表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/28

第14話 恋は秋色 

〇ヒマリア

 ユリ、ヒマワリ、ニチニチソウ、デュランタ、ジニア、ポーチュラカ、アガパンサス、プルメリア、花壇の花々を見て、ヒマリアは夏だなあ、と思う。


 アース様、アイーダ様、フェネ様が不在のため、今日はお付きメイドの仕事が少ない。アース様は週に1日のステラ家の仕事をするために、アイーダ様とフェネ様はアルタイルの森に出かけている。音楽魔法一族帰還の式典と夜会のための礼儀作法、ダンスの講習のためだ。


礼儀作法の習得はすぐのはずだ。あとは何回も繰り返して洗練されたものにすれば良い。ダンスの練習は、ブルースから始めるのだろう。ブルースは簡単だが、主に年配のカップル用のダンスだし、流行遅れ。だから、夜会で踊ることはまず無い。


ジルバやマンボは、王宮主催の夜会向きのダンスではない。となれば、ワルツ一択。赤いバラの舞台でのアイーダ様の動きから判断するに、ワルツの習得もすぐだろう。アース様も名家の御曹司だから、大丈夫だと思う。


しかし、ダンスは2人で踊るもの。クイックステップやスローステップの歩幅、弧を描く動きのときの角度など、2人の息を合わせる必要がある。2人一緒に練習する時間がかなり必要だ。でも、あの2人なら短い時間で済むかもしれない。


ヒマリアは別の事を考え始めた。『赤いバラの夏』が蓄音盤発売開始1週間で、30万枚も売り上げたのだ、大ヒットである。そこで、秋にも是非、新曲を出そうということになり、タイトルだけが決定した。


『恋は秋色』それがタイトル。しかし、作詞担当のヒマリアには、秋色のイメージがわかない。だから、たくさんの色の花が咲いている花壇を見ていたのだが、イメージはわいて来ない。いつの間にか、近くに寄って来ていたアマルが声をかけてくる。


「ヒマリア、ここにいたのね。何をしているの?」

「やあ、アマル。新曲のタイトルの秋色のイメージがわかなくて」

「そうね。花の色は、春は青、夏は赤、秋は白、みたいに決まっていないしね」


「そう、どの季節も花が様々な色で、花壇を彩っているわ。う~ん」

「あっ、花の色ではなくて、木の葉の色はどうかな?」


「木の葉の色?そうか、春と夏は緑、秋になると黄色や赤になる木の葉もあるね。秋が深まると黄色や赤も鮮やかになる、夏に芽生えた恋も秋が深まると、うん、イメージがわいて来たよ」


「そう、良かった。じゃあ、タイリア伯爵領のお祭りに向けて練習しようか」

「そうだね、お祭りは明後日だからね」


赤いバラが地方のお祭りへの参加するのは3回目である。しかし、多くの観客の前で歌って踊る事に、なかなか慣れないのである。だから、練習を繰り返して、動きを体に覚えさせる、何も考えなくても体が自然に動くようにしておくのだ。


 2人のお付きメイドは、急いで練習場のダンスホールへ向かった。


〇パシファ

ケトルの口から出る湯気をトレイに当てる。そして、湯気から離してしばらくするとトレイが冷える。冷えたトレイには水滴が付いていた。


「やっぱりご主人様の言う通りね」


そう呟くと、パシファはアースに言われたことを思い出す。公園から帰って来てもう一度、水が氷になることについて、アースに教えてもらった事を。


「水を作る一番小さいものが、だんだん動きを遅くしていき、正三角形4つで作る正三角錐、正四面体の頂点に固定されると氷になる。水が氷になる時には、だんだん水温が下がる。つまり、水を作る一番小さいものの動きが遅くなっていくと、水温がだんだん下がっていく。


逆に水を作る一番小さいものの動きが速くなるにつれ、水温が上がっていく。そして、最後は湯気になって飛んでいく。湯気を冷やすと水に戻る。つまり、魔法で水をお湯にするには、水を作る一番小さいものの動きが速くなることをイメージする。詠唱の言葉は熱水だ」


パシファが魔法でお湯を沸かしたい理由は、湯沸かしの魔導具が使いづらいことにある。湯沸かしの魔導具では、望む温度のお湯を作りにくいのだ。沸騰させてから冷やすと、時間がかかる。


途中でスイッチを切ると、うまく温度調整できない。だか、魔法なら簡単に温めたり、冷やしたりできるから、望む温度のお湯を作れるかもしれない、とパシファは考えた。


美味しいお茶を入れるためには、茶葉を入れるお湯の温度と茶葉を入れている時間が大切。それらも茶葉の種類によって異なる。一般に、甘味やうま味を強くしたいなら低温のお湯、渋みを強くしたいなら高温のお湯を使う。


 さあ、やってみよう。パシファはコップに水を入れて、水を作る一番小さいものの動きが速くなることをイメージする。そして、詠唱する。


「水魔法 熱水」


ダメだった。お湯にならなかった。でも、あきらめない。何回も何回も繰り返した。それは、何回目のことだっただろうか、突然、強くイメージできたのだ。


「水魔法 熱水」


少しだけ暖かいお湯ができた。よし、もう1回、そう思ったとき、頭が痛くなった。魔力切れだ。今日はここまでか、いや、まだだ。ホッペチューをしてもらえばいい。


ホッペチューをしてもらうと、ご主人様から甘い魔力が流れ込んでくる。その魔力はお腹にある袋みたいなものに貯まっていく。貯まるだけではなく、袋の硬い皮を柔らかくして膨らみやすくしてくれる。すると、袋に蓄えられる魔力量がどんどん増える。


