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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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聖女レイモンドの追憶(2)

姉様のひとりごとが続きます

 ロッテは私達との約束を守った……聖女に任ぜられるまでは。


 私は十一歳で聖女となったが、ロッテはいくつかの修行でつっかえて、結局十三歳でその任についた。


 そのとき私はすでに、ロッテが持つ紫色の不思議な魔力が、聖女の扱う神聖魔法に対して何の役にも立たないばかりか、それを発動する大きな妨げになっていることを十分知っていた。ロッテの試験成績は平凡だったが、あれだけ強烈なハンデを背負っていても並の聖女と同等の成績が出せるということは……そのハンデさえなければおそらく聖女としての能力は王国で一、二を争うレベルであろうことを、私だけが気付いていたのだ。


 ちょうどその時、王国の東地区を担当する聖女が妖魔との戦いに敗れて殉職した。通常一年は研修期間として先輩聖女とともに働き、魔に属する者達との戦い方を習得するのが新人聖女のルーティンだが、予定外の欠員が出たおかげで、ロッテはいきなり国土の六分の一を守る責任を負わされることとなった。


 そして、三回目の出陣で、ロッテは重傷を負ったのだ。


「シャルロット!」


 王都まで搬送されてきたロッテを見て、私は思わず叫んだ。その綺麗な……染み一つなかった背中には、妖魔がつけた深い爪痕。


「姉様……ごめんなさい、うまくできなかった……」


 決してうまくできなかったわけでは、なかった。ロッテが妖魔を「浄化」する呪文を詠唱する間、やはり経験不足であった護衛騎士が、彼女の背中を守り切れなかったのだ。ロッテは背中を妖魔に深く切り裂かれつつも、「浄化」の業を完成させ、三体のゲイザーを……かなり強い妖魔なのだけど……一瞬で消滅させた。「浄化」で精神力を使い切ったロッテは自身の負傷を回復することもままならず、そのまま馬車で王都へ運ばれる羽目になってしまったのだ。


「もう大丈夫だからね……神よ、この者の傷を癒したまえっ!」


 私は急ぐ心を抑えて精神を集中し、持てる最大の力で治癒の神聖魔法を発動する。可愛い妹の肌に、すり傷一つだって、残すわけにはいかないから。


「うわぁぁぁっ……姉様、熱、熱いよっ!」


 しまった、入れ込み過ぎて、エネルギーを注ぎすぎた。ロッテは悲鳴を上げると、その後はくたりと倒れ込んだ。でも、ロッテの背中は、もう何事もなかったのように、つるつるのサラサラに戻ったから、許してね。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 身体の傷は私の魔法で癒えたけれど、ロッテが味わった恐怖は、その心に深い傷跡を残した。


「だめ……私、次に妖魔と戦ったら、絶対死んじゃうよ」


 ロッテの白い手は、細かく震えて……唇からも血の気が失われて、視線も泳いでいる。


「そんなことはないわ。今回だって、シャルロットの行動に何の間違いもなかったわ。お姉ちゃんが交渉して、護衛騎士をベテランに代えてもらう。そうすれば安心……」


「それはダメっ! そんなことしたら、あの騎士様が自信を失ってしまうわ……」


 どこまでも優しいロッテ。自分が死にかけたのに、自分を守り損ねた若い騎士の誇りを……大事にしてあげるのね。


「そういう優しいところ、お姉ちゃんは大好きだよ。じゃあシャルロット、どうやって自分の身を守るの?」


 ロッテはじっと虚空を見上げて、しばらく何か考えて……やがて私に、こげ茶色の瞳を真っ直ぐ向けた。


「姉様、私決めた。神聖魔法が苦手な私は、聖女の力に頼って戦っちゃいけないんだよ。私は、私の得意なことで勝負しないといけないの。魔獣と……話す力で」


 ああ、やっぱりそれか。私は思わず天を仰いだけれど、同時にそのアイデアが一番、ロッテの身の安全を保証してくれる、名案のように思えた。魔獣と、戦うのではなく、和していくことが。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから、ロッテは戦い方を百八十度変えた。


 もちろん、妖魔に対しては全力で戦って浄化するのだけれど、「話」が通じる魔獣に対しては武力を用いることなく、ひたすら住民との和合を説いていった。周囲の人間たちの無理解には苦労したようだけれど、ロッテの共生路線がその成果を挙げはじめると、人々の懐疑と非難は、徐々にだけど共感と賞賛に変わっていった。


