混ぜて打ち上げているんだ」

「粉の種類によって色が変わるのかニャ?」


「ああ、黄色は塩、緑色は銅の粉、赤色はリチウム塩を混ぜている」

「リチウム塩とは何ですの?」

「リチウム公国で生産される塩のことだ」


そこまで答えたとき、海岸から叫び声が聞こえた。


「イカ型魔獣が出たぞーーー」


声のした方を見ると、高さ10mほどのイカ型魔獣が、10本の足の付け根から、黒い液体を吐き出しながら、海から上陸するところだった。


さて、どうしたものか、と考えていたら、数十の火球がイカ型魔獣に命中して、イカ型魔獣は灰色の煙となって消えた。


 そう、たくさんの花火が打ち上げられていた。つまり、多くの火魔法使いが集合していたのだ。イカ型魔獣は運が悪かったのである。もしイカ型魔獣が上陸したのが今でなければ、大惨事になっていただろう。人間にとっては幸運であった。


「花火大会もこれで終わりね」


アイーダが残念そうに言うと、ヴェーヌが俺の方を向いて、キッパリと言った。


「お兄様、流れ星を見せてください」

「わかった。少しだけ待ってくれ。色々と考えなければいけない事がある」


確かに、みんなお祭りの花火を楽しみにしていただろう。火魔法使いの魔力も残り少ないはずだ。こんな事で終わりにするのは、寂しい。


火球を飛ばして海上を明るくして見渡すと、船は一隻も見当たらない。安全は確保できる。放射点、 流れ星が飛び出してくるように見える空の1点、は海面上10kmに設定。10分間に600個くらいの流れ星が現れるようにしよう。


「星魔法 ペルセウス座流星群」


詠唱すると、たくさんの青白い流れ星が夜空を飛んだ。花火の代わりになっただろうか?



翌日、午前中に別荘のプールで、トーナメント形式の競泳大会が開かれた。参加者は俺以外の16人。距離50mの自由形の競泳である。


熱戦が続いたが、決勝戦は、アイーダ対猫耳少女バービレ。途中まではバービレがリードしていたが、それを挽回しようと、アイーダが「水魔法 水流」を使った。手のひらを後方に向けて水流を放出して、推進力にしたのである。結果は同時にゴール。当然、バービレから猛抗議があった。


「水泳で魔法を使うのは、ルール違反ニャン」

「自由形だから、何をしてもいいのよ」


アイーダが主張するよく分からない理由に、バービレもそれ以上抗議できず、結果はそのままで変わらなかった。優勝賞品は何も無かったからかもしれない。


昼食後、海で泳いでいる人は少なく、沖にはまったく人がいなかったから、沖の方で遊ぶことにした。


「星魔法 いるか座17体」


17体のイルカに1人ずつ乗り、海の上を疾走する。身体に当たる風と水しぶきが心地よい。


「ヒャホー、ここまで追いで、フェネ」

「待てー、待ってよー、ヴェーヌ」


追いかけっこをしているのは、俺の妹ヴェーヌとアイーダの妹フェネ。フェネは海に慣れないようだ。波に戸惑っている。まあ、仲が良いのはいいことだ。


「海上のフ-ガをしましょう」


アイーダが提案してきたが、フ-ガの意味がわからない。


「フ-ガってどういう意味だ?」

「追いかけっこよ。音楽で2つ以上のパートで、メロディの追いかけっこをすることをフーガというの。」

「イルカの性能は同じだから、追いかけっこにならないぞ」


そんな会話をしていたら、遠い沖で船がグルグル回りながら、海中へ引き込まれて行くのが目に入った。魔物だ。水魔法で渦潮を作り、船を沈める巨大なタコ型魔物、ケンクラーだ。体長50mほどで、頭に8本の角、足も8本のタコ型魔物である。


「アイーダ、どうする?」

「もちろん討伐するわ。2体目の魔物を討伐するチャンスよ。」


残り15体のイルカを浜辺に向かわせ、アイーダと2人で沖へ向かう。


「魔物を海中から浮かび上がらせることができるか?」

「できるわ。任せて」


魔物の魔石を回収するためには、海の中で魔物を消滅させてはいけない。海上に浮かばせて、落ちてくる魔石を回収する作戦だ。アイーダが詠唱する。


「黄金のクラーフル アウト」


現れた横笛を口にあてて、再びアイーダが詠唱する。


「音楽魔法 Fly up in the sky ―舞い上がれ 天空へー」 


ビートに乗った軽快なリズムの、気分が上がる曲が流れるとケンクラーが海面に浮かび上がった。それを見て 俺は詠唱する。


「星魔法 かに座8体」


全長20 mほどのカニ1体の持つ2本のハサミを使い、カニ1体でケンクラーの足1本を切り落とす。8本の足すべてが切り落とされた。よし、止めだ。


「ケンクラーを海面から5m高く浮かばせてくれ」


アイーダがコクリと頷き、横笛を吹き続ける。ケンクラーが浮かび上がった。俺は再び詠唱する。


「星魔法 かじき座」


現れた全長30 m くらいのかじきが、海面を泳ぎ、ジャンプして、槍のように長く鋭く伸びている上顎でケンクラーの頭を突き刺す。ケンクラーは灰色の煙となって消滅する。


落ちてきた魔石はカニの1体がハサミで受け止め、俺の前にやって来て差し出した。その魔石を受け取り、アイーダに渡す。


「これで2体目の魔物討伐だな」

「ええ、だけど、もう1体魔物を討伐しないと」


俺は微笑んで答える。


「もうここに魔物は、いないようだから、今日はお屋敷に帰ろうか」

「はい。また来年ここに来ましょう。」


翌日、帰る前にフェネとヴェーヌ、セルクはプレヤのためのお土産をたくさん買い込んでいた。メイドたちも仲間へのお土産をたくさん買っていたようだ。仲がいいことで微笑ましい。俺とアイーダもたくさんのお土産を買ったのは言うまでもない。


こうして、夏の海辺の日々は終わった。楽しい日々だった。




お読みいただきありがとうございます。


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参考

「サンタルチア」 イタリア・ナポリの民謡 

「我は海の子」  文部省唱歌  

「ほたるこい」  わらべうた 


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