思いもせぬ反応 (セイン視点)
「え?」
想像もしていなかったらしい俺の言葉に、サーシャリアは呆然と言葉を失う。
そこに、俺は畳みかけるように続ける。
「アルフォードとソシリアの婚約について、少し話したい」
そういいながら、俺はソシリアにいわれた言葉を思い出す。
呼び出されて、頼まれたことを。
「サーシャリアに、貴方の口から婚約が偽造であることを教えてあげてほしい」
そう、俺があのときソシリアに頼まれたのは、婚約をサーシャリアに教えることだった。
そして、なぜ俺にそのことをソシリアが頼んだのか、その理由も俺は理解していた。
即ち、サーシャリアがアルフォードの思いを打ち明けたのが俺だけだからと。
だから、ソシリアは俺にサーシャリアにこのことを明かすよう頼んだのだろう。
サーシャリアが一番その話を受け入れやすいと判断して。
……とはいえ、まさかこの俺がサーシャリアに伝えるはめになろうとは。
呆然としているサーシャリアを見ながら、俺はそう思う。
自身が恋愛に不器用であるくらい、俺はとっくの昔に知っていた。
それ故に、降ってわいてきた状況に、俺はため息をつきたくて仕方なくなる。
しかし、これもサーシャリアとアルフォードの関係を深めるため、そう覚悟を決めて俺は口を開く。
「……実はこれは、サーシャリアの体調さえよければ、もっと早くにしようとしていた話なんだが」
「それは、婚約に関係している話なの?」
「ああ」
そこで、一瞬言葉を区切った俺は、サーシャリアをまっすぐ見つめて告げる。
「アルフォードとソシリアの婚約、それは偽造だ」
「……っ!」
瞬間、サーシャリアが浮かべたのは、今までに見たことがないほど、呆然とした表情だった。
それに俺は、場違いだと理解しつつも思わず笑ってしまいそうになる。
それほどに、サーシャリアの浮かべた表情は、呆然としたものだった。
小さく笑みを浮かべながら、俺は口を開く。
「お前でも、そんな表情を……っ!」
しかし、俺がそう笑ってられたのは、サーシャリアの目を見るまでだった。
……サーシャリアのその目には、なにも浮かんでいなかった。
まさに虚無、まるで何の感情も読みとれないその目を見て、俺はただ呆然と立ち尽くす。
そんな中、サーシャリアはゆっくりと俺のほうに目を向ける。
そのときには、先ほどのような感情を感じることはなかったが、それでも俺はなにもいえない。
そんな俺へと、サーシャリアはゆっくりと口を開く。
「ごめんなさい、ちょっと信じられないわ。事情を教えてもらっていいかしら?」
「あ、ああ」
その言葉に、何とかそう言葉を絞り出した俺は、ゆっくりとこの婚約について話し始めた……。




