表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/167

新しい日常

サーシャリア視点となります。

 開いた窓からやってくる涼しい夜の風。

 それを全身に受けながら、私、サーシャリアはある書類を読んでいた。

 そこに書かれているのは、私の事業を共同経営していた平民の商会……マルクとカイザスの動向だった。


 そして、そこに調べられていた、二人の活躍ぶりを目にして、私は思わず笑ってしまう。


「この二人なら、心配なかったかしら」


 伯爵家を追いやられたことで、少しだけ私は心配していたのだが、全くの無用の心配だったらしい。

 まあ、当たり前だろう。

 二人は、私など比較にならない超敏腕商人だ。

 伯爵家の事業についても、私の名前を使っているだけで、アイディアを出してくれていたのはほとんど二人だ。

 そうでなければ、凡人で閃など有さない私が、伯爵家の事業を成功させられるわけがなかっただろう。


「……え、でも、何でそこと商売を始めているのかしら? 以前、その商会は経営が危ういって教え……っ!」


 ドタドタドタ、と外から走ってくる音が響いたのは、その瞬間だった。

 普通、令嬢であれ使用人であれ、そんな足音を立てるのはマナー的によろしくないとされる。

 だが、今の私にそんなことを考える余裕はなかった。


 ぱたぱたぱた、と私は外から響いていくる足音に劣らない忙しさで、急いで書類を隠そうとする。


 ……けれど、満足に隠す時間もなく、私の部屋は明け開かれた。


「サーシャリア様ぁ……!」


 次の瞬間、現れたのはプンスカ、と背後に擬音が着きそうなくらい怒ったマリアだった。

 真っ直ぐに私の前にやってきて、仁王立ちになったマリアは尋ねてくる。


「……どうして私が怒っているか、お分かりですね?」


「……どうしてかしら?」


 駄目元で首を傾げると、マリアは目を細めて告げる。


「サーシャリア様、私とソシリア様が、書類を読むのは一日二時間と決めたのは覚えていますね?」


「……分かっているわ」


「そして今、私が書類を置いている部屋を見てみたら、そこには何もありませんでした。どこにあると思います?」


 そう尋ねつつも、マリアの顔は何か疑問を抱いているものではなかった。

 それどころか、確信を持っているとしか考えられないもので、私はそっとマリアから目を逸らす。

 しかし、そんなもので誤魔化されるわけがなかった。


「……ところで、これはなんですか?」


「きゃっ」


 次の瞬間、むんずとマリアは私のお腹を……具体的には服の下に隠した書類を掴んだ。


「何回言ったら分かるのですか、サーシャリア様! 仕事のし過ぎはダメです! 一日二時間と決めたじゃないですか!」


「い、いや、取らないで! 私は何も知らないわ!」


「ここまで来て、白を切れるわけないでしょう! わがまま言うなら、仕事をさせませんよ!」


「いやよ!」


「縋りつかないでください! 何でこれだけこんなに聞き分けが悪いんですか!?」


 そうして私とマリアは、もはや恒例となった書類の取り合いを繰り広げる。


 王宮に来てから十数日、この光景はもはや日課となっていた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