第9話 伯爵令嬢 プレヤ
僕はプレヤ。プレヤ フォン プラネート。星魔法一族のプラネート伯爵家の3女で、緑髪青色の目の11才。魔法学園で魔法の勉強をしている。魔法は星魔法と火魔法が得意だが、剣も体術も得意だ。特に体術は魔法学園の大会で優勝するほど得意だ。
プラネート伯爵家は武門の家で、お父様は星魔法軍団で師団長を務めていらっしゃるのだ。だから、女の子だけど、剣も体術も訓練に励んだ。これが、剣や体術が得意な理由だ。お母さまは星魔法一族の伯爵家から嫁いで来られた。そう、僕は星魔法一族のサラブレッドなのだ。
僕には親友と呼べる女の子が1人いる。ステラ家の長女ヴェーヌだ。僕と同じ11才。母親同士が学園時代からの友人で、同じ年齢の女の子を持つということもあり、しばしば私たちを同伴して2人でお茶会をしていたらしい。
だから、小さい頃からヴェーヌと一緒にいることが多かった。遊ぶのも、勉強するのも、剣や体術、魔法の訓練も。7才くらいの時だっただろうか、ステラ家の訓練場でヴェーヌと剣の訓練をしていた時に、アースも同じ場所で訓練をしているのを見て、胸がキュンとした。
アースが素敵だったのだ。もちろん、アースの外見も良かったのだが、それ以上に、ひたむきに訓練に取り組む姿勢、上手な剣さばきにドキドキしてしまった。
休憩時間にアースが星魔法を見せてくれた。
「星魔法 ドーナツ星雲」
アースが詠唱すると、現れたのはリング、ピカピカ光るリング。アースは、食べられないけどね、と言って笑っていた。もっと見たいと言ったら、もう1つリングを出してくれた。
「星魔法 ネックレス星雲」
アースが詠唱すると、青白く輝くリングが現れた。とてもきれいだった。30分くらい、リングが消えるまで見つめていた。
ヴェーヌには2人の兄がいる。アースは長男で、魔法が大好きらしい。次男はレーヴェ。レーヴェもときどき剣や魔法の鍛錬をしているのを、ステラ家の訓練場で見かけたが、彼もなかなかの腕前だった。
でもレーヴェは、あまり剣や魔法が好きでそうではなかった。ヴェーヌに聞いたら、レーヴェは本を読むのが好きだ、という事だった。僕はアースの方と気が合いそうな気がした。
リングの星魔法を見せてもらって以来、機会があればアースと剣の練習をしたり、魔法のお話を聞かせてもらったりした。そして、いつの間にか、将来私はアースの第一夫人になると思っていた。
それなのに、それなのに、ヴェーヌから至急の連絡が来た。アースに第一夫人候補ができたと。その知らせが信じられなかった私は考えた。まず確認しよう。そして、事実だったらその女に決闘を申し込み、第一夫人の座を勝ち取ろうと。
*
ギルベ男爵領から帰ってきて2日後
赤いバラの屋敷の応接室に、アースとアイーダがソファに座っている。その前に座っているのは、1人の訪問者。2人の女の子を後ろに立たせている。1人の訪問者。3人の訪問者は魔法学園の女子用制服を着ている。立っている2人は護衛兼メイドで、座っている1人の手にはロータスワンド が握られている。
ロータスワンドは 先端に睡蓮の花の造形飾りがある杖で、星魔法の使い手の杖である。特に黄道十二宮星座の星魔法を使う時に強力な効果を発揮する杖である。
「アース、どうして僕との約束を破ったの?」
「約束? 何のことだ? プレヤ。俺には意味がわからない」
「とぼけないで。僕を第一夫人にするって約束だよ」
「知らないな。知っているのは、いつもお前がそれを言っていたことだけだ。俺は同意したことも、約束したこともないぞ」
「ぐぬぬ、それで隣の女が第一夫人候補ってわけ?」
「ああそうだ、アイーダだ」
正面に座っているのは幼馴染のプレヤ。小さい頃から、将来は俺の第一夫人になると言いまくっていた女の子だ。俺は無視していたが。しかし、相変わらずの男の子の言葉使いだ。黙っていれば、緑髪、青目の美少女なのに。アイーダが自己紹介した。
