私の気持ちって?
誤字修正恐れ入ります!
初めて聞く、クララのお父さんと、お母さんの恋物語。
その終わりの凄絶さに、私はしばらく、身動きすることもかなわず、ただただ涙を流していた。
「申し訳ございません。ロッテ様を悲しませるためにこの話を差し上げたわけではないのですが……少し配慮が足りませんでした」
「ううん……私が泣き虫なだけ。ごめんなさい……クララが、そんな悲しい思いをして私の家に来たなんて、全然知らなかったの」
私の知っているクララはいつだって気丈で、強くて、そして美しい。そのクールで凛々しい表情の下に、こんな悲しい過去を持っていたなんて。能天気で天然な私は……まったく気付かないまま彼女の優しさに、甘えていたんだ。
「私にとっては、もう過去のことです。今、ロッテ様やビアンカ達とこんな楽しい暮らしができているんですもの、本当に幸せなのですよ。私がこの話をさせて頂いたのは、こんな平和とは言えない世界に生きている私達には、種族の特性である寿命なんてものは、あまり意味がないとロッテ様にわかって頂くためです」
「意味がない……?」
「父は魔狼でした。魔狼も静かに森の奥で暮らしていれば、人間の倍は長生きする上位種です。でも、はるかに短命な人間であったはずの母よりも、先に逝ってしまいました」
「確かに、そうだけど……」
「大陸の国々は戦争ばかりしていて、街道には盗賊が跋扈して、妖魔があちこちに現れる。こんな現代では、天寿を全うできるなんてのはレアケースですわ。百年先のことなんか考えたって、意味はありません。今この時の人生を、思い残すことのないように輝かせなければいけないのですよ」
「一緒に幸せに暮らせる時間が、ほんの十年やそこらだとしても?」
「ご存じのように母も、あれからわずか一年で死んでしまいました。二人とも種族の平均寿命より、ずいぶん早く旅立ったのですが……母は亡くなる前に何度も私に言いました。その短い生涯の中で、二人愛し合った十年間は本当に幸せに満ちて輝いていたんだ、悔いはないと。そして父も、同じことを思っていたのだと」
翡翠の瞳が、一層真剣味を帯びて光る。
「じゃ、クララは私に、ヴィクトルと早くくっつけって言いたいの?」
「ロッテ様の想いが本物であれば、ですわ。まあ、私の拝見したところ、まだ本当かどうか御迷いになっていらっしゃるようですわね。お心が定まるまで、ヴィクトルさんにロッテ様をお渡しするわけには、まいりませんね?」
「うぐぐ……」
からかわれているみたいでちょっと悔しいけど、クララは本気で私を応援してくれている。うん、そうだね。今の気持ちを、大事にしよう。そのためには、私自身の気持ちを、確かめないと……私は、ヴィクトルを男性として、好きなのかしら?
◇◇◇◇◇◇◇◇
ルーカス村で迎える初めての冬は、その日が来るまで実に平和だった。
畑には一面に雪が積もっていて農耕作業はお休みだけど、妖魔石像のお陰で獣害がなかったから秋の収穫がとっても多かったので、食料備蓄はたっぷりあって心配はない。なので、村の男達には弓矢の訓練を、老人や子供には矢の製作をペースアップしてもらっている。
私達はちょっと寒いけど毎日森に出て、相変わらず狩りに精を出している。動物性たんぱく質に関しては、備蓄しておいた燻製肉だけでは、間に合いそうもなかったからね。
ヴィクトルへの気持ちについては……まだ、私は考えることから逃げている。急に彼を意識して一時ぎこちなくなっていた関係も、なんとなく表面上はいつも通りに戻った……んじゃないかと思う。二人だけになった時には、熱気のこもった視線を感じることがあるのだけれど、あえてそこに気付かないふりをしている、臆病な私なのだ。
だけどヤバいのが、魔力チャージの時だ。
ヴィクトルに魔力をあげるには、相変わらず添い寝しかないのだけれど……これだけ意識してしまった後では、さすがに夜の添い寝には、なにやら危険を感じてしまう。なので、彼へのチャージは「お昼寝」でお願いしているのだ。お昼寝とは言っても彼に密着すると胸の鼓動が勝手に速くなってしまったりするのだけれど……ヴィクトルの最高級もふもふ寝具に包まれると、それでもあっという間に安眠出来てしまう私なのだった。ヘンかな?
ちなみにヴィクトルに言わせると私との添い寝は「気持ちの良いがまん大会」なのだそうだ……さすがに私も子供ではないので、今となってはその意味を、わかっている。悪いとは思っているけど、まだ自分で自分の気持ちが整理できないの、もう少し待って欲しいかな。
そんな私のちっぽけな悩み以外はとっても平和だった村のスローライフは、騎馬の蹄音で破られた。
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