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嫌な予感 (マリア視点)

「マリア、どうしたの?」


 ノックしてすぐに、サーシャリア様の声が帰ってくる。

 その声に、僅かな不安が浮かんでいることに気づいた私は、思わず苦笑してしまう。

 サーシャリア様の部屋の扉はかなり厚く、外の話が聞こえるようなことはないだろう。

 だが、何人もが長々と扉の近くで話していたことは分からないわけがない。

 そして、突然自身の部屋の前に人が集まっていれば、不安になるのも当然の話だ。


 しかし、その不安はすぐに歓喜に変わるだろう。

 そう考えて、私は扉の外で口元を緩ませる。

 しかし、一度浮かれる気持ちを抑え、私は口を開いた。


「実は、アルフォード様がお仕事に戻られましたので、ご報告を」


「……そう、アルフォードも忙しいものね」


 その瞬間、サーシャリア様の声に少し寂しさが浮かぶ。

 それをあえて気にせず、私は告げる。


「もう一つ、お客様がおいでです」


「お客様? ……いいわよ、案内して頂戴」


 困惑しつつも、サーシャリア様の許可をもらった私は、マルク様の方を見て告げる。


「それでは、ご案内しますね」


 そして、私は緩んだ口元のまま、扉に手をかける。


「……っ! マルク、リーリア!?」


 次の瞬間、サーシャリア様の歓喜の声が響いた。

 それに答えるように、マルク様。リーリア様は部屋の中に入っていく。


「久しぶりだな」


「サーシャリア! 会いたかったわ!」


 その背中に、私は口元を緩ませながらついていく。

 ……しかし、それはサーシャリア様を見るまでのことだった。


「そんな、いつ王宮に来ていたの?」


 満面の笑みで、マルク様とリーリア様を迎えるサーシャリア様。

 その笑顔には、一点の曇りもない。


 ……なのになぜか、私にはその笑顔が苦しそうに見えた。

 私が思わず固まっている間に、マルク様は懐かしそうに口を開く。


「……もう会うのは、数年ぶりか」


「そうね。本当に来てくれてうれしいわ! 直接から改めて、結婚おめでとう!」


「ありがとうサーシャリア! 本当は真っ先に貴女に、面と向かって報告したかったの……!」


「あら、随分早くに手紙で教えてくれたじゃない。そうそう、マルクもおめでとう! ……だけど、リーリアを大切にしないと許さないからね」


「はぁ? 当たり前だろうが。辺境の人間は恩人と家族は大切にすると決まっているんだよ」


「そう? まあ、あれだけ熱い気持ちを告白していたものね」


「……ソシリアといい、なんでお前らはそう軽々と過去をほじくり返してくるんだよ」


 そうして始まった会話は、和やかなものだった。

 楽しげに会話を交わすサーシャリア様からは、一切違和感を感じない。


 ……どうやら、私の勘違いだったのだろう。


 その光景を見ながら、私は自身にそう言い聞かせる。

 これだけ、楽しそうにしているのに、苦しげに見えるわけがないと。


 そう思いながらも、私は何故かサーシャリア様から目を離すことができなかった。

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