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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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聖女レイモンドの追憶(1)

ここから二話、お姉様の一人語りになります。

 窓からロッテの姿が遠ざかって……私はようやく、聖女に与えられる無駄に豪華な馬車の、無駄に柔らかい座席に身体を沈めた。別れる時に必死でこらえていた涙が、今になってあふれて止まらない。


 シャルロット……いや、今はロッテか。私のたった一人の、可愛い妹。また会おうと約束したけれど、彼女がバイエルンを目指し、私がロワール王国の首席聖女である以上、おそらくそれは、一生かなわない約束になるのだろう。


 一番古いロッテの記憶は、多分私が三歳、ロッテが一歳になったばかりの頃。私と似ても似つかぬ……お父様やお母様、そして他の男兄弟の誰とも似ていない真っ黒の髪と濃いこげ茶色の瞳……不思議に引き込まれそうな雰囲気をもつ乳児が、一生懸命何かを求めて、その小さな、とても小さな手を伸ばしている。私が思わず手を差し伸べると、ロッテが私の人差し指をしっかり握りしめ、いつまでも離さなかった。侍女が優しく引き離すと、ものすごい勢いで泣きだして、もう一度私の指を差し出すと、またぎゅうっとつかんで、ニコニコと笑うんだ。


 ああ、私がこの子を守ってあげないと。三歳児のくせに、なぜかそんな殊勝な決意をしたのを、今でも覚えてる。


 ロッテは、幼児の頃から不思議な魔力を持った子だった。私は生まれつき他人の魔力が見えるのだけど、ロッテはいつもものすごい量の魔力をあふれさせていた。それも、普通の人間とは異質の魔力を。人間の魔力は青色、獣人や多くの魔獣は緑色の魔力オーラを放っているのだけど、ロッテのそれは深い紫色。


 魔力が容量を超えると体調が悪くなるロッテのために、余分な魔力を魔道具に注ぎ込むことを考えついたのは、まだ幼い私だった。灯りや煮炊きに使う魔道具の動力源として魔力は必須だから、エネルギーが空っぽになった魔道具を商人から回してもらって、ロッテに抱かせると、魔力が魔道具に移る。満タンになった魔道具を、また商人に戻して販売する。さすがに外部との交渉は家令にやってもらったけど、これはロッテの健康と、伯爵家の財政に、かなり効果があったみたいなの。商人さんにもずいぶん喜ばれたそうよ。


 一方私は、七歳になると教会で受けさせられる魔力測定で、三十年来という高い数字を叩きだしたらしくて、その時点から上級聖女候補として英才教育を受けさせられた。将来は首席聖女も夢ではないと、教会の幹部から賞賛されたんだけど・・魔力量に関してはロッテの方がはるかに優ることを、私は知っていた。その時はまだ子供だったし、姉妹肩を並べて国民のために働けたら素敵だなとか、単純に考えていたんだけど。


 そして、二年後。ロッテの魔力測定で計器が振り切れ、教会は色めき立った。上級聖女、首席聖女どころではない、数十年ぶりの大聖女候補が現れたと大騒ぎになった……あくまで、その時だけは。間もなく大人たちは、ロッテの魔力が聖女の操る神聖魔法にはなんら役に立たないことを、数々の実技試験で確認することになり……やがてみんな、ロッテへの関心を失った。教会だけでなく、お父様やお母様さえも。


 だけど、みんなが興味を失ったロッテが、とんでもない能力……この国の誰も持っていない能力を持っているのを、私は知っていた。それは、ロッテが五歳の時……リモージュ伯爵邸に魔犬が入り込み、衛士が必死でそれを追っていたとき……姿の見えないロッテを探していた私と家庭教師が見たのは、狂暴であるはずの魔犬と頭をすり合わせながら、何やら話している妹の姿だった。


「あ、姉様。この犬さんの子供がね、うちの薔薇園に迷い込んだみたいなの。だから心配で来ちゃったんだって。一緒に、探してあげよう?」


「シャルロットお嬢様? お嬢様は、魔犬とお話が出来るのでございますか?」


 家庭教師が、顔色をまっ青に変えつつ、ようやく言葉を絞り出す。


「うん。あれ? アレットは、できないの? お姉様も?」


 アレットというのは家庭教師に雇っていた男爵未亡人の名前だ。私はアレットと顔を見合わせ、事態の深刻さを眼で共有した。


 素早く薔薇園に魔犬をいざない、その子供を確保すると、勝手口を開けて魔犬を逃がす。そうしてほっと一息をつくと、私達二人は、ロッテに向かい合った。


「シャルロットお嬢様。先ほど私達の前で、魔獣とお話されておられたのですよね」


「うん、そうだよ」


「お嬢様、そのような業、他人の前で絶対に使ってはなりませぬ、そしてそのようなことが出来ることも、決してしゃべってはなりませんよ」


「なんで?」


 ロッテは無邪気な笑顔で反問する。


「お嬢様のなさったことは、普通の人間に出来ることではないからです。そのような力があると教会に知られたら、異端の者として、火あぶりにされかねないのですよ」


 幼いロッテには刺激が強すぎることを承知で、実直で厳しい……それでいて芯は優しい家庭教師アレットが告げる。予想通りロッテは真っ青になって震え、涙をぼろぼろ流している。私はロッテの頭を抱き締める。


「ねえシャルロット、シャルロットの力はとても素敵だと思うわ。でも大人ってね、自分の出来ないことをする人を、こわがっていじめるものなの。だからその力は、決して他の大人たちの前で使わないで、お願い、お姉ちゃんに約束して。ね……」


「うん……うん……っ。使わない、使わないから……」


「大丈夫。お姉ちゃんが守ってあげるからね、大丈夫だよ……」


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