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第10話 魔法トレーニングと帰還作業

「じゃあ、お付きメイド6人の体術については問題ないな、アイーダ」

「ええ、これまで通りのトレーニングでいいと思うわ」


地方公演に向けて、お付きメイドの自衛力について、アイーダと相談中である。体術は問題ない。次は魔法についてだ。


「音楽魔法一族はどれくらい魔法を使える?」

「音楽魔法が使える者は、水魔法か風魔法が使えるわね。中には2つとも使える者もいるの。私もフェネも水魔法と風魔法が使えるわ。音楽魔法が使えない者は、スキルだけは持っているけど魔法は使えない者から、複数の魔法が使える者まで、いろいろ。


屋敷警備隊隊長のイスリは火魔法と風魔法が使えるけど、これは例外。音楽魔法一族は森の一族だから、火魔法は使えない者がほとんどなの」


森の中で火魔法を使うと火事になるから、長年の間に自然と火魔法が使えなくなったのだろう。アイーダが続ける。


「水魔法が使える者の数が一番多くて、風魔法、土魔法の順ね。使えると言っても、とても使えるとは言えないレベルから、強力な魔法が使えるレベルまでいろいろいるわ」


「お付きメイド6人は、どのレベルだ?」

「普段は、使えるとは言えないレベルだけど、ホッペチューされると、そこそこ使えるレベルになるわ」


王国内だと、赤いバラの屋敷に転移できるから、転移までの5秒から10秒を稼げればいい。そのための水魔法をマスターしてもらおう。


「水魔法の水矢か水針を使えればいいかな?」

「そうね、メイドは裁縫で使う針の方がイメージしやすいわ。だから水針の方がいいわ」

「じゃあ、水魔法の水針をマスターしてもらおう」


次は、フェネとプレヤだ。地方公演に、俺はマネージャーとして同行する。フェネは付き人、プレヤは護衛として参加することになった。本人たちが強く希望したからだ。いざとなれば、フェネの持っている短剣クリス君の防御結界がある。しかし、自衛力を上げておいた方がいい。


「フェネとプレヤは基礎体力と保有魔力量を増やす必要があるかな?」

「そうね。もっともっとトレーニングが必要ね。その上で魔法の実力も鍛えなくてはいけないわ」


「武器についてはどうだろう? プレヤはまあまあ剣を使える。フェネは?」

「フェネはとても上手に短弓を使うわ。森で狩りをしていたからね」

「なるほど。では、2人は魔法のトレーニングに重点を置こうか」


結論として、お付きメイド6人、フェネ、プレヤの魔法トレーニングを実施することになった。地方公演まで日数がないから、実力の大幅な上昇にはならないが、やらないよりはいいだろう。それに、これをきっかけに魔法の実力を上げていけば、将来役に立つかもしれない。



野外訓練場


「水魔法 水針」


前に突き出されたパシファの右手、その手のひらの少し先に10本ほどの水の針が浮かび、飛んで行く。10mくらい飛んで針は消える。他の5人のお付きメイドも多少の差があれ、似たようなものだ。


「これくらい魔法が使えれば、自衛力として十分だ。後は何回も繰り返して、発動時間を短くしたり、針の数を増やしたり、針のスピードを上げ、飛距離を伸ばせばいい。各自トレーニングに励むように」

「「「「「「はい。ありがとうございました。」」」」」」


返事の声が揃った。お付メイドたちは真面目に、熱心に訓練に取り組んでいる。このまま訓練を続ければ、実力が伸びるのは間違いない。素質はあったのだ。キチンとした訓練をしていなかったから、素質が開花しなかっただけだ。彼女たちのこれからに期待しよう。


次はプレヤの番だ。プレヤは星魔法一族の貴族だから、長年魔法のトレーニングを受けているし、実力もある。それをもっと伸ばすトレーニングをする。


「連射できるだけの矢を、あの的に当ててみろ」

「はい」


ロータスワンドを手にしたプレヤが詠唱する。


「星魔法 いて座」


上半身が人、下半身が馬の姿をした者、ケイローンが現れて、手に持った弓を引く。5本連続で矢が飛んでいき、5本とも100m先の的に当たった。11才にしては上出来だ。さすがである。