 私も、ロッテの方針に全面的に賛成した。教会の中には魔の眷属と和を結ぶことに関して非難する原理主義者もいたけれど、最年少で首席聖女に昇格した私が教主様に直接ネジ込んで話をつけたことで、誰もロッテの手法に異を唱えなくなった。少なくとも、表向きは。


 そして、ロッテが聖女としての一年目を無事に終えた頃、彼女は出会った……あの人と。


 最初は積極的な第二王子アルフォンス様に引っ張られていたようだったけれど、瞬く間にあの優しく明晰な王子に魅かれていって……やがて婚約した。私がロッテに先立って、第一王子フランソワ様と婚約していたから、リモージュ家は次代王妃を出すことが確実となった。いずれの王子が、後嗣となるとしても。


 そう、このご兄弟は、弟君のほうが思慮深く、支配者たる器をお持ちだった。それを理解していた国王陛下は、なかなか第一王子たるフランソワ様を、王太子に指名なさろうとなさらなかった。私から見ても、癇癪持ちで疑い深いフランソワ様は、大国の王には向かないように思えた。私を愛してくださっていることだけは、確かなのだけれど。


 陛下のはっきりしない態度が、貴族達をフランソワ派とアルフォンス派に分裂させ、陛下が病に倒れられた後は、その対立は決定的となった。勢力は半々と見えたけれど、高潔で人望あると評判の人物は、概ねアルフォンス様に与していた。残念だけれど、フランソワ様は自らにおもねる輩を重用される方……やむを得ないわね。


 首席聖女の私がどちらかを支持したならば、争いは短期に決着したのかも知れない。しかし聖女は神に仕える存在であり国政に関与すべきではない、ましてや私は第一王子の婚約者、後継者選定から距離を置くべきだ。そう考えた私は騒動から一線を引いていたのだけれど……今はその判断を後悔している。どんな形であれ早期に決着をつけておけば、ロッテが政争の具にされることは、おそらくなかったのだから。


 西地区担当の聖女デボラから応援要請を受けて国境近くの辺境に遠征をしていた私に、妹の異端認定、聖女資格剥奪と追放の報が入ったのは……一向に現れない妖魔を探して、デボラに一週間引きずり回された後だった。なんのことはない、聖女デボラは、ロッテの異端審判をやっていた連中と、グルだったのだ。


 私はすべてを放り出して王都に駆け戻ったけれど……その時にはすでに、追放された聖女シャルロットが消息を絶って、二日が経っていた。今回の異端審判を仕切ったという枢機卿の、してやったりという顔を横目に、私はロッテの行為を承認していたはずの教主のもとに急いだ。全力でロッテの恩赦を掛け合ったけれど、優柔不断な教主は困った顔をするだけで、何ら言質をくれなかった。


 気が付くと教会は、フランソワ派の牙城になっていたようね。かといって今回の件に関しては、フランソワ様に直訴しても、解決にはならないだろう。この攻撃はフランソワ様のバックにいる有力貴族達の、切り札だったのだろうから。


 次善の策として、私は聖女空白地域になった東地区の担当を申し出、何の抵抗を受けることもなく承認された。もう何の魅力もない王都に背を向け、ひたすら大好きな妹の消息を追い求めた私の耳に、とある村で獣人を連れた聖女が、殴打されて半殺しになったという情報が入った。


 暴行の始終を得々と語る村長に思わず殺意を覚えた私の袖を、こっそりと引いた男性がいた。その男性は傷ついた二人の娘を森の中の岩穴に匿ったが、翌日にはすでにそこからいなくなっていたという。そうか、ロッテは生きて、またその先に……おそらくバイエルンに、向かっているんだ。


 私は定期巡察を装って、暴行があった村からバイエルンの間にある集落をしらみつぶしに捜そうとした。そして、二つ目の村でたまたま、本当にたまたまの幸運で、シャルロッテ……ロッテと名前を変えた、私の可愛いシャルロットに出会えたんだ。



 そして……心ゆくまでお別れができた。とても寂しいけど……すごく前向きになったロッテを見て、本当にほっとしたわ。


 本当は、何よりも愛するロッテとこれっきりなんて、絶対イヤだ。


 もう一度会いたい……会いたいけれど、そのためにはこのロワール王国を、ロッテが帰ってこられるような、まともな国にする必要があるわ。私はその目的のために、この力を使うことを決めた。


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