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心に溢れる不安

 困惑した表情を隠しきれないまま、セインは部屋を後にした。

 それを確認してから、私は自分の身体を両腕で抱きしめる。

 ……小刻みにふるえる自分の身体を。

 その状態のまま、私はかすれた声で呟く。


「何で、何でこんな……」


 信じられないと言い放ちつつ、その実私はセインが嘘を言っていないことを理解していた。

 あんな嘘をつく理由なんてないし、何よりセインの話は筋が通っていた。

 もちろん、私に手紙が来なかったことは不思議ではある。

 とはいえ、何故かアルフォードだけ手紙の返信が帰ってきてなかったことを考えれば、何かあったのだとは容易に想像できた。

 おそらく、アルフォードの手紙はきちんと来ていたはずなのだ。


 そう、頭では理解できているのだ。

 なのに、私の心はどうしても受け入れることができない。

 胸にあふれんばかりの不安が、私が冷静に考えることを阻害する。


 セインは、今まで私にとって唯一の恋心を打ち明けた存在だった。

 なのに、そのセインの言葉さえも、私は受け入れられない。


 本来であれば、婚約が偽装であることは私にとって嬉しいことであるはずだった。

 しかも、セインの話ではアルフォードが私に思いを寄せてくれているはずなのだ。

 それは私にとって、まさに歓喜すべき状況。


「どうして? 喜んで、喜んでよ私」


 なのに、私に胸に増していくのは不安だった。

 その不安は私に囁いてくる。


 ……そんな都合のいいことがあるはずない、すべて嘘だと。


「そんなことない。皆が嘘をつくわけがない……!」


 その考えを、私は必死に振り払おうとする。

 優しい皆が、私を騙すような嘘をつくわけない。

 そのことを知っているが故に、私は自分に言い聞かせる。

 ……しかし、そのときに私は気づいてしまった。


「それじゃ、私を傷つけない嘘なら?」


 絶対に考えてはならなかったことに。


 瞬間、私の顔から血の気が引く。

 そして、今更ながら考えるべきでなかったと気づくが……もう遅かった。

 もう、思考は止まらない。


 もし、そうだっら、それが嘘だったら。

 私は一体どれだけ皆に迷惑をかけることになっているのだろうか。

 私を元気づけるために、婚約をなかったことにする。

 それは、あまりにも大きすぎる決断だ。

 たとえ、親友であってもそんなことはふつうはできない。

 そして、そこまでしてもらって、私がなにも返せなかったとき。


 ──そのときも皆は、私を友人と認めてくれるだろうか?


「あ、ああ、」


 最悪の想像に、私は自分の顔を覆う。

 いやな考えから逃げだそうとするように。

 だが、もうそんな抵抗は無駄でしかなかった。

 私の脳裏、ある言葉が蘇ってくる。


「お前は幸運だっただけの無能だ、サーシャリア」


「ええ、勘違いするんじゃないわよ」


 ……そう、帰ってきた私にお父様とお母様が告げた言葉が。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 手紙がサーシャリアの手元に届かない事は、伯爵家では使用人を含めサーシャリアの扱いが悲惨であったと明らかにされている流れなのに、その点に登場人物達が予想しない事がちょっとモヤモヤするんで…
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