やっぱりそう来る?
小さめの一艘にヴィクトルとカミル、大きめのほうには私とクララ、そしてビアンカ。ヴィクトルがこっちの船に乗ろうとしたら、さっきの臭い息の男に止められた。男と女を分けるとか、明らかに良からぬ意図を感じるわね。
「さあ、さっさと荷物を積みな。どうせあんた達、捕まったらロクなことにならない事情持ちなんだろ、早くしねえとな」
そうね、そこは否定できないかも。まあ、そういう後ろ暗いところも含めて、あのぼったくり運賃なのでしょうけど。
男達はせわしげに河に棹をさし、船を桟橋から離す。さあ、ようやっと……さんざんな目に合ったロワール王国とお別れだ。故国を離れる感傷に涙でもこぼしたいところだけれど、船を操る男たちがいかにも怪しい雰囲気を醸し出していて、そっちが気になって仕方ない。なんか絶対、悪いこと考えていそう。
河のほぼ真ん中あたりに来たところで、その懸念は現実となった。ヴィクトル達の乗った船とかなり距離が開いたところで、最初に話しかけた息の臭い男が、にいっと歯をむいた。
「そんじゃ、お嬢ちゃん達、手を後ろに回してもらおうか」
「どうして、でしょうか?」
「そりゃ、これからお嬢ちゃん達を縛り上げて、俺達の戦利品になってもらうのさ。ここんとこ俺達も女に不自由していてな、嬢ちゃん達は久しぶりの美味しい獲物というわけさ」
あ~、やっぱりこういう展開なのかあ。まあ、こんなとこで悪人専用みたいな渡し船をやってるくらいだから、まともな人たちであるはずは、なかったよね。でも、この人の相手するのは絶対いやだな。美男子がいいとかマッチョがいいとかいう贅沢を言う気はないけど、臭いのだけはダメなの。
「うほっ、兄貴、食べちゃっていいんすか! 俺ぁまた、若い方は売り飛ばすんだとばかり思ってましたがね。きっと生娘だし、手を出さねえ方が高く売れるんじゃないかって兄貴は考えてるのかと……でも、正直たまんねえっす」
この船に乗っているもう一人……棹を操っているやや若い頭の悪そうな男が、見るからに嬉しそうな声を上げる。
「それもそうだ、一番子供な亜麻色は売りとばしたほうがいいな。だが、残りはたっぷりと味をみてから売るとしよう。お二人さんで、四人分の面倒を見てもらうことになるな、くっふっふ……ほら小さい嬢ちゃん、死にたくなかったら手を後ろに回しな」
臭い男がビアンカの背後に回って、腕を掴んだその瞬間。
短い気合の声が聞こえたかと思うと、男の身体が宙を舞っていた。そして長い滞空時間の後、三馬身ほど向こうの水面に、派手な水しぶきとカエルが潰れるような叫びが同時に上がった。
「て、てめえ……」
もう一人の若い頭の悪そうな男が、眼の色を変えて棹を斜めに構えた。そして渾身の力で振り下ろす……だけどその棹は、拍子抜けするくらいあっさりと、クララの両手で受け止められた。
「あなたの動きは、遅いですわ」
そしてみぞおちにクララの蹴りをしたたか浴びた男も、同じように水しぶきと情けない声をあげて、流されていった。
「ロッテ様の魔力をたっぷり頂いた獣人の強さをあなどった愚を、冷たい水の底で後悔するといいですわ」
そううそぶいて、ぺろっと唇をなめるクララ。クール系の容貌で冷酷なセリフを吐かれるとちょっと怖いんだけど、とっても綺麗なの。
「うん、クララはとっても強くて……そして素敵だったよ。ビアンカもびっくりだよ、あんな大きな男を、投げ飛ばしちゃうんだもん」
「あの技は、イリアの村にいらっしゃった騎士様から護身術として習ったものです。役だってよかった……でもクララお姉さんが言ったとおり、ロッテお姉さんの魔力をもらってなかったら、こんな力は出なかったですけどね」
相変わらずほんわか微笑しながら、少し頬を紅潮させているビアンカが愛らしくて、思わず抱き締めちゃう。ほんとに、可愛いんだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇
かなり下流にいたヴィクトルとカミルが乗った船も、当然のように今は二人乗りに変わってしまっている。ヴィクトルが器用に棹を使って、こっちの船に寄せてくる。
「すまない、かなりそっちの船と離されてしまったんで、ちょっと遅れてしまった。だけど、怪我は……ないようだね」
「うん、ありがと。そっちに乗ってた賊は?」
「二人ともカミルが河に叩き落としたよ、俺の出番はなかったね。うん……ロッテに何事もなくてよかった。クララがしっかり守ってくれたみたいだね」
人型になったヴィクトルの声は、濁りのない澄んだバリトン……聞いていてとっても心地いいの。そして、その容姿に眼をひきつけられてしまうのもいつものこと。濃い金色をベースに不思議な黒いメッシュの髪。印象的な金色の瞳。形よい鼻と引き締まった唇、滑らかさとシャープさを併せ持つ綺麗なあごの線……人化するときの容姿は自分で選べるものではないと族長様から聞いていたけど、こんな芸術品みたいな美しさなんて、なんかズルいわよね。
「う、うん。でも今回は、ビアンカが大活躍なの。賊を三馬身くらい遠くまで、放り投げちゃったんだから!」
「そんな……たまたま、うまくいっただけです……」
「いいえ、教わった技術を、ビアンカが何度も練習していた結果が出たのです。誇りにして良いのですよ」
ぽっと頬を染めて照れるビアンカに、お姉さんっぽく賛辞を送るクララ。ほんとに相変わらず、ビアンカ大好きなんだよね。
「ちぇっ、たまには僕もほめてくれたっていいのになあ」
ふふっ、ちょっとむくれているカミルも、可愛いわ。
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