盗賊団を襲っちゃうぞ?
間道から、もう十五分ほど森に踏み込んだだろうか。
ビアンカの先導で、賊の拠点を目指す私たち。さらわれて、夜中に引っぱりまわされた道のりであっても、正確にたどって戻れるところは、さすが獣人の能力だわ。人間じゃこうはいかないよね。
「あそこです」
指さす先に、焚火らしいものが三ケ所くらい見える。周りには小屋のようなものがいくつか建っているみたい。
「ねえビアンカ。賊は、何人くらいいるのかな?」
「私が見たのは、三十人くらいでしょうか。だけど小屋の中は見ていませんから、そこに何人くらいいるのかは、わかりません」
こんな状況なのに、ビアンカは実に冷静に、感情に流されず正確な情報を伝えてくれる。いい子過ぎて、きっと厳しく奴隷としての教育をされてきたのだろうと、哀しい想像をしてしまう。
「そっか、結構強敵だね。クララには魔狼に変化してもらうとして……弟くんの居場所を早くつかまないとね。そうしないと、危なくて神聖魔法が撃てないから」
「神聖魔法っ? ロッテお姉さんは聖女様なのですか?」
「『元聖女』だけどね。だからビアンカの最大のお仕事は、弟くんを探すことだよ」
「はいっ……」
「じゃ、クララ。お願いするわね」
クララがささっと手際よく服を脱いで、瞬く間に巨大な魔狼に変化した。ビアンカが大きく眼を見開く。驚いても声を上げたりしないところが、とってもいい子だよね。
(ロッテ様、いつでも行けますよ)
「うん、できるだけ気付かれないように近くまで行って、カミル君をさがそう、攻撃はそれからよね」
身体を低くしながら焚火に向かってにじり寄っていく私達。狼姿のクララは音も立てずに歩くことは朝飯前みたいだけど、私とビアンカは這うようにしながら必死で少しづつ、少しづつ前進していく。
やがて三つの焚火が囲む広場で、三十人ばかりの賊が、飲み食いしつつだみ声をあげているのが目に入る。戦果に……ビアンカも含めてだけど……祝杯を上げてるんだろうか。
「どう、見える?」
眼を凝らしたビアンカが、ひゅっと息を飲む。必死で声を我慢しながら指さす先には……一番遠い建物の手前に、十歳くらいの小柄な少年が転がされていた。
その姿は……左目の上あたりが大きく紫色に変色し、頭のどこかを切ったのか血が右半面を汚している。唇も切れて頬も腫れあがり、すでに元の容貌がわからないほど痛めつけられている。これで声を上げなかったビアンカはすごいわ。私なら大事な人が……例えばクララがあんな姿になっていたら、間違いなく泣き叫んでいる。
(ロッテ様は小屋を焼き払って下さい。男達は、私が)
クララの意思が流れ込んでくる。
(わかった。無理しちゃダメだからね)
ここは私も声ではなく、念で応える。万一にも気付かれてはいけない、これだけの数的不利なのだ、先制しないと絶対に勝てないから。
(じゃ、一番奥のから行くわよっ!)
精神力を聖女の杖に流す……うん、何度やっても姉様から譲られた杖の使い勝手はすごい。ひと呼吸する間に、力が練り上がる。
「雷光よ!」
気合いの声は控えめにして杖を振り上げる私。少年が転がっているその後ろの大きな小屋に、轟音とともに稲妻が突き刺さって……木造の建物は見る間に燃え始める。
私の魔法におどろき、賊達は一斉に燃える小屋の方に振り返る。つまりそれは、私達に背を向けるということ。この隙を逃すクララではない、近くの男から順に飛びかかると、瞬く間に三人、四人と首筋を切り裂いてゆく。
男達の注意がクララに向いている間に、私はまた精神力を練り上げる。そして手前の建物にまた「雷光」を落とす。うろたえる賊にクララが襲い掛かり、さらに数人を片付ける。
三つ目の小屋を「雷光」で焼き払ったところで、ついに賊の幾人かが、藪に潜んで神聖魔法を放つ私に気付いてしまった。三人ばかりが棍棒のような武器を手に殺到してくる……これはまずいわね。
二人はクララが背後からその爪で倒してくれたけれど、一番動きの良い一人は止められなかった。
(すみませんロッテ様、お願いしますっ!)
お願いされても困るけど、やるしかないわ。刀は苦手だけど、聖女の杖を使っての棒術ならば……
杖を両手で斜めに構える。右手と左手を肩幅くらい離して、自然な感じで握るのがポイントね。きっと大丈夫、厳しい聖女修行の中で、何度も繰り返し訓練したこと、それをそのままやるだけよ。
棍棒を斜めに振りかぶる敵。あんなゴリマッチョとまともに打ち合っちゃいけないわ。私は杖のリーチギリギリの距離でいちかばちか身を沈め、水平に円弧軌道を描きつつ杖を叩きつけた……膝の外側をピンポイントで狙って。
私はクララと違って非力だ、杖で屈強な男を打ち倒すことなど出来ない。だからバランスを崩して動きを止めるだけ。期待通り賊はいっとき膝をつき、再び襲ってくるまでに五つ数えるくらいの時間を稼げた……そしてそれは、クララがそいつの頚動脈を後ろから裂くには、十分な時間だったのよね。
(クララ、ありがとう!)
(ロッテ様の立ち回りも、素晴らしかったですよ!)
短い賛辞を念話で交わすと、クララは素早く反転して、まだ十数人を残す敵との戦いに戻っていった。私も、残る小屋を潰すべく、もう一度聖女の杖をグッと握る。
そして、あと二回「雷光」を撃つ間に、クララは残る賊たちを全員、神の御許に送り込んでいた。行動不能ではなく、完全に息の根を止めて。残酷なようだけど、この人数差だったら仕方ないわよね。クララは接近戦なら無敵に近いけど、あとの二人は肉弾戦に役立たない私と、小さいビアンカ。情けを掛けて中途半端に敵の戦う力を残しちゃって、どっちかが人質にとられたりしたら、その時点で負け確定だからね。
ビアンカは広場に広がる血の惨状に蒼くなっていたけど、動く敵がいなくなると、一直線に……死んだように倒れている少年に走り寄った。
「カミルっ!」
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