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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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マーレの来訪(1)

「ロッテ! 会いたかった!」


「うぐぐ……苦しいよう……」


 馬から降りるなり、私をぎゅうぎゅう抱き締める姫騎士マーレ。優秀な戦士様が全力で締め上げたら、ひ弱な私は、窒息してしまうよ、もう少し手加減して。


「ごめんごめん、嬉しくて。もう少し早く来たかったんだけど、任期が明けないと長い休みが取れなかったからね~」


「じゃあ、長くいられるの?」


「うん。あのいまいましい第二王子殿下の、なんちゃって冒険者パーティへの出向がやっと終わったの。任期明けには二ケ月の休暇がもらえるのよ。ロッテの新居に、たっぷりお邪魔するつもりで来たのよ!」


 マーレは紅茶色の髪を揺らしながら、切れ長の眼を優しく細める。もちろん大歓迎よ。


「嬉しい! 遠慮しないで、いくらでもいてね。何にもないところだけど、その何もないのが、いいところなのよ!」


 そう、バイエルンで初めてできたお友達に、私達の素敵なスローライフを、ご披露するとしよう。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「すごい、このおうち! 私も住みたいくらい!」


 夕食のテーブルで、マーレがまだ興奮しきり。


 王都では見かけないログハウスの風情に感動して、上下水道完備に驚いて。だけど一番感動したのは、大木をくり抜いた例の野趣あふれるお風呂だったらしい。クララが「まず旅塵をお拭いなされませ」と最初に入浴を勧めたんだけど、もう興奮しちゃって、いっこうに出てこないのよ、のぼせちゃわないかと心配になったくらい。


「うん、いいでしょ、村の人達が建ててくれたの。そして、内装を考えてくれたのはみんなクララなの。あのお風呂も、そうよ」


 私がちょっと大げさに褒めると、クララが少し頬を染めて嬉しそうに微笑む。


「ロッテはいい侍女を持っているわね、うらやましいわ。このお料理だって、クララさんが作ったのよね、本当に美味しい……王都に連れて帰りたいくらいよ!」


「ありがとうございますアマーリエ様、過分のお言葉です。しかしながら、私は生涯この方一筋にお仕えする所存ですので、お役には立てないかと」


 少し誇らしげに胸を張って、凛々しく答えるクララ。


「あら、相変わらず妬けちゃうくらい仲良しなのね。うん、ずっと……ロッテをお願いね、放っておくと、なんか心配な子なのよね」


「ふふっ、そうですね……ずっと、お見守り致しますわ」


 あれ? 大好きな二人が仲良しっぽいのは嬉しいけど、なんか二人とも、私を子供扱いしてない? う~ん、不本意だわ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 その晩には私も興奮しちゃって、マーレと二人で夜更かししちゃった。


 カミル達は先に寝ちゃって、クララも私たちにワインとおつまみを用意した後、遠慮して自室に引っ込んでしまっている。だから二人きり、ガールズトークの夜なのだ。


「マーレはもう、あのおかしな王子のところに行かなくていいんだよね? お休み明けには、第一王子様の直属騎士に戻るの?」


「それなのよね……もちろん戻ることもできるのだけれど、私ももう二十歳、じき二十一よ。さすがにお父様が、そろそろ令嬢に戻って配偶者を探すべきではないかって。この休暇が明けたら選ばないといけないの、騎士を続けるか、引退して社交の道に進むか……」


「そうよね。二十歳じゃ、もう結婚適齢期後半だもんね……」


 ロワールでは十五歳から、せいぜい二十二、三くらいが適齢期だ。バイエルンでは少しくらい遅いかも知れないけど、そう変わらないだろう。


「どうせ私は嫁き遅れ気味ですよっ! 一生騎士を続ける気もないから、このへんで旦那様を見つけるのも悪くないと思っているんだけど、今さら淑やかになれと言われてもね……」