「今度は俺がやるから、見ていろ」


「星魔法 いて座」


プレヤの出したケイローンの2倍の大きさのケイローンが弓を引く。30本連続で矢が飛んでいき、30本とも的に当たった。矢のスピードはプレヤの3倍である。


「すごい、すごいです。アース様。僕もこんな魔法が使いたいです」

「そうか、では保有魔力量を増やすトレーニングを頑張れ。そうすれば、プレヤもできるようになる」

「はい、頑張ります!」


そこにパシファがやって来た。歩き方に少し元気がない。


「ご主人様、魔力がなくなりそうです。お願いします」


魔力補充、ホッペチューのおねだりだ。最近はすっかり慣れて、握手のような、挨拶のような感じになっている。慣れとは恐ろしいものだ。


ホッペチューされたパシファが、水魔法水針を使うと、さきほどの2倍の20本ほどの水針が飛んで行く。30mくらい飛んで針は消えた。それを見たプレヤは驚いた。プレヤには何が起こったのか、訳がわからないのだ。不思議そうな顔をして俺に尋ねてきた。


「どうして、急にパシファの魔法の威力が上がったのですか?」

「俺からホッペチューされた者は、俺から魔力を吸収して、魔法の威力が上がるらしい。今のところ、音楽魔法一族の者だけしか試していないが」


「で、では、僕にも試してください」

「アイーダの許可が必要だ」

「では、すぐに許可をもらって来ます」


そう言うとプレヤは走っていった。アイーダはダンスホールで、フェネに音楽魔法の特訓をしている。そこへ行ったのだろう。誰だって簡単に魔法の威力を上げることができれば、そうしたいから。


しばらくすると、ハアハア息をしながらプレヤが帰ってきた。


「お姉様の許可をもらってきました」

「じゃあ、こっちに来い」


プレヤの頭を両手で固定して、赤くなった頬にホッペチューをする。プレヤの目が虚ろだ。そして、つぶやく。


「甘い、とっても甘いです」

「どうした、ホッペチューは初体験か?」

「は、はい。こんなに美味しくて、気持ちいいとは知りませんでした。もう1回お願いできますか?」

「ダメだ。もう1回あの的に矢を当ててみろ」


プレヤが詠唱する。


「星魔法 いて座」


10本連続でケイローンが放った矢が飛んで行き、10本とも100m先の的に当たった。


「すごい、魔法の威力が2倍になりました」

「魔力保有量が増えることの意味がわかったか?」

「はい、とてもよくわかりました。トレーニングをもっと頑張ります」



お花池のちょうちょう島


「6人のお付きメイドとフェネ、プレヤは大丈夫だと思う。後は日々のトレーニングを積み重ねるだけだ」


「フェネも大丈夫よ。一族の帰還作業で、お屋敷の楽団の人たちも忙しくてね、

蓄音の魔道具や魔音板を使ったけど。これらの道具をアルタイルの森にも欲しいわ。児童館みたいな施設を建てられるかしら?」


「なるほど、子どもたちのためか。いい考えだ。会頭さんに相談してみよう。たぶん大丈夫だろう」


アイーダとほっこりした気分で会話していると、庭師のイアペトさんがやって来た。急いでいる様子だ。


「ご主人様、ステラ家から赤いバラが届きました。いかがいたしましょうか。」

「アイーダ、どうする?」

「三等分して、こことアルタイルの森のお母さまの所と薬草とポーションの工房の所に分けましょう」


「三等分して植えるのに必要な花壇の広さは、それぞれ10m四方になります。この屋敷のどこに花壇を作りますか?」


「いつもお部屋から赤いバラを見ることができるように、前庭の私の部屋の前にお願いします」

「分かりました。その花壇は2日ほどで完成させましょう」


そして、アルタイルの森で植える場所について、もっと詳しく指定できるように、3人でアルタイルの森に行くことにした。



アルタイルの森


ベガの森から帰還する音楽魔法一族のための家や施設は9割くらい完成しているようだった。その中でも目を引いたのは、族長の屋敷。族長の屋敷はとても大きかった。族長の希望は、家族全員が一緒に住める程度の大きさの家だった。


しかし、屋敷商会の会頭さんが、公爵相当の地位だからと言って、とても大きい屋敷にしたとの事だ。ふつう、貴族の家は石造りだが、この屋敷は木製だ。長い間木製の家に住んできたので、木製の家のがいいらしいし、森の中には木製の家が馴染むらしい