「アイーダ フォン ムジカです」
名乗られたら名乗るのが礼儀。
「プレヤ フォン プラネート。星魔法一族のプラネート伯爵家の3女だ。ムジカ家って聞いたことないけど、どこの国の貴族?」
音楽魔法一族のことは、まだまだ一般には知られていない。11才の魔法学園の生徒が知らないのも当然だ。王宮からの正式発表もまだだし、ぼかしておこう。
「どこの国の貴族かは関係ない。俺が選んだのだから、それでいい」
「僕は認めない。アイーダ、僕と決闘して僕に勝ったら認めてやる」
「いいわよ。決闘の方法は何?」
「素手で、体術勝負だ。僕は学園の体術チャンピオンだ。痛い目に合いたく
なかったら、今のうちに負けを認めた方がいい」
「じゃあ、室内訓練場に移動しましょう」
アイーダは挑発を相手にせず、サラリと言った。その表情は、可愛いものを見るように微笑みを浮かべている。
*
室内訓練場で体術訓練着に着替えた2人の美少女が向き合っている。審判の俺は発声した。
「始め!」
プレヤがいきなり詠唱する。
「星魔法 ふたご座」
プレヤと全く同じ顔、同じ身体がもう1人隣に現れる。プレヤも魔法の腕を上げたようだ。星魔法初級は卒業して、中級くらいにはなったか。
プレヤが2人で攻める。左ジャブ、右ストレートの同時攻撃、それらを両手で払うアイーダ。プレヤの回し蹴り、それを軽くフットワークでかわし、逆襲の足払い。すると1体のプレヤが転倒する。しかし、アイーダの態勢も少し乱れる。
そこにスキを見つけたと思ったのか、もう1人のプレヤが右ストレートを放つが、その腕をアイーダが掴み、1本背負いで投げる。
そんな戦いが5分も続いた頃、プレヤの1人の姿が突然消えた。魔力切れである。残った1人もフラフラ。体力も残っていないようだ。無理もない、学園に通う伯爵令嬢、体力はそれほどないだろう。
それに対して、アイーダは森で育ち、この屋敷に来てからも厳しいトレーニングを積んできた。平然と立っている。アイーダが決闘の勝負を決めに行った。いや、単に押し倒して、抑え込んだだけ。プレヤは、ハアハア、ゼェゼェ息をするだけ。
勝負ありと判断した俺は、判定を下した。
「そこまで、勝者アイーダ」
アイーダが立ち上がり、決闘後の礼をしようと待っていると、
「わ~~ん、わ~~ん、わ~~ん」
プレヤの大きな泣き声が響いた。決闘に負けたのが悔しいのか、俺の第一夫人になれないことが悔しいのか、分からないが泣いている。ため息をつきつつ、どうしたものかと考えていたら、アイーダがプレヤに近づいて慰めた。
「汗をいっぱいかいたね。一緒にお風呂に入りましょう」
そう言うとプレヤの手を引き、出て行った。
*
1時間後、自室でお茶を飲んでいると、アイーダとプレヤが2人でやって来た。
「アース、僕」
「ちゃんと、アース様と言いなさい、プレヤ」
「ごめんなさい、アイーダお姉様。アース様、僕はアイーダお姉様の妹分になることにしたよ。決闘で負けたから」
プレヤが帰ってから、アイーダから頼まれた。
「プレヤも夫人にしてね。とってもいい子だから」
「ああ、いいぞ。でもプレヤが大人なるまで、誰にも秘密にしてくれ」
俺は同意した。プレヤがいい子なのは良く知っているし、アイーダの頼みだから。でもプレヤはまだ11才だ。そのうち気が変わるかもしれないし、プレヤに猛烈にアタックする男子が現れるかもしれない。だから、秘密にするのだ。
学園が夏休みだから、ここに住み込みで魔法や体術、剣術の練習をしたいと言い出したプレヤ。しかし、親の許可が下りず、通いでアイーダやフェネとトレーニングすることになった。フェネとも仲良くなると嬉しい。
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