遅かった提言 (マリア視点)
「そう、ですか……」
ソシリア様の言葉に、私はそう頷いて見せる。
しかしその実、内心では衝撃を隠すことができなかった。
……なぜなら、私にはどうしてもサーシャリア様が悩みを抱いているようにしか見えなかったのだから。
それ故に、ソシリア様までもそう断言しなかったことに、私は内心動揺を隠せない。
……もしかして、私の見間違いなのだろうか。
そんな思いが、私の胸の中よぎる。
しかし、すぐに頭を振って私は正気を取り戻した。
私が間違っていようが、アルフォード様にサーシャリア様の思いが伝わることは悪いことではないのだ。
ならば、それだけを考えていればいい。
そう覚悟を決めた私は、ソシリア様へと口を開く。
「そうだとしても、一つアルフォード様のことでお願いをしたいのですが、よろしいですか?」
私の言葉に、一瞬ソシリア様は目を見開き、しかしすぐにその顔を真剣なものに変えた。
「……婚約の偽装のことね?」
「はい」
頷いた私は、ソシリア様へと頭を下げる。
「一侍女の身分として、出過ぎた言葉だと理解しております。アルフォード様にも何か考えがあるのだとも。それでも、どうか……! 今のサーシャリア様には、支えとなるのが会った方が良いように私は思えてしまって!」
「……マリア、頭を上げて」
「いいえ、お答えをいただけるまで、私は頭を上げません!」
……いくらお優しいソシリア様相手でも、許されないかも知れない。
そう思いつつ、私に頭を上げる気はなかった。
例え私がどうなろうとも、サーシャリア様だけは。
その思いで、私は頭を上げない。
「マリア、頭を下げる意味なんかないのよ」
「いえ、お願いします」
「そ、その、もう手は打っているから」
「……え?」
私が呆然と顔を上げると、ソシリア様は申し訳なさそうな表情で告げる。
「マリアには伝えておくべきだったかもしれないわね。ごめんなさい……」
「い、いえ、そんな。それよりも、手を打ったって? いつのまに……?」
「実のところ、マリアを呼び出したのもその為だし」
「……っ!」
その言葉に思わず息を呑むと、ソシリア様は悪戯ぽっく笑う。
「暴走したアルフォードと、サーシャリアどっちを優先するか、そんなの決まっているじゃない。それに私は言わなかったかしら」
そう言って、ソシリア様は誇らしげに告げる。
「私の知る限り、一番強い人に頼んだって」
次回から、サーシャリア視点となります。