屋敷に入ると、族長は不在らしく、アイーダの母親である族長の第一夫人ディーナさんを探すと、裏庭でゆったりとお茶をしていた。


「あらあら、アイーダ、アースさん、いらっしゃい。もう1人の方はどなたかしら? 初めてお会いする方よね」


庭師のイアペトさんを紹介して、アイーダは早速本題に入る。


「お母様、今日は赤いバラのことで相談にきました」

「赤いバラ? どんなバラかしら?」


「300年前にこの森で咲いていたバラ、『聖なる癒しのバラ』の子孫です。ステラ家に第一夫人として嫁入りされたご先祖様が持って行かれたバラの子孫で、ステラ家の第一夫人から頂きました」


「まあ、『聖なる癒しのバラ』、それは失われたバラね。この森で探したけど、見つからなかったのよ」

「この屋敷の中にも、そのバラの花壇を作ろうと思うのですが、いいでしょうか。作るとしたら、どこがいいでしょうか?」


「花壇はどれくらいの大きさかしら?」

「10m四方の花壇です」

「だったらここ、屋敷の裏庭の中央がいいわ」

「イアペトさん、できるかしら?」


イアペトさんは、裏庭を調べてから返事した。


「大丈夫です。3日後から工事を開始できます。完成まで3日かかります」


それを聞いた第一夫人が微笑む。


「アイーダ、3日後から工事をお願いして。ステラ家の第一夫人へのお礼はロイヤルパープルに染めたシルクでいいかしら?」

「はい。ロイヤルパープルに染めることができるようになったのですか?」


「そうよ、材料の巻貝を屋敷商会さんが持って来てくれたの」

「さすが、屋敷商会さんですね。では次に薬草とポーションの工房に行きます。今日はこれでお暇します」

「忙しそうね。今度ゆっくりと来てね。アースさんともたくさんお話したいし」


ただの付き添い気分だった俺は、慌てて返事を返した。


「はい、是非お邪魔させていただきます」


薬草とポーションの工房は大忙しだった。どちらの部門も300年間の進歩が大きく、それに追いつき、対応するために薬草園を拡大する必要があり、最初の計画を大幅に見直すことになったのだ。


そんな時に、『傷を一瞬で治療し、万病に効く薬』の原料である『聖なる癒しのバラ』の話が持ち込まれたのだから、嬉しいやら、秘密保持をどうするか、で大変なことになった。だから、イアペトさんを残して、俺たちは帰ることにした。


 転移陣の近くで、屋敷商会会頭さんの息子のザイさんと出会った。


「ザイさん、こんにちは。お忙しいみたいですね」

「アース様、お久しぶりです。私はここの現場総責任者でして、大変な毎日です。でも、これは嬉しい悲鳴をあげていると言うべきでしょう」


「お忙しいところ申し訳ありませんが、アイーダの話を聞いてもらえませんか」


「どのようなお話でしょうか? アイーダ様」

「私の我が儘ですけど、この森の子どもたちが、蓄音の魔道具や魔音板を使って、新しい曲を聴ける施設が欲しいと思いまして」


「なるほど。300年の間に作曲された曲もたくさんありますし、子どもたちには有益でしょう。50人くらい収容できる小ホールと4人くらい入る完全防音の小部屋をいくつか、魔音板は無料で貸し出しとして、ふむふむ。ああ、そうなると楽器も同様ですね。ピアノのように新しく発明された楽器もありますし」


どうやらザイさんの頭の中で、構想が広がっているようだ。これは立ち話で済む内容ではないと、アイーダは判断したようだ。


「詳しいことは、族長の第一夫人か第二夫人と相談してください。使う人たちの希望を優先すべきですから」

「わかりました。そうさせてもらいます」


丸投げである。これでいいのか、アイーダ。まあいい、俺は気になっている事が他にあった。


「あとどれくらいで、帰還作業は終わりますか?」

「細かい調整は残ると思いますが、2週間程度でしょう。その後、音楽魔法一族の帰還を祝う式典が行われる予定です」

「ありがとうございます。くれぐれも健康に気を付けてください」


その後、屋敷に転移して、すぐに冒険者ギルドへ行った。魔物討伐の依頼を探すためだ。無かった、全く無かった。やはり魔物討伐より、魔物を探す方が難しそうだ。


お読みいただきありがとうございます。


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