決戦準備
副司令様は悲愴な覚悟を決めたようだ。住民を巻き込むまいという志は立派だけど、第三の選択肢もあるんじゃないかな。
「あの……敵兵は約千人とおっしゃいましたよね?」
唐突に口をはさんだ私を、怪訝そうに見る副司令様。そりゃそうよね、どう見たって軍事とは縁のなさそうな小娘なんだもの。
「君は……?」
すかさず村長さんが、何やらごにょごにょと副司令様に耳打ちする。
「ああ、噂の『黒髪の聖女』とは君か。確かに敵は千人と見積もられているが、何か言いたいことがあるのかね?」
副司令様が寄せていた眉を開いて反問する。良かった、村長さんがうまく説明してくれたみたいで、私の話を一応聞いてくれるみたいだわ。
「相手が千人くらいでしたら……正規兵五百と村の人が協力すれば、勝てると思います」
「何だと?」
「この村にはある程度の敵を防げるよう、備えがしてありますので」
「村を取り巻く土の外壁のことか? 確かに騎兵の突撃は防げるが、あれだけ数的優位の敵だ、あっという間に歩兵に取りつかれ、よじ登られてしまう」
まあ、そう思うよね。
「ええ。ですから外壁は当てにしません。外壁の中に敵を誘いこんで決戦するのです」
私は副司令様に、四万本を超える矢の備蓄、鉄モグラさんに造ってもらった罠、さらにこれまで秘密にしていた仕掛けを丁寧に説明した。彼は最初ぽかんと呆気にとられた表情をしていたけど、徐々にそれが驚きに、そして希望に満ちた顔に変わっていくのが見えた。
説明を終えて数分、副司令様は沈思黙考していたけれど、やがて明確な決意を刷いた眼を私に向けた。
「聖女殿、恐れ入った。確かにそれだけの備えがあれば、我々の寡兵でも敵を打ち破れる可能性がある……よし、その策に乗ろう。そして、こたびの戦に限ってだが、我々正規軍は聖女殿の指揮に従う。どうか指示を」
「我々ルーカス村の者達も、もちろん聖女さんの下知に従うぞ!」
副司令様と村長さんが力強く協力を約束……じゃなくて、何で私が指揮することになるの? だいたい、戦争の指揮なんてやったことないよ?
「おう!」「聖女様がいるんだ、負けるわけねえ!」「がんばりますわ!」
村の人たちが次々はしごを外してくる。いや、だから、私には無理だって!
◇◇◇◇◇◇◇◇
結局、流されやすい私は、押し切られてしまった。
正規兵五百人と、村の住民八百人の生命が、ずっしりと私のメンタルにのし掛かってくる。あ~っ、これは重いわ。
「はぁ~っ、大丈夫かしら……」
「大丈夫だよロッテ。あれだけの仕掛けを造ったんだからかなり戦えるだろう、それに俺がサーベルタイガーに戻れば、数十人くらいはすぐ片付くし……魔法使いや魔剣持ちさえいなければな」
「そうさロッテ姉さん。僕が竜に変化すれば百人以上、炎のブレスで一気に片づけられるよ。今は雪が積もってるから火事の心配もないし、思い切り炎が吐けるからね」
ヴィクトルとカミルが励ましてくれる。でも、私は彼らの提案を素直に受けるわけにはいかないのだ。
「そうよね、みんなが魔獣の姿をとって戦えば、勝てる確率がグッと上がると思うわ。だけど、今回に限っては、獣化を最後の手段にしたいの。できるだけ、人間の姿で戦って欲しいわ」
「なぜでございますの?」
クララには、私の考えが意外だったらしい。手足を縛った上で戦えって言っているようなものだからね。うん、これはちゃんと説明しないと。
「みんな、あの司令官の振舞いを見たわよね。責任は人に押し付け、功績は全部自分のもの。有能な部下は弱みを握って従わせる。こんな奴がクララ達の獣化能力を知ったら、どうなるかしら?」
「思うさま目一杯こき使われたあげく、最後は何やら罪を着せられて処断……というところだろうな」
「うん、ヴィクトルの予想通りだと思うの。あの司令官は危なすぎるわ、だからその部下たちには、獣化の力を見せないほうがいいのよ。もちろん死にたくはないから、最後の最後には、使ってもらわないといけないのだけど……」
「ちぇっ、今回こそはお姉さんにカッコいいところを見せられると思ったんだけどなあ……」
ちょっぴり口をとがらせるカミル、可愛いわ。
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