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想像もしない状況

「……誘惑?」


 その言葉を呟きながら、呆然と私は考える。

 一体何を、その言葉を示しているのかと。

 だが、そうして私が考える暇さえ、お父様は与えてくれなかった。


「信じられないか? アメリアに子供できれば、何よりの証拠になるのだがな」


 もう、私は目をそらすことはできなかった。

 はっきりと私は理解する。


 ……お父様は、カインが不貞を働いたと言いたいのだと。


「嘘をつかないで!」


 お父様を睨みつけ、私は叫ぶ。

 そんなこと、信じられるわけがなかった。


 私の頭の中、今までカインと過ごした日々が蘇る。

 カインは、伯爵家で疎まれている私に対し、優しく接してくれていた。

 お父様の話が本当ならば、その裏でカインが不貞を働いていたことになるのだ。


「私は騙されませんよ。本当にそうだと言うならば、きちんと調べさせて頂きます」


 故に、私はありえないという気持ちに背を押されるように、お父様にそう言い放つ。

 私はもう事業に関わっていないが、その際に培った人脈全てがなくなったわけじゃない。

 調べようとすれば、完璧にカインとアメリアの動向を調べることができるだろう。


「ああ、やってみろ。すぐに分かるさ。私が本当のことを言っているとな」


 だが、それを知っているはずのお父様から、余裕がなくなることはなかった。

 それどころか、その表情には自信が満ちている。

 私は何とか、拳を握りしめてはったりだと自分に言い聞かせる。


 ……それでも、私は自分の心が揺れているのを感じずにはいられなかった。


 私が今まで、アメリアに一方的に詰め寄っていたのは、カインは婚約破棄に不本意だと思っていたからだった。

 私に婚約破棄を告げた時のカインの罪悪感に歪んだ顔。

 それが何よりの証明だと思って、私は今まで必死に動いてきた。

 けれどもし、その私の考えが間違っていたとしら。


 ──ぴしり、と心のひび割れた音が聞こえる。


「分かってくれたかしら、サーシャリア。私達は貴女のためを思って、言っているのよ」


「そうだ。お前は、何も気にせず私達の言う通り、伯爵家に戻ってくればいい」


 私に、両親が何か言葉をかけているのが分かる。

 しかし、その全てを無視して、私は呆然と呟く。


「確認、しなきゃ」


「……っ! サーシャリア!」


 そうして私は扉を出ようとするが、寸前で腕を掴まれる。

 ゆっくりその方向に顔を向けると、私の腕を掴むお父様の顔には、強い焦燥が浮かんでいた。


「どこに行くつもりだ、サーシャリア」


「侯爵家です。カインに、カインに聞かないと……」


 そう呟く私の中、人をやって調査するなんて考えは残っていなかった。

 あるのは一つ、事実を確認しないといけないという思い。

 そんな私の様子に、何故かさらにお父様の顔に浮かぶ焦燥が強まっていく。


「こんな時間から侯爵家に行くなど、何を非常識なことを言っている!」


「そうよ。落ち着きなさい、サーシャリア!」


 それでも私は止まらず強引に、両親を振り払う。

 そして、御者を呼ぼうと口を開く。


「今から、侯爵家に行くわ! 誰か御者を……」


「この、馬鹿娘が!」


「……っ!」


 ……お父様が私を殴ったのは、その時だった。

 頬に走った痛みに、少し冷静さを取り戻した私は、呆然とお父様を見る。

 血走った目で私を睨むお父様からは、先程まで存在した余裕は、一欠片たりとも見つけられなかった。

 お父様の背後に立つお母様の顔も、青白い。


 ……その態度の急変の理由が分からず、私はただ二人を見ることしかできない。


 そんな私を、激しい怒りのこもった目で睨んだ後、お父様は叫ぶ。


「親のことを聞かない親不孝者が! 少し頭を冷やしてこい!」


 騒ぎに反応したのか、いつの間にか部屋の側には、使用人が集まっていた。

 その一人に、お父様は言い放つ。


「おい、誰かサーシャリアを屋敷の外へと引っ張りだせ! 決して、馬車など出すんじゃないぞ!」


「なっ! お父様!?」


 思いもよらぬ言葉に、私は動揺するが、お父様が言葉を訂正することはなかった。


「……失礼します」


 一応の断りの言葉の後、つかみかかってきた使用人に抵抗する。

 しかし、その抵抗も虚しく、私は屋敷から追い出されることとなった……,。

度々のタイトル変更申し訳ありません!

これで、タイトルを確定させて頂きます!

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