何回もホッペチューしてもらっていると、蓄えられる魔力量が増えていった。すると、使う魔法の威力も大きくなっていった。私の魔法はどこまで成長するのか。とても楽しみだ、ワクワクする。魔法がもっと上手になって、みんなにもっと美味しいお茶を飲んでもらえるようになればいい、そう思うパシファ。

 


「ご主人様~。どこにいらっしゃるのですか~」


アースを探しに行くパシファであった。


〇女の子たちのお茶会


「ウワーーーン、どうして僕だけタイリア伯爵領にいけないのですかーーー。グスン」


泣いているのは、プレヤ。それを困った顔で見ているのは、フェネとヴェーヌ、セルク、全員11才である。場所は屋敷のアイーダとフェネの部屋。アイーダはダンスの練習のため不在である。セルクが、なだめるように言う。


「お父様が許されないのですから、仕方ないのではないですか」

「お父様なんて大嫌いだーーー、ウワーーーン」


失敗である。次はフェネの番だ。


「プレヤの持っている魔法杖は素敵ね、名前があるの?」

「えっ、グスン、ロータスワンドって名前だよ。特に黄道12星座の星魔法を使うときに強力に補助してくれる杖なんだ」

「黄道12星座ってなあに?」

「黄道は太陽が通る空の道のことさ。12星座はその道にある星座のことだよ」



プレヤが泣き止んだ。話題を変える作戦は成功したようだ。


「星占いで使うみずがめ座やさそり座のこと?」

「そう、ちなみにアース様はしし座で、アイーダお姉様はおひつじ座。僕はふたご座だよ」


コン コン コン


ノックに返事をすると、入って来たのはメイドスキル、「スイーツの恵み」を持つアマル。ワゴンでお菓子とお茶を運んできている。


「さあ。みなさん、美味しいお菓子とお茶の時間ですよ~~~」


「「「「ワーイ アマルさんの作ったお菓子だーーー」」」」

「パシファの入れたお茶も美味しいですよ」

「今日のお菓子は何?」


「はちみつレモンのマドレーヌです。冷やしてありますから、夏にピッタリのお菓子です。お茶もよく冷やしてありますよ」


しばらくの間、お菓子に夢中だった女の子たちだったが、フェネが口を開いた。


「こんなに美味しいお菓子が作れるなんて、アマルさんはお菓子の妖精とお友達ですか?」

「お菓子の妖精なんているのですか。もしいたら、お友達になりたいです」

「妖精はいますよ。それも何種類もの妖精がいます。お人形があれば、その中に入ってもらえます。あそこの2体のドレスを着た人形を使いましょう」


フェネは棚に置いてあった人形2体を持って来て、床に置く。そして、横笛を口に当てて詠唱する。


「音楽魔法 金平糖の精の踊り」


テッキンのような音色で曲が演奏されると、人形は起き上がり、踊り始めた。妖精は人形の身体に慣れないためか、片足で跳ねたり、両足を小刻みに動かして進み、ときにジャンプする踊りだった。人形2体が礼をして、踊りが終わる。


「可愛い踊りだったわ。妖精って本当にいるんだ」

「テッキンのような音色は妖精にお似合いの音色ね。楽器は何?」

「次は人形の身体に慣れて、上手に踊れるかもしれないわ」


口々に感想を言い合う女の子たち。それにフェネが答える。


「テッキンのような音色の楽器は、チェレスタよ。妖精を呼び出す時には、

チェレスタの音色で演奏するの。私はお菓子の妖精しか呼び出せないけど、アイーダお姉様は、いろいろな妖精が呼び出せるの、すごいのよ。じゃあ、もう1曲踊ってもらうわ」


「音楽魔法 花のワルツ」


人形2体が向かい合って手をつなぎ、ワルツを踊り出す。3拍子のリズムに乗って優雅に踊る。だが、グルグル回ったりすると、少しフラフラしている。


パチパチパチパチパチ


踊り終わった人形たちが綺麗なお辞儀をすると、4人は拍手を送った。


「ワルツって綺麗な踊りだね。見ていて楽しい」

「でも、相当筋力や体力が必要みたいよ」

「私にも踊れるかしら、自信ないわ」


少しの間、4人は感想を話していたが、フェネが質問をした。


「ワルツを踊るなら、相手は誰がいい?」

「「アース様!」」

「アイーダお義姉様」


プレヤとセルクの答えは、アースだったが、ヴェーヌの答えはアイーダだ。フェネが質問する。


「私もアース様だけど、ヴェーヌはなぜアイーダお姉様なの?」


「私もお兄様と踊りたいけど、兄と妹で踊るのもどうかな、と思って。お兄様以外だと、アイーダお義姉様だから」

「「「なるほど」」」


それを聞いていたアマルが言う。


「女2人で踊ることはあまりありません。それにワルツを踊るには、体力や筋力が必要ですよ。みなさんがワルツを踊るためにはもっとトレーニングが必要です」


「「「「えーーー」」」」


次の日から、これまで以上に体力作り、筋トレに真面目に取り組む4人の女の子たちであった。



お読みいただきありがとうございます。

いいなと思ったら、評価等お願いします。


参考

「金平糖の精の踊り」 くるみ割り人形より 

「花のワルツ」  くるみ割り人形より

「くるみ割り人形」 作曲 チャイコフスキー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