「ううん、マーレはその凛々しさが素敵なんだから、無理になよなよしちゃいけないんだよ。そのままでも、たくさんの殿方が群がってくるって!」


「たくさんはいないだろうけど、このままの私を気に入ってくれる人がいたらいいなとは、思うんだ」


「きっといるよ! 私が太鼓判おすわ!」


 ワインの勢いも借りて、調子に乗って煽る私。


「ねえロッテ。私のことはともかく、あなたの方はどうなの?」


「え? 変わらないよ? みんなで楽しく仲良く暮らしてる今が、とっても幸せだよ?」


「……あのね。そりゃクララちゃんやビアンカちゃんは可愛いわよ。でも、いっつも貴女を熱く見つめている殿方がいるでしょう?」


「いたっけ……?」


はあ~っと、マーレが深いため息をつく。


「ここまで無自覚だと、どうしようもないわね。ねえ、あのヴィクトルさんのことよ。あんな印象的なイケメンがロッテのことをじっと見ているのに、何も感じないの?」


「え? だってヴィクトルはサーベルタイガーの族長になるんだから、じき森に帰っちゃうわけだし……」


「クララちゃんから聞いてるわよ? その族長さんがロッテに『息子をやる』っておっしゃったんでしょう?」


 そういえば、そんなことも、あったわよね。


「うん。だからここまで、一緒に旅して来たわけなんだけど」


「あのね。族長さんの言葉は、息子のヴィクトルさんを『一生』あげる、ってことなのよ。ロッテは、本当に鈍いわね」


「ええっ、そうなの?」


「疑いなく、そうね」


 きっぱりマーレに言い切られてしまった。え~、どうしよう。私は何か、取り返しのつかないことをしてしまった気がする。


「大変! じゃ、すぐヴィクトルに戻るように言わなくちゃ、そうしないと……ヴィクトルが、族長になれなくなっちゃうよ!」


「はぁ? 何言ってんのかなあ、この子は。ロッテって普段鋭いことを言うくせに、自分のことになると途端に頭の悪い鈍感な子になるよね。あのね、ヴィクトルさんにとっては、族長の地位なんかより、ロッテが欲しいんだよ。族長さんは、その意志を汲んで、一緒に送り出してくれたんだよ。わかる?」


 テンパる私に、ジト目を向けるマーレ。


 え、もしかして、本当にそうなの? 命を懸けて私を守ってくれたり、私のわがままをいっぱい聞いてくれたりしたのは……こんな異端聖女の私に、雄としてというか男性としてっていうか、そういう目線で、好意を持ってくれてたってことなの? 


 どうしよう。勝手に頬だけじゃなく、耳までかあっと熱くなる。これ、酒精のせいじゃないよね。


「そんなこと言ったって……彼は魔獣で、私は普通の人間で……」


「ロッテが自分を『普通の人間』っていうところには、無理がありすぎるけどね。そして、魔獣と人間が結ばれることは、よくあることよ。クララちゃんやカミル君、そしてビアンカちゃんはそうやって生まれたわけじゃないの。ヴィクトルさんはああやって普段から人型を維持していられるほど上位の魔獣なんだから、当然ロッテと『つがう』ことだってできるはずよ?」 


 ダメだ、もう顔から火が出そう。考えたこともなかったけれど……それを想像するのは、ものすごく恥ずかしいけれど、決してイヤじゃない。うん、でもどうせなら人型のヴィクトルより、もふもふのヴィクトルに愛された方が素敵な気もするかな。


「ねえロッテ、もしかしてあなた今、すごく大胆なこと考えてない?」


 いけない、これも図星だった。もう赤面どころか、頭に血がのぼって倒れそう。これは何かの気の迷い、いや、やっぱりお酒のせいよ。そう、そうに違いないわ。


「何でもないわ、もっと飲みますわよマーレ!」


 お酒にあまり強くないはずの私だけど、もうここは、このモヤモヤを飲んで忘れるしか……




いつも読んでいただいてありがとうございます。

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