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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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オーグル

「うん? 何か戦っているような音がするが?」


 私には何も聴こえないけど、ヴィクトルの耳が異常を捉えた。狼の血を引くクララほどじゃないと思うけど、やっぱり獣の五感って、鋭いよね。


「戦って……って、この先には村が二つだけで。もしかして、うちの村の人が?」


「わからん、急ごう」


 重い荷物を放り出して、私たちは森の中の一本道を駆ける。そして数百歩先で見たものは、身長が私の二倍はあろうかという褐色の肌をした巨人が、騎士様らしい装いをした二人の人間を襲っている姿だった。


 一人は長剣で渡り合っているけど、巨体が振り回す棍棒をかわすのに精一杯。もう一人はケガでもしているのか、地面に座り込んで立ち上がれない様子だ。


「あれは……オーグル?」


 聖女の修行でひと通りの妖魔について学んだけれど、ロワールにいた時にはお目にかかることのなかった上位種の鬼だ。巨体を利用した力技一辺倒の攻撃は単調だけれど、体力と魔法抵抗がひどく高いせいで、倒すには集団で挑まないと難しいと学んだ覚えがある。


「助けるぞ!」


 叫ぶなりヴィクトルがグルヴェイグを抜き放ち、オーグルの側面に回り込んで一颯を浴びせる。脚から血が噴き出し、巨人は怒りの咆哮を上げる。


「感謝する!」


 戦っていた騎士様も勇気づけられたかのように剣を振るい、ヴィクトルと反対側から挟み撃ちにし、やはり脚を狙って斬りつける。急造のペアだというのに、いい連携作戦だわ。身長が違い過ぎるから心臓や頭に致命傷を与えることは難しいから、協力して足を止めることがまず重要ね。


 確かにだんだん、オーグルの動きが鈍って来た。それを見た騎士様が、好機とみたのか今までよりグッと深く踏み込んだ。ダメ、まだ決着をつけにいくには早いわ……私が警告する余裕もなく、急に速度を増したオーグルの棍棒が、彼の肩にもろに決まった。吹っ飛んだ騎士様の上に、今にも棍棒が振り下ろされる……もう、ためらってる暇はないわ。


「雷光よ!」


 出来るなら聖女の力を使いたくなかったけれど、これしか止める方法がない。万一に備えてチャージしておいた雷光の神聖魔法を、オーグルに直撃させる。私の力ではいくらの傷をつけることもできないだろうけど、せめてあの攻撃だけでも止められれば。


 予想通り、魔法抵抗力の高いオーグルにケガを負わせることはできていない。電撃で一時的に四肢の自由を失って、バランスを崩し地面に膝をついただけ。だけどその一瞬だけで、魔剣グルヴェイグを手にしたヴィクトルには十分だった。彼は雄叫びをあげつつものすごい瞬発力で跳躍し、オーグルの背中から心臓を一気に深く貫いた。巨体の鬼はゆっくりと、地面に崩れ落ちる。


 私は吹っ飛ばされた騎士様に駆け寄る。打ち身や骨折で済んでいればいいのだけど……苦し気な呼吸と、少量の血を吐きながらの咳……これは肋骨が折れて、肺を傷つけている。放っておくと危ないわ。聖女の力はできるだけ見せたくないのだけど、眼の前で勇敢な騎士様が苦しんでいるのを放っておくなんて、できない。私は聖女の杖を握りしめた。


「……我に力を与えたまえ、この者の傷を、癒したまえっ!」


「う……っ」


 騎士様は一瞬顔を歪めたけれど、すぐに静かな呼吸が戻った。よかった……腕の骨折もついでに治ってしまったけど、そこには気付かないでね……なんて都合いいことはないよね。


「き、君はもしや、西教会の聖女……」


 うん、やっぱりバレるよね、またやらかしちゃった。クララに叱られそうだけど仕方ないわ、ここは開き直ろう。


「はい、『元聖女』ではありますが」


「そうか……ルーカスの村に聖女が来たという噂を聞いていたが、それが君というわけか。ああ、まだ礼を言っていなかった。私と友の命を救ってくれてありがとう、深く感謝する。そちらの戦士殿にも、感謝申し上げたい、本当にありがとう」


「森の中で助け合うのは、当たり前だ。礼には及ばない」


 ヴィクトルがさわやかなバリトンで返す。やっぱり、カッコいいわ。


「私はヴァイツ村に駐在する騎士ダニエル、そっちに転がっているのが我が友にして村の会計監のアルノルトだ」


「何もできず申し訳ない。オーグルが襲ってきた時に落馬して、腰を強打してしまい……」


 アルノルトと呼ばれた、ずっと起き上がれなかった方の人がまだ立ち上がれず、這うように近づいてくる。


「まあアルノルトは文官ゆえ、立っていても役に立たなかっただろうがな」


「ダニエル、それを言ってくれるなよ……」


 ようやく緊張がほどけて、軽口が戻ってきたみたいね。私も思わず笑ってしまったわ。


「う~ん、ここまで見せてしまったんですから、もう一度見せても一緒ですよね。アルノルトさん、少しだけ我慢してくださいね……この者の傷を、癒したまえ!」


 もう取り繕う気もなくなった私は、アルノルトさんの腰にも、聖女の力を思いっきり使う。彼の眼が驚きで丸くなって……恐る恐る立ち上がって足腰をなでまわして、何やら確認している。


「これは……魔法使いの操る回復魔法とは違うものだが、すごい効果だな。もう、全然痛くないよ。これが神聖魔法というものか……」


「違いが、わかるのですか?」


「うん、僕は魔力が見える体質だから。この術には『魔力』を感じないんだ、なんというか『精神力』みたいなものが働いているのかな? さっきの雷魔法も、そうだったね」


 そうか~、魔力の見える人は姉様くらいかと思っていたけど、結構いるのね。やっぱり聖女の力をあっちこっちで使うのは、悪目立ちしちゃうからマズいよね……と言いつつ、結果としてはやらかしまくっている私、反省。


 やがて、オーグルに驚いて乗り手を振り落として逃げていた馬たちが、戻ってきた。ダニエル様はちょっとまだ辛そうだけど、アルノルト様は何もなかったかのように騎乗して、何度も礼を述べた後、シュトローブルに向かって行った。彼らの上司には、私たちと絡んだことを内緒にしてもらうよう頼んではあるけど、この調子だとバレるのも時間の問題だろうな。


 オーグルの死体は、ヴィクトルが森に引きずり込んで隠した。狼あたりが綺麗に食べてくれるといいのだけど。頑張ったご褒美として死体から大きな魔石を獲ったから、後日ギルドに持ち込めば、結構なおカネになるだろう、ここだけは楽しみだな。


 放り出した荷物を回収して、何もなかったかのような顔でルーカス村に帰ったけど、家に入ったとたんに血の匂いをクララに気付かれて、全部白状する羽目になっちゃった。やっぱり、イヌ科の嗅覚をごまかせるはず、ないわよね。


「危ないことをなされて……でも、困っている人を放っておけないそういうロッテ様を、私はお慕いしておりますわ」


 お説教されちゃうかと思っていたんだけど、軽いため息をつきながらそんなことを言われたら、胸が切なくなっちゃう。私は思わずクララに抱きついて、ちょっと泣いてしまった。


いつも読んでいただいてありがとうございます!

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