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生まれた食い違い (セイン視点)

 それから俺は、ゆっくりと偽装婚約について話した。

 アルフォードの手紙の件から、ソシリアと俺の事情。

 そして、もう俺とソシリアが思いを隠す必要はないこと。


 ……アルフォードが頑なに、婚約について言うことを拒否していたのをのぞき、俺はすべてを語った。


「そう」


 そして、そのすべてを語った直後、サーシャリアが口にしたのは一言だった。

 その言葉に対し、俺はなにもいえない。

 そうさせるだけの何かを、今のサーシャリアは発していた。

 ただ、無言でたたずみながら、今更ながら俺は気づく。

 もしかしたら、何かやってはならないことを自分はしたのではないかと。


「……ごめんなさい、私はその話を信じられないわ」


「なっ!?」


 けれど、そのサーシャリアの言葉は、そこまで理解していてもなお、予想外の言葉だった。

 一体なぜ、その言葉が俺の脳裏を支配する。

 これだけ丁寧に説明して、そう拒絶されるなど、俺は一切想像していなかった。

 隠したことは、アルフォードのことだけ。

 それで、話の信憑性が下がるとは思えない。

 それ故に、俺は呆然と尋ねる。


「何でだ? 何か説明したりないことでも……」


「……いいえ、確かに真に迫る話だと思ったわ。でも、私はどうしてもあり得ないと思うわ」


「どうして?」


 俺が呆然と尋ねると、サーシャリアは少し悩んだ後告げる。


「……私は、アルフォートの手紙なんてもらっていないからよ」


「は?」


 その言葉に、俺は呆然とサーシャリアを見つめる。

 俺の視線に、サーシャリアは気まずげに目をそらす。

 それでも俺には、決して嘘をついているようには見えなかった。

 だが、アルフォードが嘘をついていることもあり得ない。

 サーシャリアに振られ、呆然としていたアルフォードの姿が、その可能性を否定する。


 アルフォードを振ったのは、そのときすでに婚約が決まっていたから……そうだったと、今までの俺は考えていた。

 おそらく、このことを知る多くの人間がそうだろう。

 そう勝手に自分の中で結論を出していたが故に、俺は衝撃を隠せない。

 その衝撃のままに、俺はサーシャリアに詰め寄る。


「待って、それはどういうことだ? アルフォードは確かに……っ!」


 ……そして、サーシャリアの強い疲労の滲む表情に俺が気づいたのは、そのときだった。


「ごめんなさい、セイン。私もすれ違いを話し合いたいところなのだけど……そんな余力はもうなくて」


 俯き、申し訳なさのこもる声で、サーシャリアは続ける。


「できれば、今日は休ませてくれないかしら」


 そういわれて、今更ながら俺は気づく。

 今日は、マルクやリーリアも訪れていた。

 サーシャリアも疲労していてもおかしくないことを。


 ……そのことに気づいたとき、もう俺にサーシャリアに詰め寄ることはできなかった。


「あ、ああ、そうだな。疲れているときにすまない」


「いいえ、そんなことはないわ」


「……それじゃ、お大事に」


 そう告げて、俺は部屋を後にする。


 ──しかし、部屋から出た後も俺の心は動揺したままだった。

 次回からサーシャリア視点となります!

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