村長さんの家で
美味しいお料理とちょっぴりお酒を囲みながら、私達と村長さん一家は懇親を深めている最中だ。
「いやはや、なんとも美しい聖女ご姉妹ですな! まさに女神のようなお美しさをお持ちの姉君に、まるで精霊のように神秘を感じさせる可愛らしい妹君…実に絵になるお二人ですな。その上妹君には、魔犬の件で大変お世話になっておりまして、村全員がかねてより御礼を差し上げねばと……」
節度を知っている村長さんは「なあんだ、姉妹なのに全然似ていませんなあ……」とは決して口にしない。まあ胸の中では、絶対そう思ってるはずなんだけどね。
「過分にお褒め頂いて光栄ですわ。そして私達のめざす目的にご協力頂いていること、本当にありがとうございます。この村では妹の望んでいる人と魔獣の共生が、村長様のお陰をもって、ことのほかうまくいっているようですわね。ぜひこの関係を、末永く続けて頂きたいですわ」
「あ、はっ、も、もちろんでございます! もう以前のように魔獣や妖魔の襲来におびえる生活には、戻りたくありませんからな。ここは私が先頭に立ちまして、魔犬達との協力関係を続け……」
レイモンド姉様と村長さんが、和やかに談笑している。
結局今晩のところは、姉様一行も私達もこの村にお世話になることにしたのだ。姉様のお供をしてきた騎士様たちは村人の家に分宿していて、私と姉様、そしてクララは村長さんのお屋敷に泊めて頂くことになった。
それにしても、やっぱりレイモンド姉様ってすごいわね。村長さんとは初対面だったはずなのに、もう巧みな話術ですっかり打ち解けてしまっているみたい。近い将来お妃様になっても、隣国の王族や貴族との外交に、国内貴族たちとの社交にと、立派にお務めを果たされるのだろうな。
一方の私は、こうやってもてなしてもらっても、全然気の利いた話ができなくて、黙々と食べているだけになってしまう。そんなにたくさんは食べられないんだけど、ね。姉様みたいに堂々と……とは言わないけれど、もう少しなんとかしないと、いけないよね。
「それで、妹御は聖女をお辞めになられるとおっしゃっていましたが、これからどうなされるので? さては、良きお相手が見つかったのでしょうかな。妹御は可憐でしかも謎めいた美しさを秘めた御方、きっと求婚の申し込みも引く手あまたと」
村長さんがせっかく気を遣って私に話を振ってくれているのに、私は紅くなってぷるぷる首を振ることしかできない。ああ、ダメだよね、お子様だよね……これじゃ王子の婚約者とか、務まんなかったはずだよね。
「ふふっ、妹は純情なので、殿御とお話しするのが苦手なのですよ、お許しくださいね。妹は……聖女を辞めて、知らない土地を見聞するために旅に出るのだと申しておりますわ。姉としては心配なのですが……まだ若いですし、気の利く侍女もついておりますので、一度広い世界を見せてあげることも必要かと、妹の決心を応援したいと思っておりますのよ」
こうやって、姉様がさっと大人のフォローを入れてくれるの。大人って言ってもたった二つ年上なだけなのに……中味の成長度は、はるかに姉様に引き離されてるのよね。
「なるほど、可愛い子には旅をさせろと申しますからなあ……では、ここから西へ、王都の方に向かって……」
「いえ、北東のほうへ行こうかと……」
私が正直に言うと、村長さんは驚きに眼を大きく見開いた。その眼には少しく恐怖の色が混じっているようにも見える。
「北東……この村より北東へ向かえばそこは深く暗き森。そしてサーベルタイガーの支配する森でもありますぞ」
「あっ、そうでしたね。でも私は、サーベルタイガーさん達とも、知り合いと言えば、知り合いですので……何とかなるのではと」
全力で止められてもかなわないので、ここだけはちゃんと説明しておかないとね。そう、今の私はサーベルタイガーより、王都の教会から来る人間達の方がよっぽど怖いんだよ。
「おお、魔犬と我々の縁を結びし聖女殿は、あのサーベルタイガーとも意を通じることが……実に大したものですな。そうすると姉君も、同じように魔獣と意志を通わせることが出来ますので?」
「魔獣との交感は、妹にしかできないことですのよ。おそらくロワール王国では、このロッテにしかできないかと……我が妹ながら素晴らしい力だと、誇りに思っておりますの」
姉様、そんな風に褒められると、面映ゆいというかなんというか。でも、とっても嬉しいよ。
「いや、まったくですな。そのような貴重な才をお持ちの聖女様が来て下さったのが、当村の幸運ということだったのでしょうなあ……」
また私は、照れて耳まで紅くなった。
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